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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
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第3話 スコール

 入学式が終わってから、一ヶ月。


 五月の連休も終わり、桜も青い葉を生い茂らせる頃。


 "あおき こう"は、いまだに友達がいなかった。


 休み時間も、給食の時間も、ただ時間が過ぎるのを待つだけ。

 話しかけられることもなければ、話しかける勇気もない。


 退屈な学校生活。


 けれど、ひとつだけ、学校中で知れ渡っている話があった。


 ――ミロクとゴリラ。


 "ごうだ りきや"に睨まれ、追いかけられ、逃げ続ける少年。

 一ヶ月前の騒動は、もう学年どころか、学校全体で噂になっていた。


 その話は、"こう"の耳にも届いていた。


 興味はなかった。

 ただの面倒ごとだと思っていた。


 その日までは。


 ーーーーーーーー


 放課後。

 掃除当番でたまたま訪れた、

 人の気配の少ない校舎裏。


 物音がして、"こう"は足を止めた。


 壁の陰から、そっと覗く。


 そこにいたのは、ゴリラと

 ――地面に倒れている、小さな影。


 ミロク。


 制服は土で汚れ、息も荒い。

 まるで、使い古された雑巾みたいに、力なく横たわっていた。


 今日は、ケイタロウの姿はない。


 逃げ続けた一ヶ月。

 ついに捕まったのだろうか…?


 "こう"の胸の奥で、何かが軋んだ。


 見なかったことにできる。

 いつも通り、静かに帰ればいい。


 けれど、足は動かなかった。


 近くの地面に、一本の木の棒が落ちている。


 "こう"は、それを拾い上げた。


 手に馴染む重さ。


 父の道場で、何度も握った感触と似ていた。


 ーーーーーーーー


 "こう"の家、

 青木家は、古びた木造の剣術道場を営んでいる。


 父はかつて有名な剣士だったらしいが、

 今では、閑古鳥の鳴く道場で、菓子をかじりながら茶をすする、口うるさいだけの男。


 だが――

 剣の腕だけは、本物だった。


 "こう"は、その背中を見て育った。


 呼吸を整え、一歩。


 音を立てず、背後に回り、

 そして――振り下ろした。


 木の棒が、ゴリラの背中を打ち、

 鈍い音が鳴る。


 だが、思ったほど効いていない。

 

 ゴリラは、ゆっくりと振り返った。


「……あ?」


「正義のヒーロー気取りが……」


 子どもとは思えない低い声。

 睨みつける目は、怒りというより、冷たかった。


 "こう"は、木の棒を構え直す。


 震えてはいない。

 ただ、静かに立っている。


 そのとき。


 地面に倒れていたミロクが、かすれた声で言った。


「……スコール……みたい」


 その言葉が、風のように、"こう"の耳に触れた。


 スコール。


 "こう"の目が、ほんの少しだけ細くなる。


 ーーーーーーーー


 棒を構えたまま立つスコールを、ゴリラはじっと見下ろした。


 数秒。


 風が抜ける音だけが、校舎裏に残る。


 やがて、ゴリラは小さく舌打ちをした。


「……ちっ」


 疲れたような、面倒くさそうな顔。


「明日はテメェの番な」


 低く言い捨てると、意外なほどあっさりと背を向け、

 大きな背中が、ゆっくりと校舎の角へ消えていく。


 その姿が見えなくなった瞬間、スコールはようやく息を吐いた。


「……はぁ」


 握っていた棒を、そっと下ろす。


 そして、地面に横たわるミロクのもとへ歩み寄った。


「大丈夫か?」


 手を差し出す。


 ミロクは、少しだけ震える手で、それを握り返した。


「……ありがとう」


 目が赤い。

 涙がにじんでいる。


 けれど、その表情はどこか安心していた。


 スコールはミロクを引き起こしながら、

 五月の空を見上げると、夕暮れ雲が流れていた。


「……明日は覚悟、決めとかないとなぁ」


 ぽつり、とつぶやく。


 声は強がっているのに、横顔はどこか心細い。


 ミロクは、小さく首を振り、

「明日はケイタロウがいるから、大丈夫だよ」


 スコールは、わずかに目を細める。


「ダメだ」


 静かな声。


「ゴリラ――あいつは一度狙った相手は、執拗に狙う」


 視線をミロクに戻す。


「保育園のときから、そういうやつだ」


 それから、ほんの少しだけ口元を上げた。


 “ニッ”と、少年らしい笑み。


「……明日から、よろしくな」


 その言葉は不思議と温かく、

 握手のようでもあった。


 ミロクは、目をこすりながら笑う。


「こっちこそ、よろしく……スコール」


 そのあだ名が、自然に空気へ溶ける。


 スコール。


 急に降って、急に去る、短い嵐。


 その日、校舎裏で、

 新しい関係が静かに生まれた。

キャラクター紹介


スコール(青木 降) 誕生日 4月21日 8歳

 西側の山の麓の竹林にある道場に住む、黒髪短髪の少年。

 剣の腕はそれなりで、穏やかでマイペースな性格。

 家族構成は父、母、姉。

 父は桜花流剣術の道場を営んでおり、過去に"龍殺し"で有名になった事のある凄腕の桜花流剣士。

 母は専業主婦で、桜花流剣術の使い手。

 姉はスコールの1つ年上で、剣の才能に恵まれている。

 家庭内でスコールは剣の才能が皆無とされていて、日常的に父から厳しい稽古をつけられていて、母も父に同情し、姉は稽古と称してスコールを、木刀を使ってサンドバッグの様に扱う。

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