第7話 クロネコ
スコールが、水晶に触れると、
光が強く脈打つ。
空中に、淡い文字が浮かび上がった。
スコール
・攻撃力 8
・魔力 3
・魔法適正 水/木
・固有能力 決死
「……おお」
ミロクが小さく息を呑む。
自分より高い攻撃力。
魔力も上。
そして――固有能力持ち。
胸の奥が、ちくりとした。
少しだけ、悔しい。
だがタカミザワの視線は、別の一点に向いていた。
「……“決死”?」
眉がわずかに寄る。
地下の書物をいくつも読んできたが、
その単語の明確な記述はなかった。
潜在能力開示魔法のレベルが低いせいか、
詳細は表示されない。
だが、名が示すものは重い。
おそらく、
――死を覚悟したときに発動する何か。
雨音が、遠くで響く。
「なんか、変だったか?」
スコールが平然と言う。
「変なもんか。次は俺だ」
ケイタロウが前へ出る。
勢いよく水晶に触れると、
光が揺らぐ。
ケイタロウ
・攻撃力 10
・魔力 0
・魔法適正 無し"守人"
・固有能力 水波
沈黙。
魔力0。
はっきりと、ゼロ。
だが、攻撃力は高い。
そして、“守人”。
タカミザワが、ゆっくり口を開く。
「……守人、か」
「強いのか?」
ケイタロウの声は、少し低い。
「守人には、魔法が効かない」
静かな断言。
「書物にそうあった」
空気が変わる。
ーーーーーーーー
魔法を学ぶ場で、
魔法が効かない存在。
それは、異質だ。
ケイタロウの胸中は複雑だった。
魔法は使えない。
だが、魔法に侵されない。
しかし、風魔法の影響は受けた。
それは誇りか、孤立か、それとも…。
「なぁ」
ケイタロウが水晶を差し出す。
「タカミザワ、お前もやれよ」
ほんのわずか、タカミザワの眉が動く。
「……いいだろう」
指先が水晶に触れた。
光が、今までで一番静かに、
しかし深く揺れる。
タカミザワ
・攻撃力 1
・魔力 1
・魔法適正 全
・固有能力 絶対記憶
攻撃力1。
魔力1。
数字だけ見れば、最弱。
だが、
"魔法適正 全”。
そして、“絶対記憶”。
ミロクとスコールが顔を見合わせる。
強いのか。
弱いのか。
まるで判断がつかない。
だがタカミザワは、口元をゆるめた。
「魔法適正“全”。
それだけで、すべての属性の応用が可能だ」
「そして“絶対記憶”」
眼鏡の奥の瞳が、静かに光る。
「見た魔術、読んだ知識、感じた魔素の流れ――すべて記憶する」
雨音が強まる。
地下の空気が、わずかに震える。
才能無しと烙印を押された少年は、
すべてを記憶する。
これは偶然ではない。
タカミザワにとっては、完全な"必然"だった。
ーーーーーーーー
季節は巡り、小学一年生の夏。
空は抜けるような青。
海はまぶしく、砂は足裏を焼くほど熱い。
図書館の地下で魔法を学んでいた三人は、
いま“ケイタロウの秘密の浜辺”に集まっていた。
波音が、ゆるやかに続く。
「いくぞ、ミロク」
ミロクは両手をかざす。
「風よ、球となれ――“風球”!」
風の塊が、一直線に飛ぶ。
そして、スコールは水を集める。
「水よ、球となれ――“水球”」
水の球が、不安定な軌道で飛ぶ。
そして。
「来い!」
ケイタロウが胸を張る。
風も水も、その身体に直撃する。
だが、
彼は一歩も退かない。
魔力0。
しかし、魔法が効かない“守人”。
「……くそ」
ミロクは膝をついた。
体内の魔力が足りないのか、
喉がカラカラだからか、視界がくらむ。
スコールは額に汗を浮かべているが、
まだまだ余裕があるようだ。
ケイタロウは、無傷。
自分だけが弱い。
嫌でも、分かる。
それでも、
あの図書館での秘密を知る四人。
魔法という非日常を共有していること。
それだけで、胸が熱くなる。
弱くてもいい。
――そう思えるくらいには。
「……のど乾いたな」
「ジュース取ってくるわ」
スコールとケイタロウは、
ケイタロウの母が経営する海の家へ向かった。
波の音だけが残る。
「俺って、やっぱ弱いのかなぁ……」
ぽつりと呟き、
ペットボトルに少しだけ残ったスポーツドリンクを飲む。
ーーそのときだった。
「おんなニャー!」
圧倒的に場違いな声。
ミロクは振り向く。
二十メートルほど先に、
黒髪の目元の隠れた怪しげな少年。
その前には、水着姿の若い女性。
動けず、驚いている。
走っても助けられない、
ーー魔法を使おう!
だが。
タカミザワの言葉が脳裏をよぎる。
"――魔法は世界的な秘密だ。"
一瞬の躊躇。
その間に、少年は女性に馬乗りになる。
「いただきますニャー!」
迷いが、消えた。
「風よ、球体となりて砂を巻き上げ、敵の頭を狙え――“風球”!」
風の球が一直線に砂を巻き上げながら飛び、
少年の顔面に直撃。
「ニャッ!?」
砂が少年の目に入り、視界を奪う。
ミロクは駆け寄り、女性の手を引いた。
「こっちです!」
波打ち際を離れ、海の家に近い岩陰へ。
……やがて、少年の姿は消えた。
「あ、ありがとうございます……」
女性の目にも砂が入ったのか、目をこする。
「い、いえ……」
ミロクは、今さら女性の水着姿に目のやり場を失い、顔を赤くする。
「あ、えっと…」
「海の家が近くにあるので、そっちに避難して下さい!」
「……それでは!」
ミロクは早口で言うと、
逃げるようにその場を去った。
ーーーーーーーー
浜辺へ戻る途中。
あの少年と、再び出会う。
「お前、魔法が使えるのかニャ?」
開口一番。
“魔法”。
一瞬で血の気が引く。
「怖がることはないニャ」
「魔法については、秘密にしてやってもいいニャ」
「その代わり、“約束”を交わしてもらうニャ」
「……なに?」
「我は死神……ニャ」
正直、冗談にしか聞こえない。
「“魂の契約”をしてもらうニャ」
ふざけている。
おそらく、"ごっこ遊び"か何かだ。
そう思った。
だが、秘密を握られているのも事実。
「……わかった」
次の瞬間。
少年の口元がニヤける。
ミロクの足元に、黒い光が円を描き、
砂が沈み、冷たい感触が走る。
息が詰まる。
「これで契約は完了ニャ」
不気味に笑い、少年は静かに言った。
「あの女性はクラゲの毒に侵され、今日この砂浜で命を落とすはずだったニャ」
「しかし、お前はあの女性を助けたニャ」
「死神の仕事を邪魔したんニャから当然の仕打ちニャ」
少年は振り返る。
「ニャーのことは“クロネコ”と呼ぶニャ」
そう言い残し、
砂浜をブラブラと歩きながら、
波と陽光の蜃気楼に、溶けるように姿を消した。
浜辺に残されたのは、
波音と、汗ばむ空気と。
契約という、見えない鎖。
キャラクター紹介
・クロネコ(死神) 誕生日4月4日 7歳
天満寺の階段下にある公園の近くの家に住む少年。
家族構成は、父、そして沢山の兄弟、妹。
父は死神王であり、この世の全ての魂の循環の役割を担っている。
兄弟達もまた死神であり、世界中に散り散りになって、魂を集め、時には食べながら暮らしている。
妹はクロネコと共に暮らしていて、ゲームが好きな引きこもり。趣味でゲーム配信をやっている。
クロネコは兄弟達の中では一番弱く、父からも才能が無いものとして見られていて、比較的に治安が良く平和的な街に住まわせられている。




