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呪法奇伝  作者: 武無由乃
序章
28/202

第二話 正義の炎 その22

「あらん? 姫様? わたしをおよびですか?」


呼ばれて現れた人影は、少々間延びした声を真名にかける。

現れたのは身長180cmほどの背の高い女性だった。

ただこの女性は、普通の人間にはありえない、二本の角が額に生えていた。

きれいな花びらをあしらった着物で身を包んで、黒く長い髪を後ろで束ねている。

腰にはきれいな装飾の入った打刀を差しており、『酒』と書かれた徳利とっくりを手にいかにもおっとりした笑顔を浮かべている。


「…百鬼丸。気持ちよく酒を飲んでる最中に悪いんだが。仕事だ…」


「それは…まあ、仕方ないですわね? どのような仕事ですの?」


真名は、立ち上がって体勢を立て直している犬に視線を向けて言った。


「あの『鬼神』の動きをしばらく止めておいてくれ。…殺さないようにな」


「お安い御用ですわ…」


そう軽い口調で答えた百鬼丸は、一口徳利の酒を口に含むと。

ゆっくりとした足取りで歩いていく。

それを見た犬は牙を剥き突風をまとって飛び掛る。

両者が激しく激突した。


【ぐぐぐぐ・・・・・】


「これは…なかなか…、いいですわよワンちゃん」


百鬼丸は巨大な犬の頭に両手を添えて、その突進を押しとどめている。

その光景は少々滑稽でもある。


「ワンちゃん…わたくし、こんなんでも怪力無双で売ってるんですの。

 もうしばらく動かないでいてね?」


両者の力比べが始まった、これならしばらく時間を稼げるだろう。

それを確認した真名は、今度は潤の方に向き直り歩いていく。

潤はいまだに石のように身動き一つしない。

操の呼びかけにも反応した様子がない。


そんな潤の前に立った真名は、手を横に伸ばすと…


バチンッ!!!!!!


…思いっきりその頬を平手で叩いた。


「…ちょ!! あんた!! なにやって…」


いきなりのことに操が抗議の声を上げる。

真名はそんな操を気にも留めず、児童公園中に響くかと思われるほどの声で言った。


「いい加減目を覚ませ!!!!

 お前は…あの子を…

 死すら乗り越えてお前を守ろうとしている、あの優しい子を…


 … 人 喰 い の バ ケ モ ノ に す る 気 か!!!!!」


その声を聞いた潤の瞳に、やっと光が宿った。


「…え? あれ…、僕は…」


「潤!? 大丈夫!? 気がついたのね…」


やっと気がついた潤の様子に操は喜んで抱きつく。

真名は潤の様子に安堵する。


「…潤とかいったか?

 説明してる暇がないから、とにかくあそこの巨大な犬を『霊視』ろ…」


潤は、目の前の少女が誰なのかわかっていなかったが、その真剣な様子に言うとおりにした。

その表情が一瞬で凍りつく。


「…シ、シロウ?」


「そうだ…、あれはお前の飼い犬のシロウだ」


操は二人が何を言っているのか理解できなかった。

シロウはついさっき火球に焼かれて死んだはずだ。


「…潤。お前が、シロウを黄泉から呼び戻したんだ…」


「…まさか。僕が?」


潤はシロウが死んだとき、再びシロウが帰ってくるのを願った。

それがこんな結果をもたらすとは潤には信じられなかった。

だが、どこをどう見ても、あれはいつも感じていたシロウの魂の温もりだった。


「…いいか、潤!

 …無理やり黄泉返らされたシロウは、今『怨霊』になりかかってる…

 もし、今の状態でけがれを浴びたら、確実に『怨霊』化する…

 そうなったが最後、もう滅ぼすか封印するしかなくなる…」


「…!! それじゃあどうすれば!!」


「お前が…お前の力で、シロウを完全に『使鬼しき』化するんだ…

 それが出来るのは、お前しかいない…」


潤はどうすればいいかわからなかった。

『使鬼』化なんて一度だってしたことがない。

頭を抱えている潤に真名が言った。


「…潤。本来『使鬼』とは心と心を『深い絆』で繋げ、魂を重ねて霊的共生状態になった者の事を指す。

 もし、お前とシロウの絆が十分なら、お前がもう一度、シロウを呼ぶだけで契約は成立するはずだ…」 


それを聞いた潤はシロウを見つめる。

お前は本当に僕の傍らにいて幸せだったんだろうか。

僕はお前にとっていい兄弟だったのだろうか。

その答えは、いまだわからないが、一つだけ今でもわかることがあった。


僕はシロウを助けたい。


だから、潤は何も考えずにただ叫んだ。


「… シ ロ ウ 来 い !!!!!!!!」


次の瞬間、シロウの全身が光につつまれた。

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