32話 感情の高まりと制御されぬ魔力
カイルとアリアが心からの絆で結ばれて以降、カイルの魔力は安定し、その体躯もかつての勇猛で美しい姿を取り戻した。
心身ともに充実し、本来の力を余すことなく取り戻したカイルなのである。
もはや、命を削るような魔力暴走の脅威に怯える必要はない。
しかし、それゆえに新たな悩みも浮上していた。
それは、魔力とは本来、抱く感情の強さに比例して増幅するという性質ゆえであった。
カイルにとってアリアへの愛は、かつて抱えていた絶望と同じか、あるいはそれ以上に強烈な情熱だ。
想いが深まるほど、その感情に呼応して、彼の魔力は無意識のうちに活性化し、溢れ出しそうになってしまうのである。
ある夜、執務を終えたカイルが、寛いでいるアリアを愛おしみ、その身を背後から抱き寄せた時のことだ。
「アリー……ああ、私の愛しい人」
アリアの温もりを感じ、彼女が自分の腕の中で安らいでいると実感するたび、カイルの心は歓喜に震える。
すると、その心の高揚に共鳴するように魔力が一気に高まり、抱きしめる腕に、本人が意図しないほどの力がこもってしまうのだ。
「カ、カイル様……っ、く、苦しい、です……」
アリアが微かな声を漏らすと、カイルはハッと我に返り、弾かれたように腕を緩めた。
「す、すまない、アリー! またやってしまった……!」
カイルは蒼白になり、自分の大きな手を見つめた。
アリアを壊れ物のように大切に守りたいと願っているのに、魔力が勝手に力を増幅させ、アリアを優しく守るはずの腕が、想いの強さゆえに加減を失ったものになってしまうのだ。
それは、日常の些細な触れ合いにおいても同様だった。
「カイル様。……あのように強く抱きしめていただけるのは幸せなのですが、もう少しだけ、手加減をしてくださいませ」
アリアが困ったように、しかし愛おしげに告げると、カイルは心底申し訳なさそうに眉を下げた。
「アリー……本当にすまない。君への愛おしさが増すと、感情に引きずられて魔力が自ずと溢れてしまうのだ。君を傷つけまいと、常に意識して抑えているつもりなのだが……心が昂ぶると、どうにも制御が効かなくなる」
カイルが謝罪しながら、慰めるようにアリアの頬を撫でようとしたその時。
愛しいという心の動きに反応し、指先から漏れ出た微かな魔力が、バチリッと青白い火花を散らした。
「きゃっ」
静電気のような衝撃と共に、アリアの柔らかな銀髪がふわふわと逆立ち、周囲の空気がカイルの情熱を反映してビリビリと震える。
すると、どこからともなくクスクスという笑い声が聞こえてきた。
庭先や窓辺に潜んでいた妖精たちが、その光景を見て囁き合っているのだ。
以前なら気づかなかったその声を、今のカイルははっきりと聞き取ることができた。
『あはは! 辺境伯の愛は、まるで真夏の嵐だね!』
『感情があんなに熱いんじゃ、魔力だって大人しくしてられないよ!』
カイルはばつの悪さに、自嘲気味に息をついた。
「……妖精たちにまで笑われる始末だ。アリー、君がこれほどまでに愛と献身を持って私を受け止めてくれることに感謝すべきなのだろうな。だが、私の感情が君を壊してしまわないか、それだけが怖くてならない」
自身のあまりに重い愛と、それに呼応する強大な魔力。
それに怯えるカイルの手を、アリアは両手で優しく包み込んだ。逆立っていた髪が、彼女の浄化の力でするりと元に戻る。
「ふふ、大丈夫ですよ、カイル様。私の役割は、貴方のすべて――その溢れるほどの情熱さえも、まるごと受け止めることなのですから」
アリアは優しく笑い、再びカイルの広い胸に顔を埋めた。
「貴方のその熱こそが、私を温めてくれるのです」
その言葉に救われ、カイルは今度こそ、高まりすぎた想いを必死に理性で抑えながら、宝物を慈しむようにそっと、優しく彼女を包み込んだ。




