第14話「覚悟と仲間」
駅までの道。少し背丈の違う男子生徒が2人歩いていた。
だが、傍から見て仲良く談笑しているようには見えなかった。
「翔也。」
そんな沈黙を宗は名前を呼ぶことで破った。
「…はい。」
「さっきも言ったが、少し不自然だと思わないか?
どう考えてもバレるはずのない内容がクラスにバレている。絶対誰かの意図が混じっていると僕は踏んでいる。
しかも、それは秘密を知るはずの僕達4人のなかにいると思うんだが…どうだ?」
宗の言葉にビクッと肩を震わせる翔也。だが、本人は何もなかったかのように疑問を投げかけた。
「本当にそう思うんですか?なら、一体誰が…。」
「単純に消去法だな。まあ、僕はとりあえずおいておくとして。
佳音。あいつは、まずバラさないだろうな。もっと、深い思惑の中で動いてれば別かも知れないが、この場合は単純におまえだけに負荷がかかる。
そんな状況で情報後悔するようなことはしないな。
あかりはもっと顕著だ。佳音よりも何よりおまえの幸せを願っていて、しかも同じクラス。ばらせばどうなるかもすべてわかってるのにやる価値はない。
となると、犯人は絞られてくるだろ?」
「…宗先輩ですか?」
「単純に考えると、そうなるんだがな。まあ、ネタバレの時間と行こうぜ。今回の黒幕さん。」
その宗の言葉を聞いて、立ち止まる翔也。少しの間の後、こう口を開いた。
「いつから、気づいてましたか?」
「そりゃあ、いつからと言われれば昨日ぐらいから怪しいとは思ってたな。
そもそも、おまえはいじめが嫌でここにきているのに、それを知っている人がいるわけがないだろう。おまえは県外から来てるんだから。
で、逆算してみたら可能性があるのがおまえしかいなくなったからな。こうして、聞いてみたってわけだ。」
「聞いてみたってより、尋問じゃありません?」
「違いないな。何、黒幕気取りの学生と探偵気取りの学生。似たもの同士、仲良くやろうぜ。」
「ちなみに、理由はどのように推測されてます?」
「単純な話だろ。佳音の気が引きたかった。というか、話題として欲しかった。それだけだろ?
想像というより、妄想の域になりそうな気もするが、思ったよりも僕と佳音が近すぎて戸惑ったというか焦ったという感じじゃないかと思ってる。
もともとが相談という名目で入部している上、こういったタイプの相談だったら佳音は喜んで相談を受けるだろうし。
まあ、それが思ったよりもクラスで過激に取られて戸惑っているというところかな?」
「…宗先輩って実は人の思考が読めたりするんですか?大筋間違ってないですよ。
先輩だとわからないんじゃないですか。好きな人に振り向いてもらえない苦痛ってのは。」
「そうでもないんだな。おまえにとっては、火に油を注ぐような話題かもしれないが、僕がもともと好きだったのは佳音じゃなくて、他の女子だったんだよ。」
「え?ど、どういうことですか?」
「まあ、深い話は長くなるからしないが、単純に言うと告白したら号泣されて断られたっていう苦い思い出だ。
その後だよ。佳音と付き合い始めたのは。おまえにとっては、どうでもいい話かもしれないけどな。」
「そんなことはないですけど…でも、今は幸せなんでしょう?」
翔也がこんな爆弾発言をする。肯定でも否定でも翔也の気分は良くならない。ある意味で考えられた質問だった。
「ああ。」
宗は否定することに意味が無いことを理解し、肯定で返す。
翔也にとっては、その言い訳すら無い言葉が意外だったのか、彼にしては珍しくなげやりな言葉を発した。
「で、先輩は告発でもするんですか?それとも、解決でもしてくれるんですか?」
「別に告発するつもりもないな。それに解決するために動くつもりもない。」
「じゃあ、単純に僕を追い詰めるためだけですか!」
「そんなに性格が悪いつもりはないな。僕がここにいるのは焚きつけるためだよ。
それにしても、おまえら本当に似たもの同士だよ。揃って解決役を僕に持って行こうとするあたりとか特にな。」
「…どういうことですか?」
「実は、前にもタイプは違うとはいえ恋愛が理由で起こした騒動に巻き込まれたことがあってね。
キャスト的に僕が探偵をやらざるを得なかった。いや、そうなるように仕向けられたという方が正しいか。
その時は、僕が解決までやったんだが、さすがに2度連続はやりたくないからな。」
「要領を得ませんが…。」
「何、単純なことだよ。
今回解決するのはお前1人だよ、翔也。今回は誰の力も借りるな。僕もあかりも、そして佳音の力も。」
「なっ…!先輩は僕にまた孤独でいろっていうんですか!」
「簡単なことだろうが。おまえがクラスで男らしいところを見せればいいんだよ。
喧嘩の1つでもすれば、変わるんじゃないか?」
「だけどっ!それが上手く行かなかったらどうするつもりなんだ!これ以上悪化したら!どうしてくれるんだ!」
遂に激昂して宗の胸倉をつかむ翔也。だが、それを宗は軽く払った。
「知らねぇよ。そうならないようなやり方ぐらい1人で考えろ。おまえだって1人の男だろうが。」
「くっ…。」
手を払われてたったままうなだれる翔也。それに対して、今まできた道を戻ろうと宗は翔也に背を向けた。
そうして、どこか虚空を見つめながらこう言った。
「だけどな。それでも…それでも、失敗したなら…仕方がないじゃねぇか。
その時は僕達を頼れ。僕もあかりも…そして佳音も、誰1人お前を否定したりしねぇよ。
僕達4人は同じ部活の仲間であると同時に友達だろうが。友達を頼らなくて誰を頼るんだ?」
言うだけ言って元来た道を歩き出す宗。その後ろ姿を先ほどとは違う眼差しが見つめていた。
次の日。翔也はいつもよりも30分以上早く学校にきていた。
クラスで1人読書をして時間をつぶす。そんな彼を邪魔するクラスメイトが1人。
「よう、オカマ。そんなに女々しいなら男になる必要はなかったんじゃないか?」
翔也が読んでいた本を前から取り上げて、そんなことを言う男子。彼が翔也に対するいじめの首謀者だった。
「何するんだ。返せよ。」
「はっ?おまえ何言ってるんだよ。」
いつもと違う口調に戸惑う男子。だが、所詮虚勢だと踏んで強硬な態度は崩さない。
「もう一度言わなきゃわからない?人の本を勝手に取るなって言ってるんだ。そんなことをおまえにされる筋合いはない。」
「生意気なこというんじゃねぇよ!」
そう言って、取り上げた本で翔也を殴りつける男子。それに反応して男子の腹を殴ろうとする翔也。当たったのはほとんど同時だった。
数秒の沈黙の後、崩れ落ちたのは翔也だった。相手は喧嘩慣れしている男子。一方虚勢を張っているものの、体的には女子の弱々しさを残している翔也。
相打ちとなるには、少々無理があった。
崩れ落ちる翔也を見ながら、意外な顔をする男子。しばらくするとその顔が満面の笑みに包まれた。
だが、それは強者が得た優越感の笑みとはかけ離れたものだった。
「立てよ。」
そう言って翔也の手を掴んで無理やり持ち上げる。反射的に振り払うもののどうにか立ち上がる翔也。
拳の1つでも飛んでくるかと身構えていた翔也が聞いた言葉は、すごく意外なものだった。
「すまなかったな。おまえの拳結構痛かったぜ。」
「え?」
「言い訳に聞こえるかもしれんが、まさか拳を振るってくるとは思わなかった。噂ってのは当てにならないものだな。」
「これ以上、殴らないの…?」
あまりの予想外の言葉に一晩で身につけたメッキが剥がれかけている翔也。だが、2人ともそんな細かいことは気にしてなかった。
「当たり前だ。都合のいい話かもしれんが、俺と友だちになってくれねぇか。おまえが気に入っちゃってな。
周りの男子は、俺のことをちやほやするだけで度胸のない奴ばかり。どんな理由であれ俺を殴るような奴とは初めて会った。
そのかわりといっては何だが、お前をいじめようとする奴からおまえを守ってやるよ。いや、友達なら当たり前のことなのか。」
「それは…本当?」
想定していなかった、もっと言うなら万に一でもあればいいと思っていたことが目の前で起こっていることを信じられない翔也。
「ああ。といっても、すぐには信じられないよな。俺も信じられないから。
どうやって証明すればいいんだ?自分で自分を殴ればいいのか?それとも、おまえに好きなだけ殴らせればいいのか?」
「そ…そんなことしなくていいよ!本気なのはわかった。」
「おう、それはよかった。俺は、近藤だ。近藤浩二。おまえは…国枝だっけ。」
「うん。国枝翔也。翔也でいいよ。」
「そっか。じゃあ、俺も浩二でいいぜ。」
「よろしく。浩二くん。」
「ああ。」
その場で、握手を交わす2人。翔也の方にはまだ緊張の色が残っていた。
その後クラスメイトが見たのは、昨日までではありえない2人が仲良く談笑をしている姿だった。
どうにか、第2章を書き上げることができました。
僕の中でこの第2章と次を予定している第3章は1つの物語のイメージです。
基本的には、第1章の内容を受けて会話が進んでいきます。
(今回も宗の言葉で第1章の内容を示しているような文もあったと思います。)
翔也とあかりというメンバーを有意義に使えたらなと思うところです。
第3章の話は、ずっと書きたかった旅行編から始まります。
最初想定していた、宗と佳音の2人だけではなく、4人だからこそのネタが振り分けられたらいいのですが…。
というわけで、固まり次第投稿しますのでよろしくお願いします。
P.S. 誤字についてかなりあるような感じなので、本編と同時進行で進めていきたいのですが、最終的な推敲は3章終了後になるかと思います。
できるだけ気をつけますので、よろしくお願いします。
…だれか、誤字を指摘してくれないかな(←




