第二話 正義の炎 その18
羽村にとって信じられない光景だった。
蘆屋の小娘に向かって飛んだ八個の火球、それがひとつ残らず消滅していた。
真名が空にぶちまけた水が、まるで生き物のように動いたかと思うと、火球にまとわりつきそれらを消滅させたのだ。
水は水蒸気になって羽村たちの周囲を霧のように覆っている。
「…なんだ? 今のは…」
…と、呆けている羽村にかまわず真名が動いた。
羽村との間合いを疾風のような動きで詰めると、その傍らにいるフェニックスを拳で打撃した。
ズドン!!!
フェニックスは激しく身を痙攣させて後方へと吹っ飛ばされる。
…しかし、本来そんなことはありえない筈だ。
フェニックスは普通の人間には見えない上に、物理的攻撃は一切通用しない幽体的存在である筈なのだ。
だが、真名は難なくフェニックスに拳を打ち込んでいる。
目の前の小娘が普通じゃないことを、このときになってやっと羽村は悟った。
「…お前!」
羽村は叫びながら真名との間合いを開ける。
真名は羽村を気にとめる様子もなくフェニックスの方へと歩いていく。
羽村はフェニックスに呼びかけた。
「怯むなフェニックス! もう一度火球で攻撃だ!!」
その声援を聞いたフェニックスは…
…羽村の声を聞いた様子もなく、真名から離れようとわたわた逃げだした。
「…え? ちょっとフェニックス?」
「…逃がすと思うか?」
何事かと戸惑っている羽村を尻目に、真名はフェニックスに冷酷に告げる。
フェニックスは真名を怯えた目で見ながら、必死で翼を羽ばたかせ飛び立とうとする。
その足元にいつの間にか大きな蜘蛛がいた。
「静葉…妖縛糸…」
次の瞬間…フェニックスの周りに無数の蜘蛛糸が舞う。
物理的な糸であることを理解したフェニックスは糸にかまわず空に舞った。
真名はそれを見て慌てた様子もなく、両手で不動明王根本印『不動独鈷印』を結ぶ。
「ノウマクサマンダバザラダンカン…」
宙に舞っていた蜘蛛糸が一瞬炎をまとったように赤く輝く。
そして、次第に糸同士が絡まりあい、無数の縄に姿を変えた。
<蘆屋流鬼神使役法・妖縛糸不動羂索>
蜘蛛糸の縄が空を飛ぶフェニックスに絡み付いていく。
幽体であるはずのフェニックスをその場につなぎとめた。
【ガ…? ナゼダ…】
「逃げようとしても無駄だ。妖縛糸に不動明王の霊威を流して『不動縛呪』とした。
不動縛呪はモノを物理的にではなく霊質根本から縛る、幽体であっても縛することが可能だ。
さらに、その不動羂索は、土行の属性を持つ静葉の妖縛糸を根本として形成されている。
『五行相生の理・火生土』によって、貴様の属性である火行は土行を強化する方向に働く。
もはや逃れることはかなわんと思え…」
それは、あまりにもあっけない幕切れだった。




