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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
21/25

第20話 予言と計画

やはり、後手。


霧が晴れたミョルニル山脈。

空気は澄み、風は静かに流れている。


風の神殿の前に立つ四人。


「さっきまでの霧が嘘みたいに晴れたな……」

バルバトスが唖然と呟く。


「もしかしたら……来るのが遅かったのかもね」

ヴィネが石壁に触れる。


その指先に、まだ残る魔力の余熱。


アモンの持つマナ石が強く光る。

濃い魔力反応。


すでに、何かが起きた証拠。


四人は慎重に神殿へ入る。


暗い。


絶え間なく吹く風。

石壁をなぞる低い唸り。


最後尾のカイは、チョコレートをつまみながら、小走りでついていく。


そのとき。


——何か。背後に…。


振り向く。


入り口は逆光で眩しい。

一瞬だけ、動く影。


……気のせいか。


野生動物かもしれない。


「カイ。何ボサっとしてるんだ?」

バルバトスの声。


「いま行きます!」

小さな足音が廊下に吸い込まれる。


長い廊下。

ランタンの火が揺れる。


分岐。左と右。

そして壁には古代文字。


「なんて書いてあるかわかんねぇな」

欠伸交じりの悪態。


「右は行き止まりみたいじゃ」

アモンが指す先には土壁。


「左に行くしかないわね……」

ヴィネが肩をすくめる。


ぞろぞろと進む。


そして。


「これは……!?」


横たわる影。


バルバトスが駆け寄り、

触れる。


まだ、わずかに温もり。


死後硬直は始まっていない。

だが、確実に失血死。


「人が、死んでいる……」

低い声。


カイの表情が硬くなる。


誰かが、ここで。


「争った痕跡があるわね」

ヴィネが壁を見る。


衝突跡。

蹴り砕かれた石。

折れたナイフの刃。


アモンは死体を見つめる。


肘から刃。

関節に異物。


肩から胸にかけて、重い斬撃。

真っ二つ。


「異形の死体に、素人の攻撃にしては重い一撃」

立ち上がりながら呟く。


「こいつぁ……暗殺者だな……」


「暗殺者?」

バルバトスが眉をひそめる。


「今時、そんなもんいるのか?」


「いるさ……いつの時代でもな……」

アモンの目が細くなる。


ポケットから煙草。


火をつけ、吸う。

煙が、風に流れる。


「珍しいわね。タバコなんて……」

ヴィネが横目で言う。


「この歳まで生きると、嫌な思い出が山ほどあるんじゃよ」

煙を吐き出し、天井を仰ぐ。


静寂。


だが、それは安らぎではない。


これは。


“先に来た者がいる”という証明。


神殿の空気は、風は、

すでに、何かを連れ去ったあとだった。


ーーーーーーーー


外は秋の風。


落葉が石畳を転がる。

だが魔法教会の会議室は、風も音も遮断されていた。


張り詰めた空気。

重い沈黙。


紳士服の男が、

コツ……コツ……と靴音を鳴らしながら歩く。


「遺跡調査班の報告です」

淡々と。


「遺跡内に成人男性二名の死体」

「広間には壊れた石像」


書類をめくる音。


「細身の男性は肩から胸にかけて斬られ失血死」

「もう一人は土に押し潰され圧死」


一拍。


「端的に言えば……暗殺者が二人、やられました」


ざわめき。

抑えた動揺。


白髭を撫でる大蛇が、低く呟く。


「百目と鎌鼬は中堅クラスだ」

「それをやるとは……少年らは只者ではないな」


沈黙。


誰かが小さく言う。


「やはり……“予言者”の言う通りになるのか……?」


紳士服の男が顎に指を当てる。


「予言者アダムスは現在133歳。植物状態ですが」

「予言は……本物ですからねぇ」


胸元から小さな古びた本を取り出し、

ゆっくり開く。


「アダムス書――34ページ」

低く読み上げる。


「“封印されし時の塔。革命の小さき使徒が解放の狼煙をあげる”」


会議室の空気がさらに重くなる。


「彼の書は抽象的ですが」

「前のページまでは、順に事実になっています」


目を細める。


幹部の一人が解釈する。


「“封印されし時の塔”……十二の神殿」

「“革命の小さき使徒”……魔導書を解放する少年たち」


紳士服の男が軽く頷き、

ページをめくる。


「35ページ」

静かな声。


「“世界の象徴。暗黒の悪魔に飲み込まれ、世界は冷たい闇に沈む”」


空気が凍る。


「世界の象徴とは何だ」

「国か? 教会か? 王か?」

「暗黒の悪魔とは何を指す」

悪態が飛ぶ。


別の幹部が立ち上がる。


「だが36ページにはこうある」

「“救いの光。救世主が現れ世界を救う”」


希望。

——だが。


紳士服の男は静かに本を閉じる。


パタン。


「必ずしも、その通りになるとは限らない」

予言は流れを示す。


だが、解釈次第で形を変える。


アダムスが予言を始めたのは33歳。

約100年前。


災害。

戦争。

崩壊。


すべて的中。


「老い先短いおいぼれの予言など、今気にすることではない」

大蛇が吐き捨てる。


白髭をいじりながら。


「そうでしたね」

紳士服の男が立ち上がる。


「我々がやるべきことは――世界の調和」

「ただ、それだけです」

その言葉は穏やか。


だが、"暗殺者側"が言う“調和”とは、

何を意味するのか。


支配か。

管理か。

封印か。


会議は静かに終わる。


外では、秋の風が強く吹き始めていた。


風は、いつも変化の前触れだ。


ーーーーーーーー


外は曇天。


暖簾を揺らす風は、どこか湿っている。


店内には豚骨と醤油の混ざった香り。

湯気が白く立ちのぼる。


天井隅の小さな古いテレビが、ニュースを流していた。


「気象庁は、本日未明に発生した台風18号について、急速に発達していると発表しました」


「中心気圧は過去30年で最も低い水準です」


「専門家は、上空の異常な気流が原因の可能性を指摘しています」


淡々としたアナウンサーの声。

感情はない。


厨房では、湯切りの音。

ジャッ——。


「この前の洪水といい、また客足が減るなぁ」

店主が小さくぼやく。


「今年は、本当におかしいですね」

カウンター席で醤油ラーメンを啜る、巡査長の(つじ)


ズズッ。

麺を啜る音。


猛暑の山火事。

初秋の洪水。

そして、記録的台風。


偶然にしては、重なりすぎている。


「避難所の準備、どうですか」


店主の問いに、辻は箸を止める。

丼の中のスープを見つめる。


「まだ、駄目だね……」

浸水した避難所は乾いていない。


毛布も、備蓄も、足りない。


風が暖簾を鳴らす。

ガタ、ガタ。


「最近、変な噂聞きません?」

店主が続ける。


「夏には火の鼠、初秋には魚人間」


冗談半分、だが目は笑っていない。


「はい、醤油ラーメン!」


別の客に丼を置きながら、横目で辻を見る。

辻は一瞬、言葉を選ぶ。


「ここ最近は……」


間。


「未確認の大きな鳥が、強風の中、空を飛んでいる」


静かな声。

通報記録の一部。


「この風を……?」


店主が眉をひそめる。


「無理だろう」


鼻で笑う。

だが、その笑いはどこか薄い。


しばしの静寂。


丼を洗う音。

水の音。


外では風が唸る。


そのとき。

厨房の裏口が開く。


「おやじぃ、今帰ったぞ」


低く太い声。


雨合羽に包まれた、二メートルの巨体。


「おぅ!買い物お疲れさん!」


店主の顔が一瞬柔らぐ。


辻が眉を上げる。


「西郷さん、いつから子どもいたんだ?」


「あ?」


店主は頭を掻く。


「まぁ……あれだ」

「八年前に拾ったんだ」


ぶっきらぼう。


巨体の男は無言で野菜を冷蔵庫に入れる。


「こう見えて小学生だぜ、コイツ」

店主が笑う。


本当に、珍しく柔らかい笑顔。

少し驚く辻。


「名前は?」


辻が聞く。


「隆盛」


短く。


辻が鼻で笑う。


「ずいぶん立派な名前だな」


「いい名だろ?」


少し得意げ。


「まぁ、そうだな……いい名だ」


辻は最後の一口を啜る。

丼を置く。


「勘定」


レジへ向かう。


「あいよ。1,200エル」


「やべ……手持ちがねぇ」


財布を開く辻。


「ツケでいい。どうせ明日も来るだろ?」


店主が即答する。


「わりぃな」

「出世払いで」


「明日、払えよ」


二人の笑い声。


ツケの時の、いつものやり取り。

変わらない日常。


辻は店を出る。

手をひらひらと振り、外へ。


風が強く吹きつける。


空は、さらに暗くなっていた。

遠くで、雷が低く鳴る。


台風は、ただの台風か。


それとも——

風は、何かを運んでくるのか。


ーーーーーーーー


外は台風。

図書館の窓を、風が叩く。


ガタガタ、と震える硝子。

大雨が横殴りに打ちつける。


稲光が一瞬、室内を白く照らす。


その光の中。

窓辺のテーブル。


地下書庫から持ち出した古書が数冊、無造作に積まれている。

椅子に深く腰をかけ、足を組む一人の少年。


リンゴ味の飴玉を口の中で転がしながら、ブラックコーヒーを傾ける。


タカミザワ。

この広い図書館に、彼ひとり。


静寂と嵐の対比。


「火、水、風……次は土属性だな」


ページを捲る音。

紙が擦れる乾いた響き。


「フロンティア国モロク自治区。南方の砂漠地帯。土の神殿」


目が細くなる。


「少し、遠いな……」


思考が走る。


日光町は東方の片隅。

南方へは海が遮る。

西へ回り、さらに南へ。


三日では足りない。


冬休み?


雪。

陸路麻痺。

交通費。

生活費。


時間は最低二十日。

いや、一ヶ月。


月一回の通帳振込。

節約しても、四人分の旅費は足りない。


「だとすると……土の神殿は、早くて来年の夏か……」


飴玉を噛む。

コツン、と小さな音。


別の本を取る。


炎の神殿。

氷の神殿。

雷の神殿。

地の神殿。


いずれも魔物が強い。


影の神殿。闇の神殿。所在不明。


光の神殿。聖の神殿。海外。


「どうしたものか……」

ため息。


だが、それは長く続かない。


「いや……」

目が鋭くなる。


「レベル上げ……魔物退治だ」


最優先事項。

あいつらは弱い。


感情に流される。


吐く。

震える。


だから、強くしなければならない。


「利用できる"駒"が、もっと欲しいな……」


ぽつり。

本音。


仲間ではない。所詮は"駒"。


丸メガネの奥で、目が光る。


「“金持ち”」

「“前衛”」

「“後衛”」

「“情報屋”」

「“火、炎、光、聖いずれかの適性者”」


スラスラと並ぶ条件。


旅には金。


戦闘には前衛、すなわち壁。


後衛は火力、支援。


神殿の場所には情報。


氷や闇に有利な相性。


合理。

徹底した合理。


「探すのは難しい……」


だが、机の上。


布で包まれたそれは、

百目の左手。


切断面は処理済み。


「これがある」


“千里眼”。


距離も、位置も、

対象さえ捉えれば、見える。


不適な笑み。


「計画通り」


嵐が窓を打つ。

だが、室内は静かだ。


革命は、叫び声では始まらない。

静かな計算から始まる。


世界を動かすのは、感情ではなく設計図。


そして、

彼はもう一線を越えている。


仲間を強くするため。

世界を変えるため。

必要ならば、何でも使う。


嵐はまだ止まない。


だが本当の嵐は——

ここから、始まる。

キャラクター紹介


(つじ)さん 30代

 日光町の警察。巡査長。喫煙者の男性。


・店長 40代

 西郷ラーメンの店長。

 8年前に、子どもを拾った。


・西郷 隆盛 8歳

 身長2mの巨体。小学生。

 よく大人に間違われる。

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