第三話 そして僕は その3
真名は一瞬も躊躇わなかった。
手にした符に意識を集中すると男に向かって投擲、もう片手の剣印を一閃して「急々如律令」と唱える。
瞬間、符に込められた術式が起動、符は電光の帯となって飛翔した。
「フッ…」
笑顔を顔面に張り付かせた男は、特に慌てた様子もなくゆっくりといくつかの印を結んでいる。
ドンッ!!
電光の帯は確かに男に命中した。命中したはずであった。だが、不気味な笑顔はそのまま無傷でその場所にいた。呪は的確に起動していた。五行を用いて打ち消された気配もなかった。
(…防御呪か?…結界呪か?)
真名はそう思考しながら、一瞬で男との間合いを詰めた。
<金剛拳>
ズドン!!
真名の拳が男の胴を射抜く。男は驚愕の表情でうめいた…
「うがっ………、なんちゃってw」
…ふりをした。
「!?」
男は一瞬で真名の背後に回り込むと、にやりと笑って言った。
「…やっとだ。やっと思い出したよお前のこと。
俺も昔は蘆屋一族に所属していた。そんなガキの頃、いつもイジメてた弱っちい女がいたって。
そうだろ? 蘆屋真名。
宗家の血筋のくせに、呪術の才能のかけらもなかった出来そこない…」
男はケラケラと笑いながら、手の剣印を一閃する。
ドシュ!!
次の瞬間、真名の左腕がなくなっていた。
「…く!!」
「けははは!!! お前! 才能もないくせに呪術師になったんかよ?!
道理で符術の一撃が軽いと思ったぜ。どうせ、あれが最大威力だったんだろ?
だから、さっきの一撃で俺に効かないと判断して、体術に切り替えた」
真名は腕を失った肩を押さえ呻くだけで何も言わない。
「だが残念だな。俺の結界呪は当時のガキどもの中でもトップだったのを覚えてるか?
今でもそれは変わらんぜ!! 俺にはどんな攻撃も無効にする個人結界があるんだよ!!」
ドン!!!
次の瞬間、真名の左足が飛ぶ。
「が!!!!!」
「そしてこれが、結界術を応用した防御不能の切断呪だ!!!
なかなか面白いだろ?!! なあおいマナちゃんよ!!!」
男は笑いが止まらない様子で、切断呪を用いて次々に真名を解体していく。両腕・両足を失った頃には、真名はピクリとも動かなくなっていた。
「…ああ、つまんね。もう終わりかよ。
一族ももっと強い奴を使えよ。こんな役立たずを使うなんて人手不足なんか?
なあ、マナちゃん?」
真名はもはやその問いには答えられない。
「まあいいや、邪魔者は消したし。会いに行くかな? 例の能力者に。
ああ、一応その死体片づけとけよクロウ」
男はそう言って自身のカラス型の使鬼に命令を与える。クロウと呼ばれた使鬼は命令通り、真名の死体を丸呑みしてきれいに片づけてしまった。
(そういえば…こいつ使鬼を使わなかったな…)
ふと、男はそんなことを思った。一般的な呪術師というのは、使鬼のような使い魔をたいていは持っているものなのだが。
(…いや、才能ないから使鬼を持ってなかっただけだな、たぶん)
そう、すぐに思い直すと、男はにやけ顔を張り付けながらエレベーターへと向かった。




