第5話 タカミザワ
六月。
梅雨の雨が、校舎の窓を淡く叩いていた。
図書館はいつも通り静かだ。
雨音が屋根に落ち、ページをめくる音だけが小さく響く。
**高見沢 賢志**にとって、ここは家のような場所だった。
家よりも、ずっと静かで。
家よりも、ずっと温かい。
彼の父は、“魔法教会”と呼ばれる魔法研究機関に勤めている。
若くしてその会長に就き、同時にこの学校の理事長でもある。
魔法という概念は秘匿されている。
国家どころか、世界レベルの職務。
だが。
タカミザワにとって父は、誇れる存在ではない。
生まれてすぐに行われた“能力開示魔法”。
魔力――1。
魔流――1。
魔圧――1。
魔法使いの名門に生まれながら、才能無し。
父は世間体を守るために、彼を排除はしなかった。
教育費の入った通帳を渡し、理事長権限で図書館の利用を自由にした。
それは、優しさではない。
事実上の勘当だった。
だから、図書館以外に行く場所はない。
本だけが、味方だ。
ーーーーーーーー
――そのはずだった。
「なーんで梅雨ってこんなにダルいんだよ」
声が響く。
あの三人だ。
ケイタロウ。
ミロク。
スコール。
タカミザワの中では“バカ三トリオ”。
今日もジュースと菓子を手にしてやってきた。
――ジュースと菓子を、手に?
タカミザワは椅子を引いた。
「おい!」
図書館の静寂を切り裂く声。
「図書館では飲食禁止だ!」
「今すぐここから出て行け!」
だが三人はどこ吹く風。
携帯ゲーム機まで取り出している。
「昼休み終わったらどっか行くって」
ケイタロウが笑う。
ミロクは手を合わせて謝る仕草。
スコールは無心で菓子を食べている。
タカミザワは言葉を失った。
やがて、席を奥の方へ移し、耳栓をする。
ページを開き、活字の世界に潜る。
現実という不条理から、逃げ込む。
父も母も、妹も。
もはや味方ではない。
本だけが、唯一の味方。
ーーーーーーーー
そのとき。
――ドン。
鈍い音。
耳栓越しでも分かる振動。
顔を上げる。
ケイタロウが本棚にぶつかり、
落ちた本が、ジュースに直撃した。
鮮やかな色が、ページを染める。
タカミザワの喉が、ひくりと鳴った。
本は親友だ。
それが、汚された。
「……っ」
声にならない。
「やべ…!」
三人は慌てながら、さらに本棚へ身体をぶつける。
その瞬間。
――カチッ……。
聞いたことのないスイッチ音。
図書館の奥の棚が、ゆっくりと動き出した。
重い石が擦れるような音。
隙間が、闇を覗かせる。
「……隠し部屋?」
タカミザワは呟いた。
雨音すら遠くなる。
「えっと……なんかゴメン?」
ミロクの声は、届かない。
タカミザワは立ち上がる。
恐怖はない。
むしろ、胸の奥が、わずかに高鳴る。
現実より、本の世界のほうが信じられるのなら。
この奥は――本の続きかもしれない。
彼は一歩、暗闇へ踏み出した。
その後に、三人が続く。
「すげー!隠し通路だ!」
呑気な声。
そして、
本棚の奥に広がる、未知の空間。
そこに待つものは――。
まだ、誰も知らない。
キャラクター紹介
・タカミザワ(高見沢 賢志) 誕生日 11月1日 7歳
父の権限で図書館を借りて住んでいる。
運動神経は皆無で、頭脳派で記憶力に優れている。
父は魔法教会会長と学校の理事長。厳格な性格。
母は魔法教会幹部で優秀な魔術師。冷徹な性格。
妹は魔法の才能に恵まれていて、将来有望。
タカミザワは魔法の才能が無い事から、父から事実上の勘当をされており、ネグレクト状態。母も特に干渉せずに、妹を非常に溺愛している。




