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呪法奇伝  作者: 武無由乃
序章
27/202

第二話 正義の炎 その21

「…それはいったいどういうことだ?」


真名は操に先ほどの言葉の意味を聞いてくる。

操はいきなり真名に話しかけられたことに戸惑いながらも答える。


「…その、シロウって言うのは

 さっきその羽村誠に殺された潤の飼い犬・シロウのことで…

 …でもシロウは白いけど、ただの柴犬だし…

 でも…あの筆跡は確かに潤の…」


まさか、さっき死んだばかりの犬の霊が化けて出たとでも言うのだろうか。

真名はすぐにその可能性を否定した。

確かに、目の前の巨大な犬は『怨霊』、或いは『鬼神』の類に見える。


『鬼神』とは、呪術によって霊体を変質させた『妖魔』や、『妖魔』と同じく通常の生命の輪廻から外れた存在の総称である。

我が強すぎて輪廻の枠を外れてしまった、通常生命体の霊である『怨霊』もこれに分類される。

だが、普通、良くも悪くも我の強い人間以外の生物は、『怨霊』になりにくかった。

いくら殺されたからといってすぐに『怨霊』と化すなら、野性の世界はどれほど『怨霊』ばかりなのか。

異常な大量死が起こったときでさえ確率は低い。

…人間の意思が何らかの形で介在した場合は別だが。


真名の行動はすばやかった。


「オンアロマヤテングスマンキソワカ…」


蘆屋流天狗法あしやりゅうてんぐほう剛力招来ごうりきしょうらい


天狗法の真言を唱えた真名が、巨大な犬に向かって駆ける。

それに気づいた犬は牙を剥いて威嚇する。


【また邪魔をするか! 小娘!!】


次の瞬間、犬の周囲に渦巻いていた風が指向性を持ち、無数の『つぶて』となって真名へと飛んだ。

真名は人間に出せるのか怪しい速度で不規則蛇行しながら風のつぶてをひとつ、またひとつとよけていく。そうして、全部よけきった真名は、巨大な犬の眼前に立ちその鼻先に軽く触れた。


「…ふっ!!」


中学生にすら見える華奢で線の細い真名が、ダンプほどの巨大な犬を両手で持ち上げる。

次の瞬間には、犬はきれいに仰向けにひっくり返された。


「静葉!!! 急げ、妖縛糸だ!!!」


「了解…ひめさま…」


ひっくり返された犬の近くに大きな蜘蛛が這ってくる。

そして、その尻から無数の糸を放出し犬を縛る。

だが、犬もやられっぱなしではなかった。


ブチブチ…!!


大きな音を立てて妖縛糸が切れていく。

妖縛糸はその名のとおり、妖魔すら動きを封じることができる強度を持つはずだった。


「ひめさま! 糸が切れちゃう!!」


「…少しだけもてばいい!!」


真名は精神を集中し、犬の霊体をより深く霊視た。


【…が!!! こんな糸など!!!】


大きな音を立てて最後の妖縛糸が切れる。

犬は体をひねって伏せの体勢になると、自信の周囲に渦巻く風を思いっきり吹き上げた。

真名と蜘蛛は木の葉のように宙を舞った。


「…くっ!!」「きゃあ…」


吹っ飛ばされた一人と一匹は、地面に落下してごろごと転がる。

真名は顔についた砂を拭うと、なんとか立ち上がる。

そして、今度はいまだに身動き一つしない潤に目を向ける。


「……」


真名はあの一瞬で大体の事を見抜いていた。


(事情はほぼ理解した…。

 あとは、あの犬をもうしばらく…、少なくとも三分は動きを封じる必要がある…。

 …妖縛糸不動羂索は効かないだろう…。策を練っている暇もない…。

 …もっとも、手っ取り早い方法を使うか…)


真名は剣印を結んで精神集中する。


蘆屋流鬼神使役法あしやりゅうきしんしえきほう鬼神召喚きしんしょうかん


「…来い! 酒呑百鬼丸しゅてんひゃっきまる!!!」


真名の目の前の空間が裂け、人影が姿を現した。

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