第二話 正義の炎 その15
潤は信じられなかった。目の前の光景を信じたくなかった。
自分の命令をきかず火球に飛び掛ったシロウが、爆発とともに消えてなくなったのだ。
しばらくすると、空から赤いものが降ってきた。それは、シロウが首につけていた首輪の破片だった。
現実が、一気に重く圧し掛かってきた。
シロウは…死んだのだ。
「…!」
声にならなかった。声にならない声をあげて潤は泣いた。
そんな、潤に羽村が非情な言葉を投げる。
「何? 泣いてるの? 犬が死んだくらいで…」
「…あ、あんた!」
操は羽村に怒りの目を向けるが、それを軽く流して羽村は続ける。
「…その犬が死んだの…、そもそも君のせいだろ?
君が余計な抵抗せず自殺でもしていれば、その犬は命を落とさずにすんだのに…
…なに自分は悲劇の主人公だって顔で泣いてるの?」
「…!」
潤は何もいえなかった。この場にシロウを連れて来たのは自分なのだ。
側に落ちていた首輪の破片を掴むと涙が後からあふれてきた。
果たしてシロウは自分の傍らにいて、本当に幸せだったのだろうか?
初めてシロウと出会ったのはまだ母親が亡くなる前、この児童公園だった。
この児童公園の片隅で、他の四匹の兄弟とともにダンボールに入れられて捨てられていた。
潤が見つけた日は大雨で、シロウたち五匹の犬はもはや虫の息だった。
潤はこの犬達を助けようとした。母子家庭で犬を飼うような余裕がないことは十分承知していた。
家にダンボールを抱えて駆け戻り母親・風華に願った。
風華は潤と犬達を連れて急いで動物病院に向かった。
…でも、結局生き残ったのは白い子犬一匹だけだった。
風華はこの犬を飼うことを許してくれた。
こうして、子犬はシロウと名づけられ、潤の大事な兄弟になった。
それから、シロウはいつも潤と一緒にいた。
うれしかったときも。
楽しかったときも。
つらかったときも。
悲しかったときも。
母・風華が亡くなって心が押しつぶされそうになっていた時も、シロウは潤の傍らにいた。
シロウは潤の心がわかるようだった。
子犬のやんちゃだったころはまだしも…
成犬になってからは潤の心を読み取っているかのように、潤を裏切ることはなかった。
それが、なぜか今回だけは潤の言うことをきかなかった。
(…シロウ…来い…)
潤は信じたくなかった。
(…シロウ…帰って来い…)
自分を守るためにシロウがその身を犠牲にしたなんて信じたくなかった。
(…シロウ…来い!)
悲しくてどうしようもなくて、ただひたすらに呼びかけた。
(…シロウ来い!)
その言葉に答えるものはもうこの世にいないはずだった。
【… シ ロ ウ 来 い ! ! ! !】
その時、潤は犬の鳴き声が聞こえたような気がした。




