プロローグ
現実から徐々にファンタジーへと移行していく物語です。主人公のミロクとその仲間たちが共に冒険し、剣や魔法、種族や貧富などの経験や学びを経て成長していきます。
山頂にある古い寺は、朝になるといつも家畜の鶏が数羽、朝の訪れを知らせる。
桜の木々をすり抜けた風が、桜吹雪と共に窓の隙間から頬をかすめる。
――ガバッ。
布団から跳ね起きたミロクは、枕元に置かれた目覚まし時計に目を落とし、次の瞬間、顔色を変えた。
「……え?」
針は、とっくに登校時間を指している。
「ヤバい!!」
小学一年生のミロクは、慌てて布団を蹴飛ばし、動きやすい服に腕を通すと、部屋の障子を開け放ち、廊下へ飛び出した。
木造の床板が、バタバタと軽快な音を立てる。
階段を二段飛ばしで駆け下り、渡り廊下を全速力で突っ切る。眼下には朝靄に包まれた山々が広がっているが、そんな景色を味わう余裕はない。
「ミロク、遅刻するぞ――」
台所から聞こえてきた声を遮るように、ミロクは大好物の卵焼きの皿に手を伸ばした。
「行ってきます!」
ふわりと出汁の香りの卵巻きを頬張り、そのまま口いっぱいにした状態で玄関へ向かう。
「はしたないぞ!ミロク!」
祖父の叱る声が背中に飛んでくるが、ミロクは振り返らない。
「ほんとヤバいって……遅刻する……!」
独り言をこぼしながら寺の外へ飛び出し、正面の門をくぐる。朝露に濡れた地面の上で、一本の木の棒が目に入った。
「これだ!」
拾い上げた棒を手に、寺の前に続く長い石段へ向かう。
ミロクは勢いをつけてジャンプし、階段の手すりに棒を乗せた。
――ギィ、と小さく軋む音。
バランスを取るように両足を構え、まるでスケボーに乗るかのように体を預ける。
「よっ……し!」
次の瞬間、ミロクの体は風を切って滑り出した。
朝の山寺に、少年の無邪気な笑い声と、石段を駆け抜ける音が軽やかに響き渡る。
長い階段の終わりが見えた瞬間、視界が一気に開けた。
その先には、山道と町をつなぐ横断歩道がある。
信号機からは「とおりゃんせ」のどこか古くて不思議な旋律が流れ、信号はーーチラチラと赤に変わろうとしていた。
「……まだ、いける!」
ミロクは減速しない。
手すりの終点に差しかかり、棒を蹴り出すようにして大きく跳んだ。
宙に浮いた瞬間、信号は完全に赤へと切り替わる。
同時に、道路の下り坂からエンジン音が唸りを上げて迫ってきた。
トラックだ。
「――っ!」
だが、ミロクの体は迷わなかった。
まるで最初からそこに来ると知っていたかのように、進路をわずかにずらし、風を裂いて飛ぶ。
トラックのボンネットすれすれを、影が横切った。
「なっ――!?」
運転席の男がブレーキを踏む間もなく、ミロクは荷台の上空を越え、向こう側のアスファルトへと抜けていく。
ドン、と軽い衝撃。
両足が地面を捉え、体がしなやかに沈んだ。
――完璧な着地。
トラックはそのまま通り過ぎ、クラクションの喧騒と共に、窓から顔を出した運転手の怒鳴り声が、遅れて背後から飛んできた。
「危ねーぞ! くそがき!」
けれどミロクは振り返らない。
胸の鼓動を感じながら、前だけを見て走り出す。
「……ほんと、時間ないって……」
ランドセルを背負った背中が、朝の町へ溶けていく。
今日は小学校の入学式。
その意味を、ミロクはまだちゃんと理解していない。
ただ、なぜか胸の奥が少しだけ騒がしくて、足は自然と速くなる。
山の上の寺から始まった朝は、
少年を、ひとつ先の世界へと押し出していた。
この日が、ミロクの日常が少しだけ変わる始まりになることを、彼はまだ知らない。
まだまだ小説の作成は勉強中なので、至らぬ点や見苦しい点が山ほどあると思いますが、少しずつでも成長していけるように、そして読者の方に読みやすい作品にするために、頑張らせていただきます。




