第二話 正義の炎 その19
…なんてことだ。羽村はあまりのことに言葉を失っていた。
フェニックスは自分の言葉をきかず逃げ出したうえに、真名の怪しげな魔法で身動きできなくされている。
いったい何が起こってるのか理解が追いつかない。
そんな羽村をほおっておいて、フェニックスは今までとはうってかわった口調でわめき散らし始める。
【…チクショ~、後モウ少シダッタノニ…
何デアンタミタイノガ現レルンダヨ…
モウ俺ヲホオッテオケヨ!
モウ人間ニ使ワレルナンテ嫌ダ~!!】
それは、羽村と会話している時の、知性的な雰囲気とはあまりにかけ離れた姿だった。
羽村は咽喉の奥から搾り出すようにフェニックスに言う。
「…ねえ? フェニックスなに言ってるの? 君は…
さっき逃げようとしたの?」
【ウルセエヨ!! クソガキ!!
本当ハコンナメンドウナコトセズニ、テメエノ魂クエタハズナノニ…!!】
何を言ってるんだと羽村は思った。
フェニックスは今「魂を喰らう…」とか言ったような気がするが聞き間違いだろうか。
羽村は何を信じればいいのかわからなくなった。
せっかく空想が叶って『正義の味方』になったのに。
羽村は心の中の何かがガラガラと崩れていく音を聞いた。
あまりのことに呆けてる羽村に、少し困った表情をした真名が言う。
「…ごらんのとおり、そいつは聖霊とかフェニックスとかご大層なものじゃない。
WW2…いわゆる太平洋戦争の直前、人間界で悪事を働き…
当時の国家退魔士に捕獲・封印された無名の鳥型妖魔だ。
反省させるため『呪物』に封じて、『使鬼』として300年の強制労働に従事していたのだが…。
今から三ヶ月前に所有していた呪術家から、何者かに盗み出されて行方不明になってたのだ」
「…それじゃあ…『正義の力』って嘘? …願いをかなえるってのも嘘?」
「…願いをかなえるのは本当だろう。
ただ、こういった強制服従系の使鬼は、命令を実行するときに対価を必要とする場合が多い。
こいつは命令を聞く代わりに術者の魂を吸収、『使鬼の封印』を解呪する糧を蓄えてたのだろう。
…まあ、普通の術者は、こういった時の対応策を知ってるのが当たり前だから…
何も知らない素人にしか使えない手口だが…」
羽村はあんまりの真実に脱力して両膝をつく。
『正義の味方』は全部嘘っぱちだったのだ。
そんな姿を見て、すっかり化けの皮がはがれたフェニックスがぼやく…。
【ナキタイノハオレノホウダゼ…
ソコニイル…矢凪トカイウ…オスガキサエイナカッタラ…
…『シキノメ』ノノウリョクシャナンテ…】
「なに? …『使鬼の目』だと?」
真名は、この状況にすっかりついていけなくなっている一般人の方を見た。
そこには、いまだ身動き一つしない潤がいる。
『使鬼の目』
それは、正確には目に能力が宿る『魔眼』ではない。
ヒトが霊的存在と同調・共生する際に、その繋がりを強化・補正する精神的特殊能力である。
その副次的効果として、普通ヒトの目に見えない霊的存在を知覚したり。
知覚した霊的存在の精神を威圧し抑え込んだり。
普通の術士では扱えない数や、高位霊格の式神・鬼神と契約することが出来る。
かの安倍晴明や役小角など、無数の高位霊格を従えた術者は、たいていはこの能力者であったと言う。
別名「小角の目」とも呼ばれる。
まさか、こんなところにそんなレア能力者がいたとは…
そんなことを考えてた真名は、動かない潤の周囲の気の流れに不穏なものを霊視た。
「!? …おい、そこの女! そいつから離れろ!!」
いきなり真名が叫ぶ。
次の瞬間、彼ら全員を巻き込んでいきなり潤の周囲の空気が走った。




