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呪法奇伝  作者: 武無由乃
序章
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第三話 そして僕は その6

「え?」


潤と操は声のあった方に目を向けた。そこには大きな蜘蛛が一匹這っていてこちらを見つめていた。今の声はこの蜘蛛が発したのだろうか?


【なんとか間に合ったようだな…】


それはこの間会ったばかりではあるが、強烈に印象に残っている真名の声であった。


「え? 真名さんなんですか?

 なんで蜘蛛から声が?」


【少し事情があってな…まあ気にするな】


気にするなと言われて納得できるわけではないが、目の前の蜘蛛から真名の声が聞こえる以上、何かしらの呪術なのだろう。潤はとりあえず、目の前の蜘蛛を真名だと思って話しかける。


「さっき奴が真名さんは死んだって言ってましたが…」


【まあ、似たようなもんだ。

 今ちょっと身動きの取れん状態にあってな、もうしばらくしないと…】


「似たようなもの」とはどういうことかと疑問に思っていると、シオンの方から再び炎のつぶてが飛んできた。


「ハハ!

 もしかしてそれがお前の能力で作った使鬼か?

 もっと力を見せてみろよ!」


妖縛糸ようばくし


蜘蛛は尻から糸を吐き出すと炎のつぶてに向かって飛ばした。糸は的確に炎にぶつかる。再びつぶては空中で爆発四散した。

シオンは二度呪を防がれても気にせず、楽しい遊びをしている子供のようにケラケラ笑った。そしてすぐに、今度はどんな呪を使おうかと思案し始める。

それを横目に操が口を開く。


「ちょっとあんた! 陰陽師なんでしょ?!

 生きてるんなら、この状況なんとかしなさいよ!」


【陰陽法師だ】


そんなことはどっちでもいいことだが、あえて潤は口には出さなかった。

とりあえずは、攻撃が止んでいる今のうちに、この状況を打開しなければならない。


「無限回廊とかいう結界が張られているそうなんですが、なんとかならないんでしょうか?」


【それは、こちらも理解している。そして、解く方法もな】


「本当? 早く教えなさいよ!!」


操が蜘蛛に食って掛かる。蜘蛛はそれを気にした様子もなく答える。


【お前の使鬼・シロウをここに呼ぶことだ】


「!」


潤は今は家にいる白柴のことを思い出した。かの事件で死んだと思われたシロウだが、使鬼としてよみがえっていたのである。


【今お前たちは結界によって外界と隔離されている。

 この結界は強力で、何人も自由に出入りできず、解くのにも相当時間がかかる代物だ。

 しかし、シロウとお前は強力な呪的絆で結ばれている。この結界ですら切れない絆でな。

 そこに、結界にとって致命的なほころびが存在している、それを利用して結界を破壊するのだ】


「シロウを呼ぶ…」


【結界の破壊そのものは私が何とかする。

 君はただシロウを呼んで、ほころびを大きくしてくれればいい】


でも…と潤は思った。もしこの前のように能力が暴走してしまったら。

そんな、潤の心を見透かしたかのように蜘蛛は答える。


【潤、お前の力はとても危険なものだ。

 しかし、お前が強い意志で使おうとするなら、力はお前に答えてくれるだろう。

 結局は、お前の意志次第だ…。さあ、お前は今何がしたい?】


今彼がやりたいことは操を守ることであった。

そしてそのために自分の力が必要だというなら…


その後の潤の判断は早かった。意識を集中して家にいるシロウに呼びかけてみる。


【シロウ…シロウ…】


同時刻、結城家の庭で昼寝していたシロウが反応する。確かに、シロウとの絆は結界で遮断されていなかった。


【シロウ来い!!】


潤はそう強く念じてみた。すると、潤たちの目の前にまばゆく輝く五芒星が現れる。


「わん」


そこから二本の角の生えた柴犬が飛び出してきた。

それを見届けると、蜘蛛は4対ある足をわさわさとうごめかし始める。


霊装怪腕れいそうかいわん


次の瞬間、蜘蛛の脚から光の帯が放たれた。

その光の帯は、周囲を包む結界に浸透すると、結界の呪式に干渉を始めた。


「今度はなんだ?」


そう言ってシオンが楽しげに笑う。

彼はこの現象を潤が起こしているものと思っているのだろう。しかしそれは、彼にとって致命的な間違いであった。

そして…


ガシャン!!!


「!!?」


まるでガラスが割れるような音が周囲から響いて来た。


「な? なんで俺の無限回廊が…?」


それは、シオンが敷いていた無限回廊の結界が壊れる音だった。蜘蛛の腕から放たれた光の帯が、見事に結界を破壊したのである。あまりのことにシオンは周りを見渡して驚いているようだ。


(いまだ!)


潤はそのわずかな隙に、シロウを抱え操の手を引いて、一目散に玄関へと走り出した。


「あ! てめえかやったのかよ!!

 待てこの!!」


シオンはすぐに潤たちを追おうとする。しかし、それを遮るものがあった。それは、彼が潤の使鬼だと思い込んでいた大きな蜘蛛だった。


【悪いがここまでだ】


「う?!」


目の前の蜘蛛から発せられるどこかで聞いたような声にびくりとするシオン。


「な…おまえ…」


【貴様のことは、葛城王寺かつらぎおうじ…と呼んだ方がいいかな?】


「バカな…お前は確か死んだ…」


それは確かにさっき自分が殺したはずの蘆屋真名の声であった。


【そう思うなら、お前の使鬼を見てみろ…】


次の瞬間、シオン=葛城王寺の肩に止まっていたカラスがうめき声を発し始めた。王寺はあまりのことに、カラスを叩き落とす。


「な?!」


いきなりだった。カラスのおなかが膨れ上がりはじめ、それが人ひとりの大きさまで膨張すると、内側から破裂したのである。そこにそいつは立っていた。


「蘆屋…真名…」


「ああ…。第二ラウンドと行こうじゃないか」


真名は、驚いて言葉もない王寺に向けてにやりと笑ってそう告げた。

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