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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第1章「出会い編」
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第7話「勘違い」

「宗ちゃん♪」

町田先生と入れ替わりで入ってきた佳音。テンションが高いのはそれまで僕と離れていた反動だろうか。

「お疲れ様。」

「ああ。といっても、大したカウンセリングはしなかったぞ。」

「あんな先生だからね。安心感はあるけど、技術があるわけじゃないから。」

「ん?もしかして、町田先生のカウンセリング受けたことがあるのか?」

「そうだよ~。といっても、大した悩みじゃないんだけどね。少し困ったことがあったからさ。」

「…僕には相談できない話題だった?」

「そういうわけじゃないって。ただ、タイミングの問題。あの先生の技量も見てみたかったし。

上手くないけど、安心感は与えられると判断したから宗ちゃんに薦めたんだよ。そうじゃなかったら、こんなに危うい宗ちゃんにカウンセリングなんてさせないよ。」

「なるほど。そういった意味では、お前は適任だよな。」

「うん。中学時代からいろいろ鍛えられたからね。」

僕とは違い、佳音が歩んできた中学時代には本来合わないような人ともたくさんあっている。(部活があったおかげでそれでも大分減ったらしいが。)

そのうちほとんどが善意で近づいてきた人だったが、中には佳音を見くびったり、悪意を持って近づく人もいた。

あの頃は僕も部活でのつながりはあったものの、プライベートにまでは踏み込まなかったので佳音は1人でそういった人々に対応していったことになる。

そんな中で人を見分ける技術は身につけたと笑って言っていた。

「それにしても疲れたな。そろそろ帰るか。」

「いや、もうちょっと寝てるべきじゃないかな。町田先生含めた他の先生からできるだけ動かないようにって言われてるから。」

「ん?それは監禁みたいなものか?」

「そこまで露骨じゃないけど、似たようなものだね。

いま出て言ったら、宗ちゃん、必ず現場に寄るでしょ?」

そう言われて考えてみるが、無意識のうちにその場所に行っていることは容易に想像できた。

「さすがに、本人はもう病院に運ばれてるけどまだそのまま残している部分もあるからね。ショックの防止という意味でも、今は動かれないほうが都合がいいんだよ。

まあ、この部屋はその間使っていてもいいって言われてるしゆっくり休んでよ。」

「なるほどな。言われてみればそうかもしれんな。とは言っても、一度起き上がってからまだふらつくというようなことはないから、寝てる意味は無いけどな。

疲れたというのも肉体的にというよりは、気を張りすぎて気疲れしたというほうが正確だ。」

「じゃあさ、私が寝てもいい?正直言うと、宗ちゃんの看病に、先生の対応、もう疲れて疲れて…。」

「ああいいぞ。代わりに僕が見守ってやるよ。」

そう言って、僕はベットを出ようとするが、何故かそれを佳音は止めた。

「どうせなら、一緒に寝ようよ。ベットも広いわけだし。」

「…佳音、本気でいってる?ここは学校だぞ?」

「まあ、さすがにダメだよね。」

そう言って、佳音は落胆した表情を見せた。どうも本気だったみたいだ。正直、怖い。

「そりゃあそうだろ。まあ、家ならまだましかも知れないけどな。」

「そうやって期待させるんだから…それでも嬉しいんだけどね。」

佳音は笑いながら僕が降りたベットに潜り込んだ。

僕は、ベットの隣においてある椅子に座りながら、佳音の髪を撫でる。

その幸せな寝顔を見ていると何故か疲れていないはずなのに、睡魔に襲われた。不安も何も忘れて寝ていられる今がとても幸せだった。



「ん…?」

携帯の音で目が覚める。どうも、あのままベットに寄りかかりながら寝てしまったらしかった。

佳音は今も幸せそうに寝ている。これを起こす勇気はなかった。

寝ぼけた頭でメールを見る。だが、読んでいるうちに眠気など飛んでいってしまった。

差出人は…町田先生だった。

『いきなり、聞いた当日にメールをしてしまってすまない。

だが、さすがに直接伝えることも電話で伝えることもできそうにない。だから、文面での伝達になったことを許してくれ。

実は、あの時話したことはいくつか本当でないこと…いや、嘘といったほうがいいかもしれないな。

そういったものをおりまぜて話してしまった。ただ、今考えると君に伝えないことは明らかに間違っている。だから、苦しい内容かもしれないけれども俺を救うと思って読んでくれ。

実は、お前に対する告白を止めたというのは、纐纈さんのことだ。それも、依存なんて甘ったるい理由じゃない。完全に学校の自己中心的な考えだよ。

学園側は、おまえのそばにいる…佳音さん。そいつがおまえのそばから離れることでこの学校から離れるのを一番恐れている。

あいつなら実力的にも高校なんて行かなくても大丈夫だろうし、飛び級が必要なら海外に行けばいいからな。だから、言い方が悪いがお前という枷が外れないように見張ってたんだよ。学校側も、表に出てないも含めてかなりの利益を得ているからな。2人程度の入学処置程度で収められるならかなりの利益だと思っているようだ。

俺のカウンセリングもそういった指示がかかっていた。そして、できるだけおまえに気がいかないように誘導をしていたんだ。

だがな、おもったよりもあいつの思いは強かった。俺の誘導程度じゃ収まらない程度にな。だから、俺は奥の手を使った。今考えても最悪だな。

俺は、あいつに数学の単位をちらつかせることでおまえへの告白を止めたんだよ。あいつなりにも考えたんだろうな。留年してまでおまえと仲良くなっても結局は妨害が入る。なら、気持ちを伝えられなくてもそばにいたい。そう考えたんだろうな。

おまえから告白があったと聞いたときは、驚きを超えて葛藤しかなかったよ。本当にこのままでいいのか、人としていいのかってかなり悩んだ。

だが、俺は学校からの指示を切り捨てることはできなかった。保身と笑ってくれて構わない。だから、こんな事態になったんだからな。

結局、纐纈さんは耐えられなかったんだろうな…。近くに好きな人がいる。そして相手も好意を向けてくれているのにそれを受け入れることができない。

昔ではよくあることだが、今の恋愛結婚では考えられないだろうな。だからこそ、自殺してしまった。俺はそう考えている。

彼女の自殺の原因は俺だ。俺が止められなかったから…俺が反する意思を無理やり押し付けてしまったからこうなったんだ。

だから、辛い事実かもしれないけれど、罪滅ぼしだと思って受け止めてくれるとほんとうに嬉しい。

だが、俺はこの現状に耐えられそうにない。だから、俺も一足先に行こうと思う。きっとこれを読んでいる頃はもう…』

まだ続きはあったが、ここまで読んで気づいてしまった。先生が自殺しようとしていることに。

僕は携帯をしまって保健室から出た。方面はわからない。ただ、漠然とカウンセリング室じゃないかと検討がついた。もし、罪を償おうとしているならあそこに違いないと。

すぐに走ってカウンセリング室まで向かう。そして、ノックもせずにドアを開ける。

そこにあったのは、予想を反すること無く首吊りをした町田先生だった。

「先生!?」

僕は呼びかけて、すぐにロープを解こうとするが手元が狂ってなかなか取れない。1分ほどしてやっとほどけた。

ドサッという大きな物音がした。これが、人が崩れ落ちた音だとは考えたくなかった。

「先生!先生!!」

すぐに肩を揺らして声を欠けるものの一切の反応がない。その時点で気づいてしまった。

先生の瞳孔が開いていて、脈がないことに。


その後は、混乱してよく覚えていない。ただ、思ったよりも涙がでなかった。

結局そのまま職員室に向かい、死んでしまった事実を伝えることで事態は露見したという。

これが1度人の死を体感しているからだとはおもいたくなかった。ただ、ここで泣きじゃくるのは先生に対して失礼だと心のどこかで感じていたからだと思う。

まだ、日が暮れるかどうかといったところだったが、これ以上学校にいるのはよくないという判断によって僕と佳音は家に返されることになった。

迎えを強制しなかったのは、僕の精神状態がよかったことよりも、佳音がそばに居てくれた事のほうが大きいと思う。

帰りの中で僕はずっと無言だった。決して気が参ったわけではなく、今回のことを考えなおしていたのだった。

「大丈夫?」

オウム返しのように聞く佳音。だが、僕が返す言葉も「大丈夫だよ。」の一言しかなかった。

家についてから、僕はそれまで黙っていた口を開いた。

「佳音。ちょっとまだ気持ちの整理がつかないから、少し1人で考えでもいい?

必ず、気持ちの整理がついたら全て話すよ。それまで待ってて。」

普段だったら、また、僕が佳音の立場だったら心配でどうしても一緒にいると言い切ったかもしれないが、今回の佳音は快くうなづいてくれた。

「わかった。じゃあ、必ず話してね。」

そう言って、自分の家に帰っていくのだった。



2時間ほどたっただろうか。ずっと1人で状況を整理していた。

先生のメールにはあのあとはほとんど重要なことは書いていなかった。きっとその先は読まないだろうと踏んだのだろうか。

だが、2時間も考えたことによって真実は見えてきた。

そして、その考えが正しければこのままではまだ誰も救われない。

そう思って僕は佳音に電話をかけた。


「佳音。気持ちの整理がついたから、全て話すよ。

話も長くなりそうだし、今日は僕の部屋に泊まっていかない?」

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