28話 黒曜石のドレスと無色の光の舞踏会
カイルとアリアが正式な番として結ばれて数ヶ月。
カイルとアリアが真実の結びつきを得てから数ヶ月。
二人の安定と領地の豊穣を祝う大規模な舞踏会が、ローゼンベルク城で開催されることになった。これは、王国の最北を統べる主が揺るぎない力を取り戻したことを、王都へ誇示する場でもあった。
この重要な夜のために、城内の家臣たちは一丸となり数ヶ月前から準備を開始した。
開催を数ヶ月後に控えた、衣装のデザインを決定する場。室内には、領内でも指折りの腕を持つ服飾担当者や、侍女長たちが顔を揃えていた。
担当者が畏まって、カイルとアリアに尋ねた。
「領主様、御衣装はいかがいたしましょうか。やはり当家代々の伝統に則り、黒を基調とした威厳ある仕上がりにすべきかと存じますが……奥様は、どうされますかな?」
問いかけられたアリアは、隣に立つカイルを見上げて尋ねた。
「カイル様。私は聖女として、白や銀のドレスを着るべきでしょうか?」
本来の引き締まった姿を取り戻したカイルは、自信に満ちた黒曜石の瞳でアリアを見つめ、慈しむようにその手を取った。
「アリア。君はもはや、聖女という役割を超えた私の真の番だ。私の闇を包み込んでくれた光だ。だから、当日、貴女には私の色を纏ってほしい。最も深い黒曜石のドレスを。それが、君が私のすべてを受け入れた証だ」
カイルの声は低く、室内全体に響くほど凛としていた。
アリアは感動で胸を熱くしたが、同時に一つの願いが心に芽生えていた。
(嬉しい。私も……カイル様に、私の色を纏っていただけたら……。でも、そのような我が儘を言い出しても良いのかしら……)
アリアが言い出そうとしては言葉を飲み込み、伏し目がちにカイルを伺っていると、彼はその微かな震えを即座に察した。
カイルはわずかに頬を染め、担当者に向かって毅然と告げた。
「それから、私の正装は白銀にしろ」
予想外の指示に、衣装担当者が驚きに目を見開く。
「白銀、でございますか? 領主様がそのような色をお召しになるのは前例がございませんが……」
カイルは少し照れくさそうに、しかし当然だと言わんばかりにアリアを見つめ直した。
「当然だろう? これはアリアの色だ。私が彼女の色を纏うことに、何の不思議がある」
主の心優しい配慮とアリアへの深い愛に、侍女たちが感極まったように
「まあ、ご主人様!奥様ようございましたね」
と感嘆を漏らし、アリアの瞳には一気に喜びの光が宿った。カイルは少し決まり悪そうに視線を一瞬逸らしたが、再び愛しげにアリアを見つめ返し、その手は優しくアリアの手を握り締めていた。
そして、丹念に仕上げられた衣装に身を包んだ二人が、ついに当日を迎えた。
アリアは闇夜を映したような美しい黒曜石のシルクドレスを纏い、その深い黒は彼女の白い肌と成熟した女性らしい曲線を際立たせた。
一方のカイルは、アリアの純粋な力を象徴する白銀の正装に身を包んだ。彼の引き締まった肉体は、白銀の装束によって一層その強さと威厳を際立たせていた。
二人が会場に姿を現した瞬間、ざわめいていた会場全体が、水を打ったように静まり返った。
列席者たちは、二人の劇的な変貌に言葉を失った。
白銀の衣装に身を包んだカイルは、魔力を完全に御した、彫刻のように精悍で美しい支配者の姿そのものだった。誰もが、彼が安定した最強の辺境伯となったことをその姿から悟った。
そしてその隣、黒曜石のドレスを纏うアリアからは、微かだが確かな無色の光が放たれていた。それはリリアのような派手な光ではなく、空間を浄化し、調和させるような、静謐な輝きだった。
互いの色を交換したかのように見えた、闇を纏う光と、光を纏う闇。
「あれが、魔力暴走に怯えていた辺境伯だと?」
「あの黒のドレスの女性が、できそこないと呼ばれた聖女……?」
驚愕と畏怖の混じった囁きが、会場を波のように伝わっていった。




