29話 番の舞踏— 精霊と妖精の祝福 —
舞踏会の幕開け。
静まり返った会場で、カイルはアリアに優しく手を差し伸べた。
「アリー。行こうか。私たちがどれだけ幸せで、満たされているか……皆に見せつけるぞ」
「はい、カイル様。喜んで」
アリアがその手に自身の指を重ねると、カイルは彼女をエスコートしてフロアの中央へと進み出た。
音楽が流れ出し、二人がゆっくりと踊り始める。
カイルの動きは力強いが、アリアの腰に添えられた手は驚くほど優しく、二人はまるで一つの生命体であるかのような完璧な調和を見せていた。
彼らがステップを踏むたび、その周囲には目に見えない魔力と生命エネルギーの循環が生まれていた。
カイルの白銀の装いからは、安定した強大な魔力が静かに流れ出し、アリアの黒曜石のドレスがそれを吸い込むように受け止める。
すると、その魔力は彼女の体を通じて瞬時に浄化され、空間を優しく包み込む「無色の光」へと変わっていった。
その瞬間、会場の空気が震え、誰もが自分の目を疑う光景が広がった。
窓の外から、あるいは壁や床の隙間から、淡く輝く光の粒が次々と溢れ出し、フロアを埋め尽くしたのだ。
それは、本来ならばアリアのような高い資質を持つ者にしか見えないはずの精霊や妖精たちだった。
二人のあまりに清らかな魔力の共鳴に誘われ、精霊たちはこの瞬間だけ、誰の目にも見える光の姿となって顕現したのである。
彼らは二人の完璧な調和を祝うように、ダンスの軌跡に合わせて光の輪を描き、空中にキラキラと輝く光の尾を残していった。
「……見える、精霊が見えるぞ!」
「なんて神々しい……。精霊や妖精たちが、あんなに楽しそうに踊るなんて」
列席していた北地の貴族たちは、その神聖な光景に心を洗われ、思わず涙を流した。
その光に触れた者たちは、長年の疲れが癒やされ、凍てついていた心が解けるような不思議な多幸感に包まれていく。
二人の放つ光は、北の厳しい地で戦い続けてきた彼らの胸に、揺るぎない忠誠と希望を刻み込んだ。
一方で、王都からの使者として来ていた、カイルを追い落とそうと画策していた連中だけは、その光景に戦慄していた。
「バカな……ありえない……。魔力暴走どころか、精霊までもが膝を屈するというのか……」
彼らは、自分たちが決して手を出してはいけない真の神域に触れてしまったことを、その視界に広がる光の洪水によって思い知らされ、ただ恐怖に震えるしかなかった。
ダンスの終わりに、カイルはアリアを愛おしげに抱き寄せると、その耳元で熱を帯びた声を囁いた。
「アリー。君は私の人生に現れた、最高の奇跡だ。このドレスの黒よりも深く……私は君を愛しているよ」
アリアは潤んだ瞳でカイルを見つめ、彼にしか聞こえない甘い声で応えた。
「カイル様……。私を導いてくださって、ありがとうございます。私たちはこれからもずっと一緒です。心も身体も、そして魂も……この最北の地で、永遠に結ばれ続けましょうね」
二人の瞳が重なると、精霊たちは一際大きく輝きを放ち、王国の最北の夜を祝福した。
互いの欠けたるを埋め、異なる二つの力を愛で一つに束ねた二人は、闇を包む光、光を抱く闇として、最北の地を永劫に照らす希望となった。




