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呪法奇伝  作者: 武無由乃
序章
13/202

第二話 正義の炎 その7

「ばあちゃん! カップアイスかってきたぜ! 一緒に食べよう!」


「これこれ、とし…。そんな硬いもの私は食べれやしないよ。おまえ一人で全部お食べ…」


「大丈夫だって…。これ結構やわらかいんだ!」


少年はそういって、台所からお皿を一つ持ってきてカップアイスを取り分ける。

少年はいつもおばあちゃんのそばにいた。おばあちゃんが大好きだった。

両親がおばあちゃんを引き取るときいろいろ揉めたが、少年の怒りの一喝が両親の喧嘩を止めた。

両親はいつも喧嘩している。少年はそれが死ぬほど嫌だった。たいていはおばあちゃんを標的にするからだ。

おばあちゃんが一人で泣いているところを見た事が何度もある。たいていは両親の心無い一言が原因だった。

少年はおばあちゃんにハッキリと宣言した。


「いつか俺が一人で生きていけるようになったら、おばあちゃん一緒に暮らそう! 俺がおばあちゃんを守る!」


その言葉を聴いたときのおばあちゃんの笑顔は、少年は生涯忘れないだろう、たとえその数日後に心筋梗塞でおばあちゃんが亡くなったとしても。


両親は最後までおばあちゃんを厄介なお荷物としてしかみていなかった。おばあちゃんが亡くなって、清々したような表情を浮かべている両親を見て、少年は自分の身にこのクズどもの血が流れている事を呪った。



矢凪潤は一瞬で老婆と近藤の関係を理解した。この老婆の霊は近藤の祖母、近藤は祖母の死を境に人生を狂わせていた。両親との不和が、優しかったかつての少年の心を歪ませていた。

無論、その後犯した罪は、決して許せるものではないが。



潤の視界が現実に戻ってくる。

近藤の祖母は大鳥の炎から身を挺して近藤を守っている。その身が炎に包まれていき、端からボロボロと焼け崩れていく。潤はもう見ていられなかった。


「やめろ!」


部屋の端に立てかけてあった金属バットを持って大鳥に飛び掛る。しかし、その攻撃は大鳥をすり抜けてしまう。こいつには明確な実体がないのだ。

バットをその場にほうると、今度は近藤をその場から引きずり出そうとした。それを見た大鳥が大きく嘶く。


【ジャマヲスルナトイッタロウ…コゾウ!】


大鳥の全身から火の粉が舞い、潤の頭上に降ってくる。上着に火が付いた。


「く…!」


潤は上着を脱ぐと火を消す。これではきりがない、そう思っていると。


【トリアエズ…イジバンジャマナノハオマエダ! クソババア!】


そういって近藤の祖母の上に火の粉を撒き散らす。もはや老婆の霊はその身を保っておく事は出来ないようで、下半身も腕も髪の毛もボロボロと灰に変わっていった。


そして…


【とし…、ごめんね…、何も出来ない…駄目なおばあちゃんで…】


その一言を発して老婆の霊は完全に灰になった。



「…!!!!!!!!!!!!!!!!」


その光景を見たとき、矢凪潤の心の中の何かが大きくはじけた。


【…おい…】


【ウム…?】


潤は言葉ではない言葉を大鳥に発する。それを聞いた大鳥は一瞬戸惑った。

それは明らかに人の発するものではなく、どちらかと言うと人ならざるモノ達の言葉だった。


【いいかげんにしろ!!】


【ガ…!】


なんと大鳥はその語気だけで気圧された。大鳥が潤の方を見ると潤と目が合った。


次の瞬間、大鳥は大きく背後に跳ねた。潤の目に今まで感じた事のない力を感じたのだ。

大鳥は先ほどまでとは違い、怯えた目で潤を見つめる。


【…バカナ…オマエ…】


【消えろ…早く…】


潤がそう呟くと、大鳥は慌てて窓をすり抜けて空へと飛んでいく。大鳥が逃げていくと、部屋の炎が次第に小さくなっていった。


…と、そのとき消防車のサイレンの音が聞こえてきた。その音を聞いて、潤は我にかえった。

自分が大鳥に何をしたのか、自分に何が起こったのか、このときの潤はわかっていなかった。



------------------



森部市某所


逃げた大鳥は、いずことも知らぬ場所で羽を休めていた。


【…ヤツハ…ヤツノメ…タマシイ…】


あの少年の目を思い出すだけで大鳥は震えが走る思いだった。


【…ダメダ…ワガシメイ…コノママデハジッコウデキナイ…。ナントカシテ…ヤツヲシマツセネバ】


あの力を止める方法に覚えがある、自分だけでは実行できないが。

大鳥は自分に使命を与えた者の事を思い出す。こうなったからには、彼の力を借りるしかないだろう。

大鳥は一声嘶くと再びいずこかへと羽ばたいていった。

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