52話 魔力過多の真の理由
カイルの魔力過多が、単なる先天的な体質ではなく人為的な悪意によるものだと疑い始めたのは、アリアが精霊王や妖精王と契約を交わし、カイルの魔力がかつてない静寂を得た後のことだった。
アリアの持つ無色の聖女の力は調和の極致であり、その源流に触れることで、魔力の核に刻まれた微かな違和感さえも否応なく露わになった。
ある夜、共に過ごす静かな時間の中で、アリアはカイルの魔力がこれまでになく穏やかに循環していることを感じていた。
その調和が深まった瞬間、彼の魔力の源流の奥底に、澱のように淀む異質なエネルギーの塊が、否応なく浮かび上がってきたのだ。
「カイル様……貴方の魔力は今、確かに安定しています。ですが、その源流に……私とは異なる、不調和で不吉な力の痕跡が視えます」
「不調和な力……? それは何のことだ、アリー」
驚くカイルを案じながら、アリアは精霊王シルフィアの助力を仰ぎ、その異質なエネルギーを解析した。
そこで判明したのは、戦慄すべき事実だった。
カイルの異常な魔力過多は、代々のローゼンベルク家の魔力回路に細工された、極めて卑劣な呪いの結実だったのだ。
アリアとカイルは、妖精王ティターニアスに真実の究明を請い、精霊たちのネットワークを通じて王城の禁忌書庫に眠る、歴史から抹消された秘密の記録へと辿り着いた。
そこに記されていたのは、約200年前、ローゼンベルク家が王家との政略結婚を、辺境の独立性を守るために拒絶した際の不穏な記録だった。
当時の王家は、辺境の守護者であるローゼンベルク家の強大な武力と魔力を恐れ、彼らの血統が
『王家を凌駕するほど強大だが、いずれ自壊する力』
を持つよう、特殊な呪術を施したのである。
それは魔力を抑えるのではなく、逆に
「魔力の生成を異常増幅させ、制御不能な飽和状態に追い込む」
という残酷な呪いだった。
この呪いは世代を重ねるごとに密度を増し、カイルの代で最も激しく発現した。
王家の狙いは、ローゼンベルク家を自滅させるか、あるいは制御不能な怪物となった彼らを討伐するという大義名分を得て、辺境の地を完全に王家の直轄地として奪うことに他ならなかった。
「……アルフレッド王子は、この呪いの詳細を知っていたに違いない。だから、魔力暴走によって私が自壊するのを待ち、ローゼンベルク家を合法的に取り潰そうと画策していたのだ」
カイルの黒曜石の瞳が、静かな、しかし苛烈な怒りに燃え上がった。
さらに、アリアの解析は、カイルの両親の不審な死の真相をも暴き出した。
十年前。
辺境の地下深くに潜んでいた古代の魔物が目覚めた際、父・ユリウス前辺境伯は領地を守るため、自らの命を賭して魔物を討った。だがその魔物を打ち倒したその時、ユリウスは王家の呪いを増幅させる致命的な魔力的負荷を受けてしまう。
ユリウスは最期、魔力を暴発させることなく、自らの命を楔として呪いを封じ込めることで、なんとか愛する息子へと家督を繋いだ。
その父上の急逝により、カイルはわずか15歳で当主の座を継ぐこととなった。
しかし、父上の死と同時に、それまで抑え込まれていた呪いがカイルの中で一気に活性化し、激しい魔力暴走が始まった。
母上であるアンジェリカは、夫を亡くした悲しみに暮れる間もなく、若き当主となった息子の暴走を目の当たりにする。
彼女はカイルを守るため、その破壊的な魔力の奔流を自らの身体へ逃がし、肩代わりし続けた。
その結果、アメジストの瞳を曇らせ、心身ともに衰弱し尽くしたことが、彼女の死期を早めた隠された原因だったのだ。
「私の……私のために、父上も母上も犠牲になったというのか……!」
「違います、カイル様。貴方のせいではありません。すべては、この呪いを仕掛けた者たちの罪なのです」
震えるカイルの手を、アリアは強く握り締めた。
守護者としての誇り高い死の裏側に隠されていた、王家の悍ましい計略。その真実に触れた二人の前には、もはや和解という選択肢は残されていなかった。




