ミコが笑った!
「永久は、すごいね」
「え?」
美琴が、大きな瞳で、じっと永久を見つめる。
「みんなを、楽しくさせられるなんて、ほんとに、すごいね」
美琴に、大まじめにほめられて、永久は照れくさくなる。目をくるっと上に向けて、ひょっとこの口をした。美琴が、ぷっ、と吹き出した。
「あ」
永久は、あんぐり口を開ける。美琴が、笑った! 美琴はあわてて両手で口をふさぎ、真顔をたもつ。でも、目は笑ってる。
「やあった!」
永久は、うれしさのあまり、美琴に抱きついた。美琴は、仰天して、目を白黒させる。
「あー、永久、なにやってるん!」
女子のひとりがふたりのことをめざとく見つけて、大声でさけぶ。ほかの子どもたちも、永久と美琴を見る。美琴は、恥ずかしくなって、永久から無理やりはなれると、走ってへやから出ていった。
「永久のエッチ! 美琴ちゃんにセクハラして!」
男子たちはともかく、女子たちがさわぎ立てる。
「でえっへっへー!」
永久は、よっぱらいのおじさんのような笑い方をして、頭をかきながら、舌を出した。
「つぎは、友ちゃんにしようかな!」
そう言って立ち上がると、はやし立てていた女子のひとりの友ちゃん、友香という背の高い女子へと突進した。友香たちをはじめ、女子たちは、きゃー、と笑い声を上げながら、永久から逃げた。
ミコが、ほんのちょっとだけど、笑った。女子たちと追いかけっこをしながら、永久は、今日はミコが笑った記念日だ、とおもっていた。
それから、何日も何日も永久は美琴からはなれずにいたけれど、どうやっても彼女をあれ以上笑わせることはできなかった。でも、永久はうすうす気づいていた。美琴の心が、すこしずつほぐれていっていることを。笑ってもいいんだよ。だいじょうぶだよ。永久は、心のなかでつねに、美琴に語りかけていた。
季節は、初夏にうつっていた。雨の日が数日つづいたかとおもうと、晴れた日は、まだ無色のアジサイの花の上に強烈な日差しがふりそそいだ。
その日は雲ひとつない晴天で、じりじりとした日射が、アスファルトの道路を焦がしていた。
「あちー……なんか、目玉焼きの気分だね!」
学校の帰り道、永久がTシャツのえりを伸ばしながら言うと、美琴は目をきょろつかせた。
「……おいも……」
「おいも? 石焼きいも、好きなの?」
美琴は、恥ずかしそうにうなずいた。
「いいかも! いーしやーきいも!」
あはは、と笑いながら、永久が楽しそうに大声で歌う。美琴が、冗談に乗った! 永久は、バクテンでもしたくなる。




