第12話「珍しい2人組」
あかりが入ってきてから、1週間弱たった頃の話。
珍しく、宗とあかりの2人しかいない部活というものがあった。
「あ、宗さん。こんにちは。」
「どうも。今日はあかりだけ…か。」
「ええ。みんな遅刻でしょうか。」
「あ…、そういや佳音も翔也も来れないってメールきてたな。
すっかり忘れてた。」
「2人とも来れないなんて珍しいですね。」
「まあ、定期的なものだし仕方がないだろうな。」
「定期的?」
宗の言葉に首をかしげるあかり。ここになって、あかりが何を疑問に思ってるかやっと気づいた宗だった。
「そういや、あかりは知らないか。
佳音も翔也も定期的に精神が不安定になるんだよ。」
「…初耳。不安定とは?」
「ここからは、あんまり他言しないで欲しいんだが…2人ともホルモン治療受けてるだろう?
その弊害で、ホルモンの調整後に体内のホルモンバランスが崩れて精神的に参っちゃうんだろうね。
佳音の周期は大体予測済みだったが、翔也も同じタイミングに起こるとはびっくりしたな。」
「そんなことがあるんですか。全くわからなかったです。」
「2人ともできるだけ隠そうとしてるだろうからね。
あかりに話したのも、知っておいてもらった方がいいと思ったから。これからも友達として過ごしてくだろうからね。」
「友達…ですか?」
「少なくとも、僕とあかりは友達だろう?」
「そうですね。」
そう言って、苦笑するあかり。言わなくても友達以外が表しているものはおのずと特定されてくる。
言わないのは一種の言葉遊びのようなものだった。
「あ、先に言っておくがお見舞いに行こうなんて考えるなよ。佳音はともかく翔也はかわいそうだ。」
「え?ど、どうしてですか?」
丁度、帰りにでも翔也の家に行こうかなと考えていたあかりは考えを読まれた気分でつい戸惑ってしまった。
「そりゃあ、格好がつかないだろう。精神不安定っていっても、どういった症状が現れるかわからんし。
ひどい場合はリストカットなんてのもあったりするらしいけど、そこまでは至らなくても正常な精神とはほど遠いのだから、見られたくないと思わないかな?
おまえとしては、そんな一面も見てみたいとか思うのかもしれんが、そこは翔也の心を考えてやってくれ。」
「その通りですね。助言ありがとうございます。」
「何、別に大したことはないよ。」
「そういえば、宗さんは佳音のそばにいなくていいんですか?」
「あー、とりあえず今すぐは帰るつもりはないよ。佳音の場合は、症状が幼児退行なんだよね。
で、1年過ごしてるうちに少しずつ僕に依存しない形で直していこうって話になってる。
とりあえず、2時間ぐらいしたら帰るつもりかな。」
「だったら、たまには2人でお茶でもしませんか?1つおすすめのお店があるんですよ。」
「…そうだな。あかりと2人で話す機会も思ったより少ないし、こういう機会もありだな。」
こうして、珍しい2人によるオフ会が開かれることになった。
「って、ここなのか…。」
「あれ?宗さん、ここ知ってるんですか?」
あかりがおすすめと言ったお店に来た僕が、こんなことを言うのも仕方がないはずだ。
なぜならここは、「纐纈」と一緒に来たあのお店だったからだ。
…いや、駅を聞いた時になんとなく予測はしてたが、まさか本当に当たるとは思わなかった。
「ああ。」
「そうだったんですか…失敗しちゃいました。」
「そんなこともないぞ。結構このお店好きだからな。特に雰囲気が。」
「そうですよね!よかった~共感者がいて。」
僕の言葉にテンションを上げるあかり。サプライズにならなかったショックは共感できたことでどこかに消えてしまったようだった。
「お、坊主じゃねぇか。今日は彼女連れかい?」
店に入った途端、マスターにそんなからかいをかけられる。そういった話をする程度には常連だった。
「どうも、お久しぶりです。僕の周りの話を知ってて尚、そう言ってからかいますか。彼女は、部活の後輩ですよ。」
「こんにちは、マスター。」
僕の言葉に反応して挨拶をするあかり。
「あ、嬢ちゃんか。最近よく来るだろう?名前は知らないが、顔は覚えてるぞ。」
「覚えてくれてたんですか!?」
「ああ。何度もきてくれる客を覚えないほどボケてはいないよ。」
そう言って、豪快に笑うマスター。その笑いに釣られる人2名。
「じゃあ、奥の席つかっていいかい?」
「ああ。おまえが1人で来ないのは、何回目だ?」
「…2回目だよ。マスター。」
そう言って、テーブル席に座る宗。向かい側にあかりも座る。
「そうだったか?まあ、いいか。2人とも注文は?」
「僕はコーヒーかな?」
「ウチも同じくコーヒーで。」
「了解。少し待ってな。」
オーダーを取って、バーに戻るマスター。それから、5分もしないうちにコーヒーが運ばれてきた。
「コーヒー2つ、お待ちどう様。」
テーブルに置かれる2つのカップと1つのお皿。そのお皿の上には焼きたてのパウンドケーキがのっていた。
「マスター、これは?」
「さっき焼いたばっかりのパウンドだ。まあ、サービスだと思って食べてもらっていいぞ。帰るときにでも感想を言ってくれれば十分だ。」
「マスター、ありがとう。」
「ありがとうございます。」
僕とあかりのお礼を照れくさそうに手を振るマスターの姿はあまり見たことのない姿だった。
「しかし、まさか宗さんがここの常連だとは思いませんでしたよ。
私もいくつかカフェを回ってて、見つけたんですけどこのカフェいいですよね!」
「それは同感だな。というか、僕はこの店は友達に教えてもらったんだ。
その時きてから、どうも常連客になってしまったな。」
「なるほど。その友達ともなんか共感できそうな気がします。どんな人ですか?」
「…中学の時の友達に教えてもらったから、僕達の学校にはいないな。」
「それは残念です。でも、宗さんと共感できただけで十分ですよ。まだこの時期じゃ、ここに連れてくるほど仲がいい友達はいませんから。」
「まあ、まだ入学したばかりだからそんなもんだろう。」
「そうですよね。あ、宗さん。少し相談したいことがあるんですけどいいですか?」
「別にいいぞ。大体予想が付くが。」
「予想通りだと思いますよ。翔也くんについてです。翔也くん、鈍感ってわけじゃありませんよね?」
「ああ。本人に聞いたわけじゃないがお前の気持ちにも気づいてるだろうな。」
「それなのに、振り向いてくれないんですよね…さすがに傷ついてきますよ…。」
「まあ、その理由もわかって言ってるんだろう?」
「もちろんそうなんですけどね。宗さんは、佳音が翔也くんと付き合った場合どうしますか?というか、あり得ると思いますか?」
「あり得るとは思うよ。別に佳音が翔也と付き合ったからと言って、どうするってこともないだろうな。そのまま、応援するだけだ。」
「…取られたくないっていう気持ちはないんですか?それとも、そんなことは絶対にないと?」
「別に無いわけじゃないが、基本的に佳音の意思を尊重するだろうなぁ。
付き合ってるって言ったってここ1ヶ月ぐらいの話なんだが、別にここ1ヶ月で劇的に変わったわけじゃなくて昔からあんな感じだからな。
最初に相談を受けてからもう1年半は超えてるし、今更付き合ってなくたって行動は変わらないだろうな。多少は遠慮するだろうけど。」
「…すごく特殊だってことはよくわかりました。いいなぁ~ウチも翔也くんとそんな間柄になりたいですよ。」
「はは。もともとあかりと翔也のような出会いのほうが普通だからな。
で、話を戻すが翔也も踏ん切りがつかないんだろうと思う。」
「踏ん切りですか?」
「自分は、佳音にそれとなく気持ちを伝えてるのに一向に気づいてくれない。
さらに、自分に好意を向けてくれる人がいるけど、自分の心との葛藤で悩んでるんだろ。
本来なら、今の不安定な時も助けてあげたいんだが本人から相談されてるなら別だが、そうじゃないならでしゃばるできじゃないかなと思ってる。」
「そんなもんですかね…。片想いの身っても辛いもんですよ。」
「それは、よく分かるな。」
「宗さんが好きだった人って佳音ですか?」
「いや、違うよ。去年のクラスの友達でね、告白したんだが結局断られてしまったんだ。向こうもこっちに好意を持ってくれていたみたいなんだけどね。」
「どういうことですか?付き合っていた人がいたとか?」
「そういう訳じゃないよ。いろいろとすれ違いがあっただけの話だよ。」
「やっぱり、恋って思い通りには行かないものですね。」
「そうだから、楽しいんだろう?」
「そうですけど、やっぱりトラブル無くいけたらなんて思ってしまいますよ。
あ、あともう1つ相談というか報告なんですが…」
「ん?」
「どうも、翔也くんが性転換したってクラスの噂になってるみたいなんです。」
「え?」
この報告は明らかに予想外だった。
「ウチも詳しいことはよく知らないんですけど、どうも一部の男子でそんな話がでてるみたいなんですよ。
翔也くんの女々しい態度もあって、信ぴょう性が高いの判断する人が多いようで、いじめに発展しないかと心配してるんですよ。」
「そうなのか…この4人のなかにばらす人は誰も居ないし、学校側がバラすとも思えない。一体誰がそんな噂を…。」
「それが、謎なんですよね。とりあえず、また経過報告しますね。」
「ああ。頼む。」
ふと、あかりがクスッと笑う。そうして、笑いながら言った。
「こうやって、相談できる人がいるって良いもんですね。本音で相談できますから。」
「そうだな。僕としても、佳音や翔也に話せない悩みもあるから、あかりに相談するかもしれん。」
「解決はできなくても、愚痴を聞くだけでも悩みって楽になりますよね。誰にも話せないのが一番つらいですし。」
「ああ。
それにしても、おまえと僕ってすごく特殊なつながりだよな。場合によっては、おまえの恋愛の障害にも手助けにもなる立場だし。」
「それはそうですけど、そういった打診より前に宗さんを嫌うっていう印象を受けないんですよね。
まあ、ウチと宗さんの関係って…」
「「先輩(後輩)でしかないですけどね(けどな)」」
あまりのシンクロに吹き出してしまう2人。
その様子をマスターは穏やかに見守っていた。
ユニークが1000人を超えてて、びっくりしました。
ありがとうございます。
みなさんに質問なんですが、ところどころ宗と第3者の視点を入り交じって書いているとおもうのですが見難いでしょうか?
いろいろと試したのですが、納得いく形にできなかったので、今までどおりで投稿しています。
感想、意見などありましたら、ぜひよろしくお願い致します。