第二話 正義の炎 その14
僕は呆れていた。力を得た僕に抵抗は無駄な話なのだ。
「シロウ!」
矢凪は結城の手を引っ張って立たせると、犬の名を呼んで僕の側から少しでも離れようとする。
まったく無駄な話だ、矢凪が来る前に『炎の壁』を生み出している『札』は、児童公園を囲うように貼り付けてある。壁一つの効果範囲からして逃げれる隙間はない。
僕は心の中でフェニックスに火球の一つを飛ばすよう命令する。フェニックスはその命令を的確に実行。
矢凪たちに向かって火球が飛翔した。
…そして着弾。矢凪は結城を庇いつつ横に飛ぶ。
紙一重でよけられた。
「ガアア…!!」
怒りを目に宿した犬…シロウとかいったか?…僕に向かってこようとする。
「ダメだシロウ!!」
その犬を矢凪が止めた。
まあ正しい判断だ。今の僕に犬の牙がなんの役に立つというのか。
矢凪達は再び立ち上がると逃げようとする。
往生際の悪い…これではまるで、僕がこいつらをいじめてるみたいじゃないか。
「……」
…正直なところ。はじめはフェニックスの言うことを実行するのにためらいがあった。
近藤達不良三人組にはいじめ抜かれた恨みがある。だが、矢凪潤にはそれがないのだ。
いくら人ならざる者とはいえ、性格もそれほど悪いようには見えなかったし…。
しかし、フェニックスに力を与えられそれを試して見るにつれ、そのためらいはどうでも良くなった。
世界の深遠を覗く感覚というのだろうか?
今まで見てきた世界がどれ程狭かったのか僕は理解した。
邪悪なる『魔眼』、悪しき人ならざる者、そういったものは確かのこの世に存在しているのだろう。
僕は選ばれたのだ、世界の深遠を渡り、邪悪を滅ぼす『正義の味方』に。
ただの、目立たぬいじめられっこにすぎなかったこの僕が。
「ククッ…」
僕は笑いながら周囲の火球をひたすら逃げる矢凪達へと飛翔させる。
…本当に笑える、なんて馬鹿なはなしだ。今までの僕はなんだったのか。
親はいつも僕に勉強しろとしか言わなかった…小学生のころからいじめを受けていた事実にも気づかず。
いじめに抵抗しようとしても、その何十倍もの力と人数でさらにいじめられた。
抵抗がどれだけ無駄か嫌というほど思い知った。
いつしか、自分の心すら偽って、ただ嵐が過ぎるのを待つようになった。
空想は僕の楽園だった。どんな不良であっても空想の中では一撃で相手を粉々に出来た。
この空想が本当になったら、どれだけ素晴らしいだろうといつも考えていた。
そして、空想は現実になった。
「夢は信じていればきっと叶う…」それはまさしく正しかったのだ。
ドンッ!!
十数発目の火球が矢凪たちの足元ではじけた。逃げ疲れていた彼らは前につんのめって倒れる。
もう、それ以上動けない様子だった。
…と、その時矢凪は僕に話しかけてきた。
「…たのむ、僕はどうなっても良いから。操とシロウは助けてくれ…」
もう遅い…僕は思った。
いまだに結城と犬は僕をにらみつけている。
こいつらは僕が矢凪を始末した後も抵抗するだろう。
僕は最後になるだろう火球を矢凪たちに向けて放った。
それは、もう疲れて動けない矢凪たちに命中するだろう。
…そう思ったとき、突然犬が動いた。
「やめろ! シロウ!!」
犬は…今度は矢凪の命令を聞かなかった。
矢凪たちに向かって飛翔する火球に真正面から飛び掛る。
そして…
「…!」
…白い柴犬・シロウは、粉々に爆発四散した。




