24話 初心な二人の恋模様
あの口づけと、結魂の儀式を経て、二人の関係は静かに、しかし確かに変わり始めていた。
魔力暴走を抑えるための繋がりを超え、互いに心から惹かれ合う恋人同士へと。
世間的には婚姻は既に済んでいる夫婦なのだが、全てが後手に回っている二人にとって、とてもかけがえのない日々でもあった。
カイルは、本来の姿へと開花したアリアの清らかな美しさに、完全に心を奪われていた。
以前は、彼女を魔力暴走を止める希望として切実に求めていたが、今は、彼女の優しさ、芯の強さ、そしてその可憐さに、純粋な愛しさを感じていた。
しかし、彼は儀式という特別な理由以外で彼女に触れることを、極端に恐れるようになった。
本来の身体を取り戻した今、彼の中では、愛する妻をこの腕で抱きしめ、その温もりを確かめたいという、一人の男としての切実な想いが溢れ始めていた。
だが、その想いは理性を揺るがすほどに熱く、彼は自分の抑えきれない情熱が、彼女を怖がらせ、傷つけてしまうのではないかと、自らの内にある強すぎる力を恐れていた。
一方、アリアもまた、カイルの本来の姿と、自分をただの浄化の手段としてではなく一人の女性として大切に扱う誠実さに強く惹かれると共にどこか焦れったくもあった。
(やっぱり私には女性としての魅力はないのかしら………なんて!何を考えてるの)
そう独りごち頬を赤く染める日もあった。
彼女は、王都では誰にも理解されなかった、幼い頃からの秘密をカイルに打ち明ける決意をする。
だが、その胸中は激しく波立っていた。見えないものについて語るたびに気味の悪い娘、できそこないの妄想と蔑まれてきた記憶が蘇る。
もし、敬愛する彼にまで変人だと思われ、軽蔑されたら――。その恐怖に足がすくみ、喉が震えたが、今の彼になら本当の自分を知ってほしいという願いが勝った。
「辺境伯様……。私のこれまで秘密にしていたことを聞いてください。…………………私の周りには、いつも精霊たちがいます。……どうか、変な女だと思わないでください。私には、彼らが見えるのです。彼らは、貴方様がどれほど優しく、この領地を愛しているかを知っています。だから……私も、知っているのです」
アリアは、拒絶を恐れて俯き、組んだ指先を白くなるほど強く握りしめた。
しかし、カイルの反応は、彼女の予想とは全く異なるものだった。
彼は驚きに目を見開いた後、この上なく優しく、そして震えるような喜びを湛えた表情を見せたのだ。
「……アリア嬢、顔を上げて。貴女が、それほどまでの勇気を持って私に心を開いてくれた。そのことが、何よりも嬉しい。貴女を変だなどと思うはずがない。むしろ、私には見えない世界の美しさを語ってくれる貴女を、より深く誇りに思う」
カイルはそっと、彼女の震える手を包み込んだ。その手のひらは温かく、微塵の迷いもなかった。
「貴女は、私にとっての聖域だ、アリア嬢。貴女の存在そのものが、私の魂を浄化してくれる。そんな貴女のありのままを、私は心から尊び、愛している」
カイルの誠実な言葉は、アリアが長年抱えてきた孤独な呪縛を、一瞬で溶かしていった。
精霊たちが見守る柔らかな光の中で、二人は互いの脆さも秘密もすべてを受け入れ、もはや運命から逃れられない唯一無二の番としての絆を、より強固に結び直すのだった。




