第二話 正義の炎 その16
潤はシロウの首輪の破片を掴んだままその場から動かなくなった。
羽村はもう終わりだろう事を悟った。
少し調子に乗ってしまったところはあるが、本来羽村はサディストではない。
もう苦しまないよう一瞬で灰にして、飼い犬の元に送ってやるのが慈悲だろうと考えた。
羽村は手のひらを潤たちに向けた。これで終わるはずだった。
…だが、その時羽村は絶対にありえない声を聞いた。
「…これは…最悪だな…」
言葉を発したのは無論羽村ではない。
身動き一つしない潤でもない、動かなくなった潤に一生懸命呼びかけてる操でもない。
『火の壁』の向こうから聞こえてきたのだ。
『人払いの術』は効いてるはずだった。
普通の人間ではこの場所に近づくことはおろか、この状況に気づくことすらできないのだ。
ズドン!!!
そう音の響いた次の瞬間、炎の壁の一部が一瞬にして消滅した。そこに一つの人影があった。
その人影がはっきりとした足取りで羽村の方に歩いてきた。
それは…一人の少女だった。
「…?! な…何だ?」
羽村は戸惑っていた。これはありえない事態ではないのか?
そう思って傍らにいるはずのフェニックスを見た。
【…!!!!!!!!】
フェニックスの顔には驚愕の表情が張り付いていた。
「…ふむ…。間に合わなかったようだな…」
突如現れた少女が口を開く。
その少女は、年のころは潤たちと同じかそれより下に見えるだろうか。線の異様に細い少女だった。
髪は黒く長く、頭の左右で結い。服は黒いシャツ、黒いホットパンツ、黒いスニーカーと黒で統一し、その上に、肩に星と格子の紋様が描かれたジャンパーを身に着けている。
その腰に下げているのは、『蘆屋のおいしい水』とラベルされた500mlペットボトルだ。
「…?」
突然現れた少女に、操も驚愕の表情を浮かべている。
羽村は、この少女が潤たちの知り合いではないことを理解した。
「…お、お前なんだ? どうやってここに入った…」
羽村のその言葉に少女は…
「この、火壁の『陣』を敷いたのはお前か?」
…疑問で答えた。
「…聞いてるのは僕だ! お前は誰だ!!」
羽村はイライラして少女に怒鳴り声を上げる。
少女はその姿を見て一瞬だけ逡巡すると、その疑問に対する答えを明かした。
「お前に言っても意味はないだろうが答えよう…
私の名は『蘆屋真名』
播磨法師陰陽師衆・蘆屋一族に所属する…」
「え…?」
「正式な『陰陽法師』だ…
…君のその首にかけている『呪物』を回収するのが仕事だ」




