第三話 そして僕は その5
「迎えに来たよ…ええっと……
…誰だっけ?」
「潤です…」
「そう! そのジュン君!」
この人は蘆屋真名の仲間なのだろうか?
潤がふとそう考えてると。
「迎えに来たってどういうこと?!
それにこれって、人払い術とかいうやつでしょ?!
あんた、あの女の仲間なの?!」
操は潤の背後に隠れながら男に怒鳴る。
「え? ああ。あの女って?
もしかしてマナちゃんのこと?」
「そうよ! しばらくは猶予を与えるって言いながら。
なにこれ? 何のつもりなの?」
「クククク…」
男はへらへら笑って答えない。いい加減頭に来た操が男に食って掛かろうとした。
「…ああ、マナちゃんなら死んだよ。
俺が殺した…」
そのいきなりの言葉に、潤と操は絶句した。
「あの女を殺したって? え?」
「操!!」
潤は操の手をつかんで男のいる方と反対方向に逃げ出した。
この男は危険だ。そう、潤のカンが告げていた。
「逃げても無駄だよ? もう君たちは俺の術中にいるからね」
その場から一歩も動かず男が声をかけてくる。潤たちは構わず、ショッピングモールの玄関へと走っていった。
…と不思議なことが起こった。玄関へとまっすぐ確かに走っていったはずが、さっきいた場所に帰ってきてしまったのだ。
「おかえり~~ジュン君」
男がへらへら笑いながら出迎えてくれた。
「え? なんで?」
操も困惑している。潤はもう一度操を引っ張って走っていく。
…しかし、
(これは…)
何度やっても元の場所に戻ってきてしまう。まるで悪夢の出来事のようだった。
「ね? 無駄でしょ?
無限回廊の結界を張ってるからね」
「く…」
『無限回廊の結界』それが今のこの状況の正体なのだろう。これがいわゆる「呪術」というやつならば自分たちではどうしようもない。
「あなたは…一体」
「俺の名前は…シオンとでも呼んでくれ。
蘆屋とは別の組織の所属でね、『使鬼の目』を持つ君のことを仲間に引き入れたいんだ」
「…ただ仲間に引き入れたいだけなら、普通に話をすればいいでしょ?
なぜこんなことを…」
「そりゃあ、君が断る可能性もあったし。
それに…その方がこっちとしてもいいんでね」
「わざわざ断られるようにということですか?
なんでそんなばからしいことを」
シオンと名乗った男はにやりと笑うと、楽しそうに答えた。
「とりあえず、君の本気の抵抗を見たいんだよね。
やっぱり自分の目で君の能力を見ておかないと…だろ?」
潤は後悔した。自分の能力が再び災厄を招いてしまった。
自分が早く決断しなかったから操を巻き込んでしまった。
ならば自分のすべきことは一つだ。
「わかりました。
あなたと一緒に行きます」
「ちょっと! 潤!」
「でも彼女は関係ないんです。
この結界を解いてくれませんか?」
「何言いってんの潤!」
潤の言葉に操が慌てて反論しようとする。
シオンはその光景に一瞬だけ真顔になったが…
「ダ~メ…」
シオンは心底うれしそうな笑顔で告げた。
「言ったろ? 君の本気の抵抗が見たいって。
とりあえず、そっちの娘には死んでもらうから。よろしく」
それは、まさに悪夢の宣告であった。
『使鬼の目』の能力を確認するために操を殺すというのだ。
こうなったら操を命に代えても守らなければならない。
潤は操の盾になるよう前に出た。
「それじゃあ行くよ?」
シオンが楽し気に懐から符を取り出す。そして片手でそれを投擲すると、もう片手の剣印を一閃した。
「急々如律令!」
その瞬間符は炎のつぶてとなって飛翔した。炎のつぶては弧を描いて二人に迫る。
「く!」
潤は操を抱くと自分の背中で操をかばった。
次の瞬間…
<妖縛糸>
「!?」
いきなり真名たちの足元から白い何かが飛んだ。
その白い何かは炎のつぶてに正確に命中すると、つぶてを空中で爆発四散させた。
【大丈夫か? 潤くん】
突然、足元から声がする。
それは確かに蘆屋真名の声だった。




