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【全年齢版】呪われた辺境伯と無色の聖女  作者: 真紅愛


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36話 カイルの嫉妬とアリアの嫉妬


 

アリアと共に寄り添い日々を過ごすなかで、カイルはアリアに夢中になりすぎて、時折、公務をおろそかにしそうになるほどだった。


アリアの侍女となったのは、城で長年勤める聡明なミラという女性だった。


ある朝、ミラがアリアの身支度を手伝っている最中に、カイルが我慢できずに部屋に入ってきた。


「アリア、おはよう。……今朝はどうにも君への愛しさが抑えられなくてな。我が領地の安定のためにも、早急に今日最初の儀式(充電)を執り行いたいのだが……構わないだろうか?」



(……よし、ミラの前で今の言い方は公的な感じがしたはずだ! だが本音を言えば、さっき朝食の席で別れた瞬間から君が恋しくてたまらない。魔力のせい? 違う、ただ君の顔が見たいだけだ! 近くにいたい、笑顔を見たい……!)



カイルは、公的な場では威厳があるが、アリアの前では抑えの効かない愛情をむき出しにした。ミラは、冷静にカイルに向かって頭を下げた。



「おはようございます、ご主人様。辺境伯夫人には、本日は領地の女性たちとの交流会がございます。公務を優先なされてください。ご主人様の過剰なご愛情は、夫人の身支度の進行に影響を及ぼしますゆえ、節度をお持ちくださいませ」



カイルは、ミラの忠告に「グッ」と言葉を詰まらせた。彼の愛がアリアの時間に及ぼす影響を、彼女は正しく理解している。



「くそっ、わかっている。だが、貴様とアリーの、その距離の近さに、私は嫉妬しているのだ、ミラ」



カイルは本音を漏らした。アリアの世話をする特権を、自分だけで独占したいという子供のような欲求だった。アリアはクスッと笑った。



「カイル様、ミラは私の大切な侍女です。それに、ミラが私を綺麗にしてくれることで、カイル様にもっと喜んでいただけるのですよ?」



その言葉に、カイルは嫉妬を引っ込め、しぶしぶ執務室へと向かった。 


ミラはそんなカイルにため息をつきつつ、そっとその背中を見送った。



(……まったく困ったものですね。でも……ようございましたね、カイル坊ちゃま)



ーーーーーーーーーーーー

カイルの侍従長であるマティアスは、カイルが魔力過多で苦しんでいた時代から仕える、真面目一徹の壮年の男だった。



ある日の夕食後、マティアスはカイルに対し、新しく整備する街道の物流計画と、それに伴う特産品の流通ルートについて説明していた。カイルは全幅の信頼を寄せるマティアスの進言に、身を乗り出して熱中していた。



アリアは、二人の間に割って入るわけにもいかず、少し距離を置いてその様子を見ていた。



(カイル様は、私と話すときよりも、マティアスと話すときのほうが、真剣で楽しそうだわ……)



カイルがマティアスの肩を叩き、



「ありがとう、マティアス! お前のおかげで、また一つ解決した!」



と笑ったのを見て、アリアは胸の奥がチクリと痛むのを感じた。



そこへ、お茶を淹れに来た侍女のリネットが、アリアの表情を見てそっと寄り添い、耳元で囁いた。



「奥様、大丈夫ですよ! ご主人様がこうして公務に集中できるのは、奥様がそばにいてくださる安心感があるからこそなんですよ」



同世代のリネットの優しい気遣いに、アリアは少しだけ救われたような気がして、小さく微笑み返した。



「それに…………(いつもどんなときも奥様を目で追って蕩けるようなお顔をされていて! こちらがその熱にあてられてのぼせそうだと一同嬉し恥ずかしつつ見守らせて頂いてますっ)」



と、さらに小さな声で囁かれたその内容に何も言い返せず赤面するアリアだった。



その夜、私室のソファでアリアはしょんぼりと小さくなっていた。


その様子を見て、カイルがアリアを愛おしそうに抱きしめながら、


「アリー、どうした? 何かあったのか?」


と問うと、アリアは少し拗ねたように言った。


「カイル様……。マティアスとのお話は、私とのお話よりも楽しいですか?」


カイルは目を丸くした。


「アリー、何を言っているのだ? マティアスだぞ? …………もしかして嫉妬したのか?」


「だって、カイル様は、あんなに嬉しそうな顔でマティアスと話していました……私と一緒にいるときよりも」


カイルはついに吹き出してしまった。


「アリー。マティアスは、これまでも共に領地を支えてくれた信頼のおける家臣だ。そして、アリーは、私の唯一無二の番だ。比べることなどできない。だがアリーの嫉妬は………私には最高のご褒美だ」


カイルはそう言って、アリアの頭をわしゃわしゃと愛おしそうに撫で回し、マティアスとの会話では決して見せない、デレデレにとろけた笑顔を向けた。



「君が私を想って焼く嫉妬なら、いつだって大歓迎だ」



その言葉には、一点の曇りもない。


ただ純粋に、アリアに愛されていることが嬉しくてたまらないという、少年のように無邪気な喜びが溢れていた。


(ああ……敵わないなぁ)


カイルの真っ直ぐな愛情に、アリアの胸にあった小さなモヤモヤは、瞬く間に幸福な温もりへと変わっていく。


アリアは嬉しさと少しの恥ずかしさで頬を染めると、カイルの肩に、ことりと額を預けた。


「……ずるいです、カイル様。そんな風に言われたら、怒れなくなってしまいます」


「ははは、怒っていた顔も可愛かったぞ?」


「もう……! ……大好きです」


「ああ、私もだ。愛しているよ、アリー」


二人は顔を見合わせて笑い合い、ぎゅっと互いを抱きしめ合った。


アリアの抱いた小さな嫉妬は、カイルの大きな愛に包み込まれ、二人の絆をより深く、甘く確かなものにしたのだった。




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