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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第1章「出会い編」
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第1話「失恋」

失恋と聞いて悲しいイメージを持たない人はまずいないと思う。

いや、どうもネットの世界では失恋したと聞いてざまあみろと笑う人がいると聞いたことがあるが、できればそんな人とは友だちになりたくないと思う。

まあ、遠まわしに言ってても仕方がない。


僕は失恋した。


さすがに言い訳はさせてほしい。

同じクラス委員でいつも仲良くしていて、(クラスの仕事とはいえ)何回もデートまがいにも出かけた。

その上、バレンタインデーにチョコだってくれたのだ。さすがに好意があるんじゃないかと疑っても仕方が無いと思う。

というわけで、今日、3月14日にバレンタインデーのお返しとして手作りのクッキーを焼いて、告白と一緒に渡した。

けれども、彼女は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに泣きそうな声でこう言った。

「ごめん、付き合うことは…できない。」と。

もちろんOKがもらえるだろうと思っていた僕は、その言葉を聞いて固まってしまった。

無言のままでいるのも不自然だなという結論に至ったのは、その言葉を聞いてからたっぷり30秒ほどたってからだった。

よく見ると彼女は、泣きそうな顔のままうつむいて泣くのを我慢しているようだった。

本音を言えば、それを慰めてあげられたら理想ではあるのだけれども、今回の元凶は僕である。

だから、「わかった。じゃあ、また明日。」と言って先に帰ることしかできなかった。

僕が教室から出ると、ドアの向こうから泣き声が聞こえた。きっと僕がいなくなって涙腺が耐えられなかったのだろう。

僕はいたたまれなくなって、家まで走って帰ってきた。そして今に至る。


「はぁ。」

今日のことを思いだしてついついため息が出てしまう。

しかし、冷静になって考えると違和感があった。なぜ彼女はあんなに泣いていたのだろうか。

さすがに僕の告白がショックで泣き出したとは…考えたくない。

という考察は、僕の部屋入ってきた1人の乱入者によって中断された。

そう。いる?」

ノックもなしにドアを開けた乱入者は僕が机から振り向かないことを不満に思ったのか、僕の後ろまで歩いてくるとそのまま後ろから抱きついてきた。

「宗ちゃん、返事してよ〜。」

「どうして、佳音かのんは人の部屋に無断で入ってくるんだ?それから抱きつくのはやめてくれ。」

僕は我慢できなくなって、そのまま振り向くこと無く返事を返した。

後ろで抱きついているのは、女子の親友だが、女子にしては胸のふくらみが足りないのは諸事情でご愛嬌とさせてもらう。

佳音。僕と同じ高校に通う親友で、頭脳は天才的。

どうも、大学に行っていないのは日本に飛び級制度がないからで、海外にいくつもりも無いからだという。

実際には大学院程度の知識は問題なく持っているらしいが、その真偽は不明だ。

ただ、僕程度の知識じゃ、佳音とは論議を交わすことすらままならないことはこれまで一緒に過ごしてきてよくわかった。

しかし、なぜ僕と同じ高校に通っているのか。自慢じゃないが、僕は決して頭がいいわけでもないし、この高校だって偏差値が60あるかないかってところで、日本のトップレベルの高校に行ったって全く問題ないであろう彼女がこんな私立高校に通っているのは違和感があるであろう。

これには、佳音の2つのわがままが原因だった。

1つは性別。

驚かれるかもしれないが、佳音は中学生の頃まで男子として過ごしてきた。

男子バスケ部のレギュラーで、小柄ながらも素早い動きで大会でも活躍してた。(ちなみに僕と佳音が知り合ったのも小学校のバスケ部がきっかけだ。)

そんな感じで中学3年生の引退まで同じ部活の親友として中学時代を過ごしてきた。

佳音に変化が訪れたのはそんな引退の頃だった。

いつも一緒にいて遊んでいるのは変わらないのだが、急に僕に甘えてきたりやたら真剣な話をしようとしたりするのだ。

(ちなみに、佳音は男子の頃から小柄だったから、甘えられても弟が絡んできているような気分で特に違和感がなかった。)

最初は軽くあしらっていた僕も、段々違和感に気づいた。そして、佳音の悩みを聞いた。

しかし、それは僕が思っていたよりも、重大で予想外だった。

「恋愛対象として、宗のことが好き。」

佳音はうつむき、遠慮がちながらもそう言ってのけたのだ。

僕は、驚きしか示せなかった。どうも、一部の女子の間では男子同士が恋人になるという「ボーイズラブ」という考え方があるというのは小耳に挟んだことがあるが、僕が好きなのは一般的な女子で、たとえ小柄で男らしさに欠ける親友であっても佳音をそういった目でみることはできなかった。

だが、話を聞くうちに僕の思っていたものとは違うということに気づいた。

「男子として男子の宗が好き」なのではなく、「女子として男子の宗が好き」だというのだ。

どうも、異性である女子には興味がなく、むしろ男子の着替えのほうが興味がそそられるのだという。

本人曰く、そういった症状のことを「性同一障害」と言い、心の性別と体の性別が一致しないこと指すのだという。

だが、佳音が知っているのは所詮知識であり、その解決法がわかるわけではない。(特に心の病に具体的な対処法は少ない。)

そのため、自分の心が不安定になり、いままでの不審な挙動につながったのだという。僕に甘えてきたのも、佳音の中にあるリミッターを一時的に解除したからであるとも。

僕は、この告白に戸惑いを隠しきれなかった。もっと軽い悩みかと思っていたら、対処しきれるかわからないレベルで問題が出てきたのである。

頭脳で足りない僕に佳音のサポートができると思わなかったというのもあるだろう。

だから、1日考えさせてと僕は佳音に頼んだのだ。彼は少し寂しそうな顔をしながらも了承してくれた。

次の日、僕が出した結論は単純なものだった。

「気持ちには応じられない。ただ、親友として相談にのりたい。」

僕のこの言葉に佳音は嬉しさ半分、悲しさ半分というような顔をしていたのをよく覚えている。

それからは、普段の生活から気を遣うようになった。

少しばかりよそよそしく感じた面もあっただろうが、それ以上に親身になって考えてくれて、尚且つ一緒にいる時間が長いといった変化のほうが佳音には嬉しかったらしく、彼の…いや、彼女の精神は段々安定に向かっていった。


僕への告白から約2ヶ月。佳音は一大決心をした。

「性転換手術を受ける」と。

佳音の悩みについて、佳音は僕以外に誰にも話していない。それを、家族とはいえ打ち明けるのにはかなり勇気が必要だっただろう。

実際、何度も相談して、二人で考えに考え抜いた結果だった。

幸いにも佳音の両親は理解のある人達で、さすがに驚きはしたもののその提案を受け入れてくれた。

その時は手放しで喜んだものだが(ちなみに、なぜかその場に宗もいた。さすがに宗のことが好きな事は言わなかったが、宗に打ち明けていたということは話したので違和感を持たれることはなかった。)よく考えてみると、息子(現在は娘だが)の提案に悩む時間をかけずに了承してくれたということは、一般的な常識から見たらずれていると言えるだろう。

その後の医師との相談で、高校から女子として通うのがいいだろうという結論に至り、今に至るというわけだ。

というわけで、同じ中学の友達がたくさん通う公立高校ではなく、知り合いの少ない私立高校に通っているのはそういった友人関係を一新したかったという意図なのだ。

長くなってしまったが、2つ目の理由。

それが僕だった。

佳音は僕と同じ高校に通うことを望んだ。ただ、僕と佳音では学力レベルに天と地ほどの差がある。

その上、学費の問題から私立に通おうとはかんがえていなかった。

だが、佳音はその頭脳で残した実績をつかって、一般的な入学では考えられない方法で僕達2人の入学を決めた。

もともと、一部の学会(大会ではなく大学の学会だ)との親交があった彼女は、いくつかの高校から学費免除どころか、奨学金を支給してもいいから入学してくれと打診があった。佳音はこの時点でもうある程度の実績を残していたのでその実績をもつ人が入学したというだけでもいいアピールになると考えたのだろう。

それを佳音はフル活用した。

打診のあった高校の1つに連絡を入れて、いくつかの条件付きで入学することにしたのだ。

その条件は3つ。

性別が変わったことについて学校側からリークしないこと。学費を免除すること。そして…僕も同時に入学させること。

この条件を難なく飲み込んだ高校側にいくつか問いただしたいことはいくつか合ったが、とにかくこれによって変則的な推薦入学がきまったのだった。

「はぁ…。」

佳音を見て、入学に至るまでのことを思い出しついついため息が出る。

楽に入学できたとはいえ、苦労がなかったわけじゃないからだ。

「顔見て、いきなりため息はやめてよ。そんなに私のこと嫌い?」

僕のため息を見て佳音は文句をいってきたが、なぜかそこに僕の気持ちを絡めてくる。

性転換して1人称が「僕」から「私」になったのはいいのだが、男女ならいいという免罪符になっているのか事あるたびに僕の気持ちをきいてくるのだ。

「嫌いじゃないよ。まあ、恋愛対象として見れるかどうかは微妙だけどね。」

「うぅ…さすがに傷つくよぉ。これでも女らしくしようと努力してるのに。」

「その努力は認めるよ。だからって、僕の部屋にミニスカートで入ってくるのは疑問が残るけどな。」

「だって、カップルでしょ?」

「違う、親友だ。」

「それは、昔の話。今は、恋人のつもりなんだけど。」

「残念ながら、今も昔も佳音は親友なんだけどな。」

「まあ、拒絶されてないだけましと考えるべきかな?」

僕の言葉に少し悲しそうな表情を浮かべたが、すぐになかったように明るいテンションで言った。

「そういえば宗ちゃん、さっき沈んでたよね?何かあった?」

「…いや、何もなかったよ。ただ、ぼーっとしてただけ。」

僕は機転を利かしたつもりだったが、もともと佳音に気付かれないとは思っていない。ましてや恋愛関係なのだ。佳音が気づかないわけがなかった。

「うーん、そのテンションだと失恋かな?私がいるのに誰かに告白したとは思いたくないけど。」

こうやって、見事に当ててくるのだ。いくら毎日会っているとはいえ、すごいを通り越して正直怖い。隠し事ができそうにない。

「よくわかるな。そのとおりだよ。告白してふられた。」

「ガーン…って嬉しいのか悲しいのか微妙だね。」

わざとらしく擬音を口にして、佳音は少し悩むような仕草をした。

「人の失恋を喜ぶような人とは友達になりたくないね。」

「残念ながら、カップル以上親友以下なのでもう手遅れです。」

「いや、逆だろ。って、そんなことはいいや。とりあえず、話はしたほうがいいだろ?」

「うん。多分話を聞くまで帰らないと思う。」

「もともと同姓とはいえ、夜遅くまでいられたらさすがに困るな。」

「私としては同棲だったら大歓迎なんだけどね。」

「会話のはずなのに、ニュアンスで漢字が浮かぶって嫌だな。」

「いいじゃん。って、会話が進まないから話してよ。本当に泊まってくよ?」

「わかったわかった。まあ、単純な話なんだよ。クラス委員の纐纈こうけつに告白したってだけの話。何回か好意を示されたように感じたから、うまくいくとおもったんだけどな。」

「宗って贅沢だよね。」

「一人身が告白して何が悪い。」

「宗はわかっていってるから性質たちが悪いんだよね。一人身なわけがないじゃん。」

「とりあえず、お前はカウントにはいってないぞ。」

「男のツンデレってかわいくないよ?」

「誰がツンデレだ。」

「そういや、中学の頃は宗、よく告白されてたよね。」

「ああ。なぜか高校に入ってから、一回も告白されたことがないけどな。」

「その理由教えたあげようか?」

「ん?佳音、理由知ってるのか?」

「うん。まずは、私がいるから。」

「…そういや、それはかなり大きい理由だな。」

佳音が言ったのは誇張でも何でもない。

学校が終わるたびに、僕のクラスに来て帰ろうと誘うのはもちろん、一時期授業の度に来ることもあった。

その度に、僕と腕を組もうとしたりと何かと見せびらかそうとしてる。

そして、付き合ってるの?と聞かれるたびに自信満々に頷くのだった。

僕も全力で否定しているが、佳音の事情を知らないみんなは、照れているだけと認識している人も少なくないのだった。

「それからもう1つあるんだけど、これって噂の域を超えないんだよね。」

「どんな噂だ?」

「先生側が、宗と誰かが付き合うのを止めてるって噂。」

「え?さすがにそれが本当だったらショックだぞ?」

「だから、噂だって。ただ、どこかで耳に挟んだ気がするんだよね。」

「…そんな噂は嘘で有ることを祈るばかりだな。」

そんなわけで話が逸れたお陰で僕の告白について、深く追求されることはなかった。

それが良かったのかどうかは、判断に迷うけれども。

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