第六章 永遠の楽園と泥底
【第二話 第六章 あらすじ】
激突する守者の青い生体電流と、ドラゴンハンターたちの黒い鉄塊。
血と衝撃波が交錯し、息詰まる死闘が繰り広げられる聖域に、四つ足の少女・ミナが静かに姿を現す。
欲望と傲慢を解き放ち、龍の心臓へ向けて禍々しい巨砲の砲口を向けるハンターの首領。
絶望的な殺意が弾け飛ぼうとするその刹那、一切の身構えも見せずに歩み寄ったミナの手が、彼の鉄の胸甲にそっと触れる——。
その瞬間に放たれる、世界のあらゆるノイズを掻き消すほどの「圧倒的な静寂」。
数万年の間、人間が抱え続けてきた恐れ、支配欲、そして「人間でなければならない」という重荷が洗い流されていく中で、ハンターたちが最後に見据える光景とは。
神、人間、機械、そして異形——すべての歪んだ自意識が泥の底へと溶けていく。
長きにわたる二千年の狂乱に終止符を打ち、言葉を持たぬ生命たちが永遠の平穏へと辿り着く、第二話を締めくくらす感動と衝撃の最終章!
ミナの瞳には、血を流して戦う守者も、醜く兵器を纏うハンターたちも、等しく「悲しい星の欠片」として映っていた。
ミナは四つ足でゆっくりと歩みを進める。
ハンターの首領・ゾルが、胸の蒸気機関を暴走させながら、ミナに向かって巨砲の砲口を向けた。
「邪魔だガキがぁ! その澄ましたツラを吹き飛ばして、今度こそこの星を人間(俺たち)のものにしてやるぇぇっ!!」
引き金が引かれ、火薬が爆ぜる——。
だが、砲弾が放たれることはなかった。
ミナは一切の身構えを見せず、ただ四つ足でゾルの足元まで歩み寄ると、その鉄と腐肉で固められたゾルの胸甲に、小さな爪でそっと触れたのだ。
……スッ……
その瞬間、ゾルの脳内に流れ込んだのは、果てしない「静寂」であった。
数万年の間、人間という種族が抱え続けてきた「死への恐怖」「他人より優れていたいという欲望」「奪われることへの疑心暗鬼」。
それらすべての脳内ノイズが、ミナのあたたかな体温を通じて、真っ白な無へと洗浄されていく。
「な……んだ……これ……? 俺は……俺たちは……何をそんなに焦っていたんだ……?」
ゾルの手から、ずっしりと重かった巨砲が力なく滑り落ちた。
背中に背負っていた狂気の蒸気機関がカラカラと音を立てて分解し、彼の肉体から不快なガソリンの匂いが消えていく。
彼を苛み続けていた「人間でなければならない」という重荷が、嘘のように消え去っていた。
「……あ……あ……」
ハンターたちも次々と兵器を捨て、その場に崩れ落ちるように膝をついた。
彼らが生まれて初めて見上げたのは、奪い合うための力でも、神々の冷酷な兵器でもなかった。
樹海の隙間からやさしく降り注ぐ太陽の光と、頬を撫でる心地よい風の揺らめきであった。
奪い合う必要など、最初からどこにもなかったのだ。
この温かな星の肉の上に横たわり、ただ息をし、体温を分かち合うだけで、すべては満たされていたのだから。
守者は静かに槍を引いた。
彼もまた、手にしていた有機の槍を地表の泥へと深く突き刺し、手放した。
槍はすぐに大地へ根を張り、数秒後には青い花を咲かせる一本の樹木へと姿を変えた。
守者は四つ足になり、ミナの隣へと身を寄せた。
ハンターだった男たちも着ていた鉄屑を脱ぎ捨て、泥の上に横たわり、星の脈動に身を委ねた。
ドクン…………ドクン…………
地底深くから響く古生龍の鼓動は、もう破滅の恐怖を孕んでいなかった。
それは、自らの背の上で生きるすべての命を優しく包み込む、母の胎内のような温かな心拍であった。
神も、人も、ハンターも、異形も。
すべての歪んだ「自意識」は、泥の底へと溶けて消えた。
あとに残されたのは、言葉を持たぬ生命たちが、寄り添い合いながら静かに風の音を聞く、永遠の楽園だけであった。
(第二話・全章完 / 第三話へ続く)




