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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
13/25

第12話 マルオ

 灰の中から現れた小さな赤い鳥。


 手のひらに収まるほどの大きさ。

 まだ閉じられた(まぶた)。淡く揺れる炎の羽。


 四人は言葉を失ったまま、その幼体を見つめていた。


 最初に口を開いたのはタカミザワだった。


「……これは滅多にお目にかかれないぞ」


 丸メガネの奥の目が光る。


「ぜひ、俺のペットにしたい」


 静かに、だが確信に満ちた手つきでフェニックス幼体へと手を伸ばす。


 次の瞬間。


「ギィッ!!」


 鋭い(くちばし)が、タカミザワの指を突き刺した。


「ッ……!」


 血が滲む。


 フェニックス幼体は威嚇するように羽を逆立て、そして――

 ミロクの方をじっと見つめた。


「ミロクに懐いてるみたいだな」


 ケイタロウが笑う。


「ギィ!」


 元気よく鳴く幼鳥に、

 タカミザワは鼻を鳴らした。


「ふん……勝手にしろ」

「懐かないと、色々と意味がないしな」


 意味ありげな一言。


 その直後だった。


 ――ゴゴゴゴゴ。


 不気味な地響き。

 広間中央の石像がひび割れ、砕け散る。


 煙の中から現れたのは、一冊の赤い本。

 炎のように深い紅。


「……火の魔導書」


 タカミザワの声が低く震え、

 ゆっくりと歩み寄る。


 静かに手に取る。


「手に入れたぞ……」


 そして、本を開いた。


 ――瞬間。


 赤く鋭い閃光。


 視界が赤く染まる。


 轟く熱風に、

 広間全体が灼熱に包まれる。


「な、何が起こってる!?」


 ケイタロウが叫ぶ。


 タカミザワは衝撃に耐えきれず尻餅をつき、

 ミロクとスコールは立ちすくむ。


 熱が皮膚を焼く。


 風が逆巻く。


 やがて。


 ふっと、

 すべてが止まった。


 静寂。


「……おさまった?」


 ミロクが呟く。

 その刹那。


「あぁ……!!」


 タカミザワの悲鳴。


 その手にある赤い本。


 ページは――

 真っ白だった。


「な、何も書いてない……」


 指が震える。


 さっきまで確かに何かが宿っていたが、

 それが消えている。


「もともと……ではなさそうだな」


 ケイタロウが低く言う。


 誰の目にも明らかだった。


 本を開いた瞬間の赤い閃光。

 あれが、本の中に封じられていた“何か”。


「……しかたない」


 タカミザワは深く息を吐き、

 ポケットから白いチョークを取り出すと、

 地面に、素早く魔法陣を描き始める。


「それは何だ?」


 スコールが問う。


「脱出用魔法の魔法陣だ」


 淡々と答える。しかし、

 冷静を装っているが、悔しさが滲んでいる。


 やがて陣が完成すると、

 淡い光が浮かび上がる。


「全員乗れ」


 偉そうに命じる。


 ミロク、スコール、ケイタロウ。


 ミロクの頭に乗るマルと、

 ミロクの肩に乗るフェニックス幼体。


 全員が魔法陣に足を乗せる。


 光が強くなり、空気が揺らぐ。


 そして――

 四人の姿は、ふっと消えた。


 広間には、静寂だけが残る。


 ーーーーーーーー


 火の神殿。


 草木に飲み込まれた石造の構造物の前に、バルバトス一行は辿り着いていた。


 湿った空気。


 絡みつく蔦。


 だが、その中に一箇所だけ――

 草木の生えていない、不自然に固く閉ざされた石の扉があった。


 バルバトスは無言で歩み寄り、分厚い石扉に手を触れる。


 冷たい…。

 だが、奥にわずかな“熱”が残っている。


「……誰か入ったのか?」


 低い声。


 耳を澄ませば、森の声が聞こえる。


 鳥たちの囀り(さえずり)。

 獣のざわめき。


 夜から夜明けまでの間に、

 “小さな何者か”がこの場を通った気配。


「おそらく、そうじゃろうな」


 アモンが静かに言う。


 ため息が、バルバトスの胸から漏れる。


 想定外。


 魔法教会からの依頼で来た調査。

 だが、依頼の核心は知らされていない。


 ただ、“火の神殿を確認せよ”とだけ。


 右手で頭をぼりぼりと掻く。


「しかたねぇ……入れるとこ探すぞ」


 一行は無言で周囲を散策し始める。

 草をかき分け、石壁を叩き、裏手を回る。


 その時だった。


 ――ゴゴゴゴゴ。


 地鳴り。振動。


 目の前の石扉が、ゆっくりと地面へ沈んでいき、

 土煙が舞い上がる。


「……空いたのか?」


 バルバトスがぽかんと口を開ける。


 さっきまで確かに閉ざされていた。


 しかし、内部から解錠されたような動き、

 計算が狂う。


 ヴィネが呆れたように言う。


「早く行くわよ」


「へぃへぃ……」


 嫌そうに肩をすくめるバルバトス。


 だが、その目は鋭い。


 神殿内部から流れてくるのは、微かな焦げ臭さと、マナ石が反応を示す残滓のような魔力。


 誰かが、確実に“何か”をした。


 四人は慎重に足を踏み入れ、

 暗く長い通路へ。


 焼け焦げた跡に、

 壁に刻まれた古代文字。


 そして――


 爆発の痕跡。


 バルバトスの表情が変わる。


「……誰か、戦ってたのか?」


 アモンが胸ポケットからマナ石を取り出すと、

 青緑色に強く輝く。


「魔力濃度が、さっきより不安定じゃ」


 ヴィネが壁の灰を指で擦る。


「これは……数分前の爆炎ね」


 カイは黙って、灰を見つめる。

 その灰は、どこか温かい。


 神殿の奥へ進む。


 広間。


 中央の石像は砕け、

 焦げの跡と、灰の山。


 バルバトスは膝をつき、

 灰を指で掬う。


 その瞬間。


 指先に、微かな再生の気配。


「……フェニックスか」


 呟き。


 ヴィネが目を細める。


「冗談でしょ?」


 バルバトスは、

 地面に描かれた魔法陣の残滓に目をやると、

 静かに立ち上がる。


「誰かが、ここにいて、脱出をした」


 空気が重くなる。


 カイは息を呑む。


 自分たちは遅れたのか。

 それとも、何かが動き出したのか。


 バルバトスは広間を見渡し、静かに言った。


「俺たちも出るぞ」


 その声には、興奮が混じっていた。


 ーーーーーーーー


 次の日。


 図書館の窓から差し込む光は、いつもと変わらないはずだった。


 だが、世界は――ほんの少しだけ、変わっていた。


 ミロクは目を細める。


 空気の中に、揺らめく赤い粒子。

 小さな火花のような光が、ふわりふわりと漂っている。


「……これが、タカミザワの言ってた“魔素”なのか?」


 無意識に呟く。


「……そのようだな」


 隣で、つまらなそうに答えるタカミザワ。

 だがその目は、冷静に観察している。


「すげぇな……」


 ケイタロウも、天井を見上げる。

 守人である彼にも見えているらしい。


 魔力を持たなくとも、“流れ”は感知できる。


 図書館の中にも、外にも。

 赤い粒子――火の魔素が、世界中に溢れている。


 まるで、見えなかったものが急に可視化されたかのように。


「空気中に魔素があると、何が起こるんだ?」


 スコールが腕を組む。


 タカミザワは一拍置いた。


「火属性の魔物が、現れるようになる」


 静かな声。

 だが、重い。


 ミロクの脳裏に浮かぶ。


 ボム。

 フェニックス。


「それって、大丈夫なのか?」


 スコールの声が低くなる。


「何も問題はないし、大した事は起こらない」


 タカミザワは即答する。


 毅然とした態度。


 だが、その口元が僅かに歪む。


「むしろ……火の神殿の出来事で、ようやく理解できた」


 丸メガネが光る。


「魔法教会の狙いがな」


 三人に視線を向ける。


「魔法教会は、古代より存在する魔法を封印し、独占し、自分たちに都合のいい世界を作る」


 淡々とした声。


「なぜ封印する必要があったんだ?」


 ケイタロウが眉をひそめる。


「秩序を保つためだ」


 即答。


「一般人に魔法を広めないため」


「魔法がない世界なら、支配は物理で完結する」


「金や銃さえあれば、誰でも支配層になれる」


 机を指先で叩く。


「だが魔法は、その均衡を簡単に壊せる」


 言葉が重く落ちる。


「何者かが、意図的にそういう社会を作った」


 静寂。


 ミロクの胸がざわつく。


 それは正しいのか。


 それとも――

 危うい思想なのか。


 その時。

 ――バタン。


 図書館の扉が閉まる音。


 四人が一斉に振り向く。


「聞かれたか?」


 ミロクの鼓動が跳ねる。


 急いで外へ出る。

 だが、廊下には誰もいない。


 ただ、静まり返った空間。

 風が通り抜ける。


 図書館の中へ戻る。


 机の上に置かれた、白紙の火の魔導書。

 ページが、ぱらりと捲れる。


 世界は、確実に変わり始めている。


 ーーーーーーーー


 図書館近く、階段下の薄暗い踊り場。


 昼の図書館は静かなはずなのに、今日はどこかざわついている。


 外の窓から、ちらちらと赤い火花のような煌めきが見える。


 丸尾秀樹――通称マルオは、膝に参考書を置いたまま動かなかった。


 今日も勉強のために来ただけだった。


 いつも通り、静かな場所で、いつも通り努力を積み重ねるはずだった。


 図書館の扉が開いていた所為か、

 偶然、耳にしてしまった。


 魔素。


 魔物。


 魔法教会。


 封印。


 均衡。


 最初は冗談だと思った。

 子どもの空想。


 だが、彼には分かる。


 あれは、嘘ではない。


 なぜなら――

 彼の父もまた、魔法教会に勤める職員の一人だからだ。


 父は多くを語らない。


 だが、夜遅く帰宅する背中には、ただの公務員とは違う緊張がある。


 幼い頃、書斎で見た古びた資料。


 触れてはいけない空気。

 あれは、ただ事ではなかった。


「世界の秩序を守るために、古代より存在する魔法を封印し独占する……」


 彼らの言葉が頭の中で反芻する。


 それは悪か?

 それとも正義か?


 胸がざわつく。


 だがマルオは、

 感情で判断する人間ではなく、論理で考える。


 狂人が持てば凶器。

 料理人が持てば包丁。


 魔法も同じだ。


 力は中立。

 だが、それを持つ者は中立ではない。


 世界中の人間が、剣や銃を持つ様な社会。

 想像しただけで、寒気がする。


 均衡は壊れ、秩序は崩れる。

 そして――犠牲が出る。


 彼はゆっくりと目を開いた。


 決意の光が宿る。


 ミロクたちは、悪人ではない。

 だが、幼い。


 熱に浮かされている。


 もし、彼らが

 "魔法教会の秩序"を壊し続ければ。


 取り返しのつかないことになるかもしれない。


「止めなければ……」


 呟きは、階段下に吸い込まれる。


 だが一人では無理だ。

 理屈だけでは止められない。


 仲間がいる。


 同じ学年。

 同じ学校。


 正しいと思える仲間を。


 マルオは立ち上がる。


 階段を上がる足音は、静かだ。

 彼はヒーローではない。


 だが――

 秩序を守る側に立つと心に決めた。


 物語は今、静かに二つに割れ始める。

キャラクター紹介


マルオ(丸尾 秀樹) 誕生日 1月11日 7歳

 一般家庭に育つ金髪短髪の少年。

 運動神経はそこそこ、努力家で勤勉な性格。

 家族構成は父、母。

 父は魔法教会に勤めている職員、表面上は公務員として扱われている。

 母は生まれつき病弱で、ずっと病院に入院している。

 事実上の父子家庭、父は仕事を終わらせると寄り道せず帰ってきては、家事を手早くこなしマルオの勉強まで見てくれる。

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