新学期
新学期。春休みを終え、ホームの子どもたちも、学校に通いはじめた。この年の春はおそく、通学路沿いのあちこちの桜も花盛りで、うす桃色の花は通りがかりの子どもたちの頭上にそのゆたかな枝をゆらした。
永久と美琴は、おなじクラスになった。永久は、美琴のとなりの席を陣取ると、彼女に笑いかけた。美琴は、いつもただ、大きな目をさらに大きく見開くばかりだった。
明るい永久は、すぐにクラスの太陽になった。
「今日はぼくはカニです!」
と言っては横歩きをし、
「今日のぼくはフグです!」
と言ってはほおをふくらませ、服の両はしをひっぱってふくらんだ。クラスの子どもたちは、そんな永久の行動を見て、毎日笑いころげた。先生も、たしなめながらも、今日は永久がなにをしでかすかと、笑いをこらえながら楽しみにしていた。美琴だけは、変わらなかった。すくなくとも、目に見える変化はなかった。ただ、永久がみんなの前でおどけるのをじっと見ていた。
永久は、美琴の表情が相変わらず固くさびしそうなのを悲しくおもったけれど、自分のすることを彼女が見てくれているだけでもいいとおもった。自分を見ているときの美琴の目が、ときどき明るい色をうかべるから。よく注意していないと、気づかないほどの変化ではあったけれど。彼女が、ほんのすこしでも楽しかったら、永久はうれしかった。
永久と美琴は、毎日いっしょに学校からホームに帰った。桜はやがて散り、やわらかな色の若葉が萌え出た。
ある日の帰り道、美琴がとなりを歩く永久に話しかけた。
「ほかの子たち……、と帰らないの」
「なんで?」
永久は、目を丸くして訊き返した。
「みんな……と、とわ、といっしょに帰りたがってるもの」
「あっ」
永久が、急に大きな声を出したので、美琴はぎょっとして永久の顔を見た。永久は、にっこり笑った。
「いま、初めてぼくの名前呼んでくれた」
指摘された美琴は、いまさらながらはっとなって、顔を赤くして顔をそむけた。
「そんなの、どう、でもいいでしょ……ほかの、子たちと帰ったら……」
「だって、いっしょにホームに帰るんじゃん」
「そうだけど……」
美琴は、気後れしていた。みんなの人気者の永久を、独占しているようで。




