18話 共鳴する魂、番としてのその先と結魂の儀式
カイルの魔力は安定しつつあったが、暴走のリスクが完全に消え去ったわけではない。
アリアが幻の番であるならば、正式に番として結ばれることで、その安定は永続的なものになるはずだ。
しかし、カイルには消えない苦い記憶があった。かつて、魔力の受け渡しを試みたある女性が、彼の強大すぎる力に耐えきれず、魔力中毒を起こして命を落としたことだ。
自らの業が招いたその結末は、彼に深い絶望を与えた。
それ以来、彼は他者を犠牲にしかねない魔力の譲渡そのものを、固く封印してきたのである。
(私はもう、あのような過ちを繰り返したくない。ましてや、今の私にとって唯一の光であるアリアを、あのような形で壊してしまうことなど、あってはならない……)
カイルは、アリアを愛おしく思うからこそ、彼女を危険な目に合わせることを極度に恐れていた。
ある夜、カイルはアリアを執務室に呼んだ。
「……お前はこれまでも私を救ってくれた。だが、私はさらに先の安定を……そしてお前を真に守るための、揺るぎない力を得たいと思っている。そのためには、正式に番となる道を探らなくてはならない」
カイルは、アリアの前に一冊の分厚い古文書を広げた。
「だが、以前のような悲劇は二度と繰り返したくないんだ。魔力を結びつける手段は、何も物理的な接触だけではないはずだ。この古文書には、太古の魔術師たちが用いたとされる『結魂の儀式』が記されている。直接触れ合うことを最小限に抑え、魂の深部で互いの存在そのものを結びつける方法だ」
カイルは、真剣な、どこか祈るような眼差しでアリアを見つめた。
「未知の領域だ。リスクもあるだろう。……だが、試してみたいんだ。お前の意見を聞きたい。」
アリアは、カイルの瞳の奥にある迷いと、自分を一人の人間として慈しもうとする優しい心を感じ取った。
「辺境伯様。私は……貴方様と共に生きると決めました。貴方様が望まれるのなら、私はどんなことでも受け入れます。共に、新しい道を見つけましょう」
二人はまず、直接的な接触を伴わない、精神的な結合の瞑想を試みることにした。
カイルが意識的に魔力を解き放ち、アリアはそれを受け止めるのではなく、自身の在り方を静かに整え、魂の深部で互いの存在を認識する。
アリアは静かに目を閉じ、カイルが放つ莫大な魔力の奔流を、魂の外縁で感じ取った。
それは、以前のような苦痛の叫びを伴う嵐ではない。アリアの全身を優しく包み込み、魂を震わせるような、雄大で温かな大河のエネルギーだった。
カイルの魔力と、アリアという聖女の在り方が、互いを映すように響き合う。その純粋な共鳴の中で、アリアはカイルの孤独と深い愛、カイルはアリアの孤独と深い愛の魂の震えに、そっ
と触れた気がした。
(…あぁ。これが結魂なんだな)
(…あぁ。これが結魂なのね)
二人の魂は、確かに同じ場所で、静かに重なり合っていた。




