7話 精霊たちの助言
アリアが窓辺に佇み、遠く雪に覆われた領地を眺めていると、どこからともなく小さな光の玉が寄り集まってきた。
それは屋敷に潜む、数体の小さな精霊たちだった。
『アリア、あの男の魔力は、いつかこの城を壊すわ』
『彼は苦しんでいる。熱い、あまりにも熱い闇に包まれている』
精霊たちの囁きは、風の音に紛れるほど微かだった。アリアは監視の気配を気にしながら、小声で応じた。
「そうね、わかっているわ。でも、どうすればいいの? 私は魔力も何の力もなくて、何もできない……」
すると、一番小さな光の玉が彼女の頬を撫でるように舞った。
『あなたは魔力がないのではない。すべてを受け止め、無に還す、広すぎる器を持つのだ』
『しかし、今はまだ闇の奔流にあなたの身体が慣れる必要がある。
すぐには、彼の魔力に直接干渉してはならない。
器が整う前に無理をすれば、あなた自身が耐えきれなくなる』
(え!? 私にそんな器が……? ずっとできそこないの無色の聖女と言われてきたのに)
アリアは驚きに目を見開いたが、すぐに真剣な眼差しで尋ねた。
「では、彼を苦しみから一時的に解放する方法はないの? 彼の魔力を安全に抑える方法は? 私にもできることはあるかしら」
精霊たちはカイルの執務室がある方角を見つめ、その魔力の流れを観察するように揺れた。
『魔力は、水を嫌う。特に、聖なる水。そして何より循環を必要とする。魔物を討伐する以外にも、彼の魔力に一時的な逃げ道を与えればいい』
「逃げ道……。討伐や戦争でなければ、どうやって?」
『身体の外へ、循環する道を作るのだ。彼の魔力を、この領地の土壌や水脈へ一時的に逃がしなさい。彼は辺境伯。領地を守る力を、彼の過剰な魔力から得させてやればいい』
その方法とは、魔力中毒や命の危険を伴うような魔力譲渡でもなく、大規模な破壊行為でもない。それは、アリアが持つ「精霊や自然と意思疎通できる能力」があるからこそ可能な、画期的な解決策だった。
(私は彼の命を救いたい。そして、彼から魔力を受けたあの瞬間の感覚……)
もし精霊の言う通り、自分の身体が器なのだとしたら。
この痩せ細った身体は、魔力を受け入れ、循環させる準備が整っていないだけなのではないか。彼の魔力を正しく導くことができれば、自分も普通の身体になれるかもしれない。
アリアは精霊たちに協力をお願いし、監視の目をかいくぐって、カイルの魔力を領地の水脈へと逃がすための準備を始めた。
それは、孤独な辺境伯と、一人の聖女の運命が、
静かに交差し始める、最初の一歩だった。




