62話 両片思いの終焉と新たな始まり
リリアの唇から溢れたその告白は、アーサーの心臓を射抜き、雷に打たれたような衝撃を与えた。
「ば、馬鹿な……。そんなことが、あり得るのか……!」
アーサーは驚愕に目を見開き、震える声で絞り出した。その瞳には、困惑と、それを上回る激しい後悔の色が混じり合う。
「私も、貴女のことが……ずっと、幼い頃から貴女だけが初恋の相手だったのだ。だが、貴女がアルフレッドとの婚約をあんなにも喜んでいる姿を見て……私は、貴女が心から彼を愛していると思い込み、自ら身を引いた。私の想いなど、貴女の邪魔にしかならないと……!」
アーサーの独白に、今度はリリアが言葉を失った。
二人の間に流れた、あまりにも長く、あまりにも残酷な空白の時間。
お互いがお互いを想いながら、その愛ゆえに「相手は別の誰かを愛している」という錯覚に囚われ、自らその手を離していたのだ。
リリアは、アリアの持つ無色の力への無意識の羨望や、リーゼンバーグ侯爵家の名誉を守らねばならないという義務感、そしてそれらが生んだ歪な打算から、今、初めて解き放たれた。
目の前にいる、自分を道具としてではなく一人の女性として見つめてくれるアーサーの温もり。その真実の愛に触れ、彼女の瞳からは堰を切ったように涙が溢れ出した。
「ああ……私たちは、なんて遠回りを……」
アーサーは、泣き崩れるリリアをその逞しい腕でしっかりと抱き寄せた。
長年の初恋という名の錯覚、そして絶望という名の闇。それらが今、二人の重なり合う鼓動によって静かに溶かされていく。互いの感情を誤解し、傷つきながら歩んできた道。それは悲しく、けれどこの瞬間のために必要な試練だったのかもしれないと、アーサーは胸の内で感じていた。
「リリア。もう、どこへも行かないでくれ。私の隣で、共にこの国の未来を見てほしい」
アーサーの腕の中で、リリアは力強く頷いた。
二人は、偽りの光ではない、真実の愛と信頼という名の土壌に、改めて小さな、けれど確かな絆の種を植えた。それはこれまでのどんな虚飾よりも美しく、力強い始まりの合図だった。
この時、二人はまだ知る由もなかった。
数年にわたる混乱の収拾と、アーサーが成し遂げる数々の卓越した国政の実績が、民衆と貴族たちに熱狂的に支持されることになることを。
そして、彼が正式にアルカディアス王国の王として即位し、その隣でリリアが真の王妃として、誰よりも慈愛に満ちた光で国を照らす存在になるという輝かしい未来を。
今はただ、夕刻の光の中で、二人は失われた時間を取り戻すように、静かに寄り添い続けるのだった。




