第二話 正義の炎 その4
その日の夜9時ごろ
「それじゃ…シロウの散歩いってこよっか」
潤と操はいつものようにシロウの散歩をしに家を出た。
潤と操は幼馴染である。本来は別々の家に住んでいるであろう間柄であったが、今潤は操の家に、飼い犬のシロウとともに厄介になっている。無論、これには大きな理由があった。
潤は、もともと母一人子一人の母子家庭であった。潤の母親である矢凪風華は、潤がお腹にいたころに夫・矢凪司郎と死に別れ、それ以来女手一つで潤を育ててきた。そのとき近所で良くしてくれていたのが、操とその両親だった。だが、今から6年前、矢凪風華は不意に道路に飛び出した潤を庇って車にはねられ、潤の目の前で命を落とした。
潤は今でもその時のことを鮮明に覚えていた。何よりそのことが原因でしばらく口も利けず、ただひたすら道路に飛び出した自分を責めながら、部屋の隅で縮こまって過ごしていた。そして悪いことに、矢凪風華にも夫・司郎にも親戚らしきものはいなかった。そのため、潤は施設に預けられることになったのだが…それを止めたものがいた。それは幼いころの操だった。
操は自分の両親に、潤を引き取るように願った。そして、その願いは聞き届けられ、潤は操の家に引き取られることとなった。だが、そうなってもなお潤は心を閉ざしたままだった。それから、操が潤の心を開かせるために奔走したのだが…それは別の話である。
皮肉なことに、目の前で母親の死を目撃したその日から、潤は一般人には見えないものが見えるようになった。それは死んだ母親の置き土産だったのか?
…とうの母親の霊は一向に見えないのだが。
あの日以来、自分は操に守られているように潤は感じていた。一見すると潤の方が大人で操は子供っぽい性格をしているのだが、芯の強さでは操には勝てないだろう…と。
「…くぅん」
いつもの散歩コースで児童公園の前に差し掛かったときシロウが小さく鳴いた。
「うん? なにシロウ」
操がシロウに近づいて頭をなでる。操は何も気づいていないようだ。
いつの間にか、潤たちの目の前に夕方の老婆の霊が立っていた。




