15話 辺境伯の宣言と王子の嫉妬
カイルは、アリアを背後に庇ったまま、アルフレッド王子とリリアに向き合った。
「アルフレッド殿下、聖女リリア。よく聞け。私はこの数年、死の淵を彷徨っていた。私の魔力は制御を失い、この身体はいつ爆発してもおかしくない状態だった」
カイルの声は、夜の回廊に重く響き渡った。彼は浄化の井戸や生命エネルギーへの変換といった核心的な詳細は伏せ、事実のみを端的に突きつけた。
「だが、アリアは私を救った。彼女を私から奪おうとする者は、例え誰であろうと断じて許さぬ」
アルフレッドは顔を歪め、吐き捨てるように冷笑した。
「そんな戯言が通じると思っているのか! それは魔力中毒に陥った者たちと同じ道を辿らせることと同義――貴様の詭弁に過ぎない! 聖女の素養もない彼女の身体が、貴様のその莫大な魔力に耐えきれるはずがないだろう!」
王子の言葉には、かつて手放した所有物が自分の知らない価値を持ち始めたことへの、どす黒い嫉妬が混じっていた。
リリアもまた、悲痛な面持ちで訴える。
「お姉様、辺境伯様の言うことなど聞かないで! お姉様の命が危ないわ。お願い、一緒に帰りましょう!」
その時、アリアはカイルの巨躯の陰から、自らの足で一歩前へと踏み出した。
彼女は凛とした声で、静かに、だがはっきりと告げた。
「リリア、アルフレッド殿下。お二人のご心配には感謝いたします。……ですが、私は見ての通り廃人になどなっておりません。それどころか辺境伯様のおかげで、私の内に眠っていた月の巡りが、ついに発現したのです」
彼女の頬には、以前にはなかった健康的な血色が灯り、瞳には強い光が宿っている。
「辺境伯様の魔力は、私にとって毒ではありませんでした。むしろ、私の身体を呼び醒まし、救う糧となったのです。私はもはや、王都の誰もが必要としなかった、できそこない、無色の聖女という言葉に動じることはありません」
アリアは自らの意思でカイルの隣に並び、その逞しい腕に自らの手を添えた。
「私は辺境伯様と共にここに残ります。私は、辺境伯様の妻ですから。……辺境伯様の魔力の暴走は、もう二度と起こりません。私が、起こさせません!」
カイルは、アリアの覚悟と迫力に打たれ、深く頷いた。
彼は、自分の隣に立つこの華奢な妻が、どれほど強靭な精神と深い慈愛を持っているかを、今、真に理解した。
対照的に、アルフレッドは言葉を失い、屈辱に震えながら二人を凝視した。自分の管理下で無価値と断じた女が、辺境の地で聖女を超えた輝きを放っている。その事実は、彼の傲慢な自尊心を完膚なきまでに叩き潰した。




