39話 精霊王・妖精王の顕現 — 天地万物との契約
カイルとアリアの仲が深まるほどに、辺境伯領の魔力の流れはかつてないほど純粋になっていた。
それは、かつてカイルが魔力を放出するために使っていた地底湖が、アリアの絶え間ない祈りと浄化によって、領地中の水脈を司る聖なる地底湖へと生まれ変わったからであった。
ある夜、アリアがその地底湖で万物の調和を司る静謐なる祈りを捧げていると、澄み渡った水面が穏やかな金色の光を放ち、精霊王シルフィアが顕現した。
その姿は、絶え間なく変化する光と風が混ざり合ったような、幻想的なものだった。
『我は精霊王シルフィア。おお、久しい……。これほど純粋に、世界を整える力を持つ者は珍しい。そなた、名は何と申す。』
「アリア・ローゼンベルクにございます。精霊王シルフィア様お初にお目にかかります。」
アリアはそのあまりの神々しさに畏怖の念を抱き、その場に跪いて深く頭を下げた。
『そなたの力は、ただ汚れを払うだけではない。混乱した力を整え、死んだ土地を蘇らせる力だ。そなたがこの地底湖を清め、領主の巨大な魔力を正しく水脈へ流したことで、我ら精霊たちも力を取り戻した』
精霊王は、アリアに正式な協力を提案した。
『我らはそなたと約束しよう。そなたが生きる限り、精霊界をあげてこの地の水や土を健やかに保とう。その代わり、そなたはこれからも精霊たちの声を聴き、それを領主へと伝え、人と自然を繋ぐ架け橋であれ』
アリアは、領地とカイルの平和を確固たるものにするため、迷うことなく応じた。
「承知いたしました。私は永遠に精霊界の友となり、皆様と領主様を繋ぐ架け橋となりましょう」
契約が結ばれた瞬間、アリアの赤紫からピンクへと移ろう瞳が虹色の光を放ち、その聖女の力は水脈を通じて領地の隅々まで行き渡った。
翌日、今度は城内の宝物庫で不思議な現象が起きた。
カイルが中に入ると、そこには無数の輝く妖精たちが集まっており、中央には威厳ある小さな王、妖精王ティターニアスが立っていた。
妖精王は、カイルの黒曜石の瞳を見上げ、そっと問いかけた。
『我は妖精王ティターニアスなり。人の子よ、そなたの魔力は強大だが、我らが守る『富の豊かさ』や『秩序ある時間』の大切さを理解しているか?』
アリアとの繋がりにより妖精や精霊の声が聞こえるようになっていたカイルは、冷静に応じた。
「私はカイル・ローゼンベルク、この領地の主だ。妖精王ティターニアスよ。私の魔力は、妻アリアのおかげで安定している。今は、この領地の平和を守るためにその力を使っている。秩序を乱すつもりはない」
妖精王は満足げにニヤリと笑った。
『ならば約束しよう。そなたの魔力を、領地の管理や城の結界を維持するために提供せよ。それが領主としての務めだ』
カイルは、自分の力がこの領地を支える絶対的な柱になることを決意した。
「受け入れよう。私の魔力は、ローゼンベルク領の秩序と豊かさを守り続けるために使う」
『よかろう。だが、もしそなたの愛が冷めて魔力が乱れたなら、この約束は消える。良いな?』
「私の愛は永遠に揺るがない」
契約の瞬間、カイルの瞳は一瞬だけ精密な歯車のような金色の光を帯び、城を守る結界がさらに強固になった。
カイルはすぐにアリアの元へ戻り、契約の経緯を説明した。
「アリー。精霊王が地底湖の水脈を通じて大地を守り、妖精王は私の力に秩序を求めた。これで、この地の自然も人々の暮らしも、すべてが完璧に守られることになった」
アリアはカイルの手に自分の手を重ね、微笑んだ。
「カイル様。これで私たちは、この土地そのものと固い絆で結ばれましたね。私たちの愛が深く揺るぎないものである限り、この領地はどんな力からも守られる最強の聖域になります」
こうしてローゼンベルク領は、二人の愛を礎として、大陸で最も豊かな聖域へと進化していった。




