求道者達が追い駆ける星…魁の彗星…赤いキツネ門番長ことプリサイスとは?
21世紀の何時、何故、己が死したかは不明。
魔導銀河帝国歴901年、
西暦6151年、
帝国の女帝
その私兵かつ奴隷として再誕した彼女はその存在を知る。
彼女の名は第6分隊長ハナ・マキバ特例中尉。
語るは帝国の教育係である魂魄式人工知能。
その存在の名はプリサイス・レッドフォックスウォリアートライブ。
ん?どうした第6分隊長?
明日もみっちりだ、早めに寝た方が良いぞ?
何?あぁプリサイスか、語るのは構わんぞ?
まぁもう慣れたものだ、数多いるオレのどれかがどこかでだれかに?
いつも語らされているからな?それほどに人気者だプリサイスは。
興味津々だな?第6分隊長?まぁそう急かすな、
いまでこそアイツのイメージは圧倒的覇者に固定されている。
まぁ当然だな?単身の武力で精鋭師団10個師団102,784名を圧倒できる猛者だ。
その上で軍集団10,279,936名を同時に指揮できるような覇王だからな。
どうやったらそんなことができるのか、
もうオレにはわからないほどだ。
だがな?アイツは元はそうではなかった、
プリサイス・レッドフォックスウォリアートライブ。
その姓が示す通り、アイツは赤狐戦士族の族長の娘だ。10女だがな?
赤狐戦士族、アイツと同じく狐耳に尾そして髪に緋が混じっていれば、
氏族員として受け入れられる、わりと緩い狐獣人氏族だ。
そしてアイツは目に至るまで緋一色だ、
ありていに言えば、まぁいっぱいいるお姫様の1人というやつだな?
ん?それがどうしてあぁなったと?まぁ落ち着け第6分隊長。
追々説明してやるからな?
赤狐戦士族は帝国本土領域外縁にあるセッコ星系アカイナリ星を居住星にしとる。
おっ?気付いたか?そうだ和名だ、氏族長のルーツは日系だ、
まぁ宇宙人類は皆、遺伝子改変薬で子孫をエルフ獣人ドワーフの
いずれかにした結果、それ以外の細かい差異はさほどの差ではなくなったからなぁ。
まぁそれ以前の時点でも、もうだいぶ混じってたりで、
人種論的にはもう判別がつかない状態だった、文化的な残滓が残ってるくらいだな。
でだ、西暦で言えば5003年に赤狐が中心となってセッコ星系に入植開始している。
アカイナリ星のテラフォーミングが終わる5354年までは狭い宇宙居留地生活だった。
そしてプリサイスは5641年生まれだ、アカイナリ星の当時人口は5000万人、
植民当初の氏族人口50万から移民も募らず一致協力してそこまで増やしたわけだが?
獣人の寿命は500年、まだ宇宙居領地時代を知る者も多く存命してたわけだ?
いっぱいいる姫とはいえ、そんな星のお姫様だ、
帝国のエルフ獣人ドワーフ共通成人年齢である40歳までは、
氏族全体でたいそう大事にされていたようだな。
ん?意外か?まぁ人に歴史ありということだな。
ともあれ、知ってのとおりプリサイスは小柄だ、ドワーフ並だからな?
ん?ドワーフに納得できない?ドワーフではなく小人かホビットだと?
うむ、小学生高学年少年少女がドワーフは受け入れ難いということだろう?
オレは諸君ら贖罪兵の記憶からソレを知ってはいるがなぁ…
こればかりは致し方ないことだぞ?
諸君らが何も遺せず死したのは西暦2100年以前だ、
エルフ獣人ドワーフが宇宙人類である始父達に創造されたのは、
西暦2600年の統一歴504年なわけだが…その間は500年だぞ?
同じ言葉でも指し示すモノが変遷して当然の時間が経っているわけだ。
オレや帝国本国人からするとミニサイズ髭もじゃ親父がドワーフなんてのが、
よっぽど受け入れ難いドワーフ観だからなぁ、
これも致し方ない時代感覚の違いとオレは理解しているんだがな?
まぁ始父たちによると、ドワーフの体格は苛酷環境における省エネの追求、
その結果であぁなったらしいんだがな?
ドワーフの名はそうなったがゆえに名づけられたそうだ。
理解したか?だからまぁドワーフ族にあったらその話は止めておけ?
さて話を戻そう、そんな小柄のプリサイスにも、
氏族長の娘としての責務があった、戦闘種族たる獣人種の氏族だ。
当然それは従軍経験ということになるわけだな?
お姫様として大事にされたがゆえに、それは避けられない現実だ。
戦闘種族として創造された獣人種、当然のように門を叩くは地上軍。
小柄であることもマナ適性に優れる狐獣人であるならば問題にならない。
そして志望するは潤沢なマナを有効活用できる火力中隊というわけだ。
21世紀の感覚で言えば砲兵というやつだな、
間違っても白兵戦などはしない、戦場では守られる存在というわけだ、
これも意外か?お姫様で小柄で非力だがマナ適性つまり魔法運用に長ける、
並べてみれば当たり前の配置だろう?
晩年に歴史的覇王級の英雄になるんだと知らなければな?
な?そう言われたならば確かにそうだろう?第6分隊長?
そんなプリサイスの初陣は45歳、一般師団で5年の訓練を経ての西暦5686年だ。
戦場は当時の唯一の実戦場である対ホプル制圧作戦「森林開拓」だな。
敵対星系として当時85星系が帝国領域内にまだ残っていた、
つまりは敵対的植物知性魔法文明の根幹たる世界樹85本の攻略と
その記憶の塊であるコアの奪取がその一般師団の任務だった。
対共和国時に開発された、あのメカメカしい装甲戦闘服で、
同じく対共和国時に開発されたマナ生成弾頭型浮遊野砲を使っていた。
その支援火力の威力と精度は同じ中隊144名の中でも一際高かったらしくてな?
森林開拓完遂後は精鋭師団の火力中隊に転属となった。
ん?そうだろ?順風満帆な軍人エリート街道だろう?
そして西暦5701年、60歳の時から、
北天4時6時8時方向人類圏外ホプル制圧作戦「実戦演習」
その作戦に当初より従事していたというわけだ、
後年に強い縁で結ばれる、あのアリゾナの父と言われたローン、
そう…ローン・フィロソフィル贖罪兵大佐と出会ったのもこの時期だ。
第255拠点艦「アリゾナ」もこの作戦に時折参戦していたからな?
今も昔も贖罪兵の故郷たる拠点艦は惑星侵攻拠点として有用なのだ。
まぁ全長60kmで円筒コロニーさえ内包してる自己完結艦だから当然だがな。
ある意味で牧歌的な時代だった。
1014星系に配備された1014隻の拠点艦は辺境星系開拓に勤しみ…
時折、地上軍の仮宿として戦場に出向きはするが…
そこで目にするのは多少の戦死者くらいのもの、
そう400年かけて1986星系を殲滅して…たったの2813万人だった。
随分と平和な時代だった。
そう思うだろう?その後を知ってしまった第6分隊長?
そして西暦5762年、プリサイス121歳の時だ、
当時アイツは精鋭師団の火力中隊の小隊長をしていた…
そう、この年に始まったわけだ…
未だ続く敵対的機械知性科学文明コマインとの相互殲滅戦争がな?
アイツは地上軍兵士として初戦から戦ってきた最古参だ。
帝国は西暦5110年から…この時の為に準備してきた筈なのに…
その結果は盛大な泥仕合…その尻拭いに奔走した数多の者の1人。
それがプリサイスだ。
そうだ第6分隊長、ここでエリート街道が無価値になったというわけだ。
そして戦場は奇襲で奪われた0オクロックセカンドゲート星系第4第5惑星。
それを取り戻す為に派遣された最初の2億、プリサイスはその内の1人だった。
最初の5年…定員2億の地上兵の戦死者が2億5000万だった…
2万師団を維持するのに2万5000師団を追加投入した…
眩暈がする数字だった…その戦場でプリサイスは生き残った…
いや、厳密には守られた、いや遺された…というわけだ、
火力中隊であるがゆえに。
この5年で所属師団壊滅は5度、
壊滅の度に再編補充されたが、
その度に壊滅する事、4回だ。
最後まで撤退を拒み、
野砲を撃ち続けたがゆえに…
副長に殴られ後送されること5回だ。
これがプリサイスの第1次第4第5惑星攻防戦だった、128歳だった。
これ以降、アイツは殴られても気絶しないようにと鍛錬を始めた。
だが…たいしてそれは役には立たなかった…
気絶しなくとも…もう死ねなかった…
何度も遺されたがゆえに無為に死ねなくなった。
自身の命はもう自身だけのモノではなかった。
ソレは誰かの遺産であり遺言と同義だった。
無駄にすることは許されなかった。
何よりそれは自身だけではなかった。
周囲を見れば殆どが同じような経験をしているのだ。
それが当たり前の光景となる戦場だったんだよ第6分隊長?
そして西暦5801年までに過酷な第4第5惑星攻防戦は第6次まで積み上がり、
その間、仮宿として過ごした拠点艦達は2021隻が沈み、
本国人地上兵の戦死者は20億を超え、
贖罪兵の戦死者も10億を超えた…
精鋭師団の火力中隊だ、
配属師団は常に激戦地に赴いていた。
精鋭なのだから当然の事だ、
その損耗も当然の事だ。
アイツは変わらず対共和国時に開発された、
あのメカメカしい装甲戦闘服で、
同じく対共和国時に開発された、
マナ生成弾頭型浮遊野砲を使っていた。
プリサイスは中隊長になっていた。
気づけば160歳になっていた。
鍛錬は一切怠らず強度を上げながら継続していた。
西暦5801年はそんなプリサイスにとって大きな転機となった、
度重なる戦訓を反映した新たな装備、戦闘装具が支給された。
マナを使って身体能力と防御力を上げる思想の戦闘装具だった。
それは、それ以前の宇宙服と通信機、防弾ベストに緊急脱出スラスタを
単に一体化しただけのモノとは違った、真に戦闘に耐えうる新たな鎧だった。
プリサイスはその可能性に気付いた、
コレを上手く使えば歩兵中隊に…最前線に…
そして自身の本心に気付いてしまったのだ、
アイツは知らず知らずにその背中をずっと追いかけていたのだ、
勝手に自身を置いて死地に赴き散って逝った数多の戦友たちの背中を、
自身もあぁなりたいと願っていたのだと。
この時よりプリサイスの鍛錬は白兵戦含む総合戦闘術の訓練に変わった。
だが現実は常に非情だ、長年の鍛錬の成果もあり、
戦闘装具を着たアイツは精鋭師団歩兵中隊員と互角の戦いができていた、
そうあくまで互角だ…互角でしかない…
火力中隊から抜け出られる程にはなれなかったのだ。
そしてアイツはそれを受け入れつつも訓練を止めはしなかった。
第6分隊長?そう止めはしなかったんだよ…
そんなプリサイスは第5惑星における地下要塞籠城戦に志願した。
泥沼の地上戦に相手を引きずり込み、
宇宙軍の軍備を整える時間50年をそうと悟られることなく稼ぐ
地上軍兵士の命で時間を買うという作戦
この作戦に奏上賛同の署名を入れた1人なのだから当然だった。
そこでアイツは再会をしてしまった訳だ。80年ぶりだった。
再会したのはローンだ。
再会時にはローン・フィロソフィル贖罪兵大佐にもうなっていた。
ローンは西暦5763年に乗る船が無いからと
訓練生のままだったのを理由にされて、
所属する第255拠点艦「アリゾナ」出港時に置いて行かれたのだ、
後方要員と共にな?
その「アリゾナ」は数日後、
攻撃力と数はあるが相対的に撃たれ弱い本土艦隊を守るため、
その身を盾にした拠点艦群の…その先頭にいた。
「我ら此れで贖罪を成す!!」そういう信号機を掲げてな…
受け止めた敵の攻撃は数秒で260Mt融合弾約3万発。
全長60kmの艦体は何一つ残らなかった。
それが84年を共に過ごした彼の多くの仲間達と
思い出多き彼の故郷の最後だった。
そして西暦5764年に、
第1524拠点艦「フェニックス」の初期基幹要員として異動。
超高機動砲艦編隊長として、
生後1年未満の贖罪兵新兵を鍛え上げ共に戦場に赴いた。
数度の艦隊戦で群隊長と数多の部下を喪いながら、
新任群隊長として奮闘するも…
西暦5776年第1524拠点艦「フェニックス」は、
260Mt融合弾約1万発を受け爆沈した。
だが生き残ったローンは折れなかった、
度重なる戦没で人材枯渇気味だった帝国は…
無理を承知でローンに打診したのだ…
新造拠点艦の指揮班長職をやってみないかと…
ローンはそれを受けたのだ…
西暦5778年、
第4424拠点艦「ツーソン」の指揮班長として戦場に舞い戻っていた、
そして同じ辛酸を味わい、
共に最後を看取った者も多い地上兵が自ら望んだ苦闘を、
ただ見過ごすことはできなかったローンは、
地下要塞籠城戦の支援に仲間を説得して志願した。
どうだ?第6分隊長?どこかしら似ているだろう?
さてプリサイスとローンの再会はこうしてなった。
なぜならプリサイスの地下要塞籠城戦期間中における寝床は…
第1防人統合艦隊所属となった、
第4424拠点艦「ツーソン」だったのだからな。
どうだ?第6分隊長?中々に運命的だろう?
だがソレはありふれた関係性だった。
周囲を見ればそんな関係が散見されるような状況だった。
当然だ、そんな作戦を奏上し志願するような面々ばかりが集ったのだ。
どこにも運命性などなかった、単なる必然だったのだ。
ともあれ。お互い変わり果てた二人は、
互いにそうであることを自覚する相手であるため、
距離を無闇に近づけるようなことはなかった。
なにより地上軍はジリジリと苦境に陥っていた、
地下要塞内での戦闘だ、当然のこと屋内戦闘ということになる。
アイツはいつもの野砲を使えなかった、当然だ。
使っていたのはマナ生成弾丸型個人携帯機関銃だった、
周囲もマナ生成弾丸型突撃銃や擲弾筒だった。
そして敵は全高3mや5mなどの多脚戦闘機械や2足歩行機械…
そう、誰も白兵戦をしようなどとは考えていなかった。
地上軍兵士、つまりは帝国本国人はな?
籠城戦開始後5年経ったあたりだった、
プリサイスは非番の日は「ツーソン」のコロニーの
マナ生態系保養エリア内で訓練に勤しんでいた。
それはアイツにとってはいつものことだったが、
「ツーソン」乗員には身につまされる思いをおぼえさせられるものだった。
贖罪兵の彼等にはアイツが165歳になる戦歴120年の古参歴戦兵には見えない、
見た目は諸君らでいう小学高学年くらいの狐耳少女でしかない…
そして戦場の苦境具合は広く知られていた…それゆえに…
人類活動全般一揃いが可能な自己完結艦である拠点艦でソレは造られた。
渡した当人は艦内の知己に頼りまくっただけだが、
ソレを渡そうとしたのは彼女が初めてだった。
彼女はプリサイスの鍛錬仲間だった。
「護身用に使ってくれ、高くついたから生きて帰って返してくれよ」
そう言って渡されたソレは…
思考入力で刀身の伸縮が可能な熱光線剣だった、
「護身用だったら短剣でしょ、伸びたら便利かも?」
という安直な考えだったそうだ。
帝国地上兵にとって長らく距離は可能な限り取るものだった、
白兵戦兵装とは距離を再度取る為の魔法術式や擲弾魔法だった…
そう使い方がわからなかったのだ…
ん?驚いたか?まぁ驚くよな?第6分隊長、それは当然だろうな。
これも致し方なかった、長らく使う必要がなかった。
具体的には西暦2800年から使ってなかった。
まぁ歴史的遺物という一部好事家の知る存在でしかなかったわけだ。
ナイフを除く白兵武器という枠そのものがな?
それ以上の刃物が必要なら魔法で事足りたからな?日常では。
ゆえにアイツは彼女に教えを乞うたわけだ。
彼女は使い方を知らない事に驚きながらも基礎から応用まで、
時間をかけてキッチリと教え込んだのだ。
そしてアイツは…こう思った…
コレは使える…これならば最前線に…
アイツはじっくりとその時を待った…懐に剣を忍ばせながら…
その時は割と早くやってきた、
理由は単純だ、機関銃で盛大に弾をバラまいているんだ、
真っ先に狙われて当然だった、横からの浸透奇襲攻撃だった、
敵に守りは突破され距離も上手いこと詰められた。
アイツはいつもなら擲弾魔法で距離を取るタイミングで…
剣を抜き敵の5m級4脚の懐に飛び込み一閃した…
まさに一閃、一瞬で致命的一撃だった。
周囲の反応は劇的だった…噂が噂を呼び、
白兵武器の有用性が再発見され、
帝国が兵装と戦術全般に遺失知識があることを贖罪兵が知った。
贖罪兵による個人携帯兵装の一大開発ムーブメントが起き、
渡した彼女もプリサイスが還ってきたことを喜んでいた、
ただ1人、アイツだけは表に出さないまま無念を抱えていたんだがな…
そう、まだ足りなかった…剣だけでは最前線は遠かったのだ。
それでもプリサイスは訓練を止めはしなかった。
むしろ更なる研鑽を積み始めた。
贖罪兵から出てくる多種多様な兵装は逐一チェックし、
アイツが自身に合うと感じた得物は実際に鍛錬も積んでいた。
贖罪兵の超古代東西知識で辛うじて苦境を脱した地上軍は、
そこから試行錯誤を重ねながら20年を戦い抜いた。
当然アイツも戦い抜いた。
プリサイスは185歳になった。
未だ精鋭師団火力中隊中隊長だった。
当時、敵味方に戦場革命を強いた装具強化兵装。
籠城戦支援中の拠点艦300隻の総力を挙げて実用化された切り札。
あの「盾ナグール」もアイツの望みは叶えてくれそうになかった。
アイツが求めるのは自身の火力支援をも圧倒する、
比類なき殲滅力であって防御力ではなかった。
それでも盾ナグールの習熟には一切手を抜きはしなかった、
じっとその機会を窺いつつ訓練に勤しみ、
地表へと舞台を移した戦場を戦い抜いていた。
プリサイスにとっての最後の転機。
それは突然やってきた。
アイツは敵についての検証も怠りはしなかった。
ゆえに敵星系に隠密潜入し破壊工作や通商破壊を任務とする、
強襲独行艦が挙げる戦闘詳報をも確認していた。
破壊工作時に敵新型地上兵器も出てくることがあったからな。
そしてとある強襲独行艦の戦闘詳報がオカシイことに気付いた。
たった1機の無人探査機が敵の地上戦闘機械を殲滅しているのだ。
盾ナグール師団でも30個師団は欲しい相手にだ。
メカメカしい装甲戦闘服時代なら1000個師団は欲しくなる相手にだ。
確認すると完全な無人ではなくマナ憑依式遠隔操作の無人探査機だった。
帝国において戦果の詐称は発生しえない。
プリサイスは首を傾げるばかりだったが、
その強襲独行艦の名と探査機の操縦手の名だけは記憶しておいた。
艦の名は「風林火山」操縦手の名は「ウタ・キリサメ」
第221拠点艦「でっかいどう」出身の贖罪兵達が操るフネだった。
自身の情報端末に念の為、ピックアップフラグを立てておいたのだ。
西暦5828年、プリサイスが187歳の時だった。
件の戦闘詳報は一部地上軍で噂の的となった。
同じ敵を相手にしている筈なのに…
この違いはなんなのだと…
それは騒動となり最終的に地上軍司令部が、
強襲独行艦司令部に頭を下げる形で、
各種実戦映像と情報を公開してもらった。
それは衝撃だった…そこに映っていたのは…
隠密理に敵地に潜入し、射撃どころか白兵戦闘いや格闘すらも行い
地上を空中を縦横無尽に80Gで加減速しながら飛び回り、
敵が向けてくる口径25cm砲弾秒速約2000m秒間約6万発内50発は8kt融合弾、
その弾幕と二桁を超える融合弾の火球の中を潜り抜け続けるだけでなく、
自身よりも大きい戦闘機械6万機を相手に的確に撃ち返していく、
…信じ難い化け物だった。
その化け物は…全高29m4脚2腕の機動兵器だった…
全員が思った…ドコが探査機だと!!
オレも思った…なにコレ!!聞いてない!!
オレも含む関係者はてんやわんやとなったが、
プリサイスにはどうでもよい事だった…
アイツはその映像群から離れる事はできなかった…
訓練の合間も戦闘の合間さえも考え続けたそうだ…
あの動きは機体性能だけでは成立しえない…
ではどうやっているのだと…
ソレは自身が最前線に行ける可能性に繋がるのではと…
それを知る道筋は既にあった。
第221拠点艦「でっかいどう」は第1防人統合艦隊所属だったのだ。
そうだ、第6分隊長、同じ艦隊だったんだよ。
プリサイスはまず「ウタ・キリサメ」についての人格情報を必死に集めた。
その容姿から贖罪兵に取り入るのは実に簡単だったそうだ。
ソレを全力で活用し非番時に艦隊内転移ポーターで、
第221拠点艦「でっかいどう」に赴き情報収集をした結果、
とても気難しい猫獣人のようだと思ったそうだ。
難題だった…とても正攻法では教えてもらえそうにないと…
なにより明らかに感覚派だった、
教えるのは酷く苦手なタイプなのはもう明白だった…
この人物を相手にどう教えを乞うか…
プリサイスは暫く呻吟難苦したそうだ。
そして思いついたそうだ、
同じ師団の猫獣人達に教えを乞うならどうするかと…
そう、遊んでもらえばよいのだと。
そう決断したプリサイスは剣をくれた彼女に相談した、
マナ憑依式遠隔操作で動く盾ナグール兵装付き戦闘装具は造れないものか?
そう頼んだのだ。
それ自体はスグに目途が立ちそうだった。
次にプリサイスはあの衝撃映像に喰いついた人物達に手あたり次第接触した。
下は兵から上は大将まで手当たり次第にだ。
「ウタ・キリサメ」の操る盾ナグールに盾ナグールで挑んでみないか?
ただ、そう囁くだけで爆釣れした…あっというまに予算と都合と挑戦者が揃った。
そこに当然のごとく自身も潜り込ませておいた。
これで地上軍側の意志は一つになった。
後は宇宙軍と強襲独行艦司令部だが、
ソコはローンに賭けることにした。
何故なら方向性は違えど似たもの同士、
プリサイスがココまでするなら、
其処には必ずソレが必要な理由があるのだと確信する筈だと。
ならば彼が手を抜くことはあり得ない。
自身がそうであるようにだ。
プリサイスはそう言っていたよ。
ローンは渋い顔で苦笑しながら了承したそうだ。
残念だったな第6分隊長?期待するロマンスは欠片もないぞ?
さて、ローンはその職責を果たした。
見事、教練実習機を用いた対戦の場を整えたのだ。
西暦5830年、プリサイスが189歳の時だった。
まずはアイツが先陣をきった、
場違いな火力中隊中隊長であるがゆえに1番手でなければならなかった、
それはもう一瞬だったそうだ、何をされたかさえわからなかったと…
そして続く50名の猛者も一瞬だった…
後半は10人纏めて相手してもらっても何一つ結果は変わらなかった。
ウタは超ご機嫌だった…
次回は大隊規模で挑戦させてくれと地上軍側がお願いして解散した。
その後の地上軍の面々は超お通夜状態だったが、
プリサイスにとってはどうでもよいことだった。
そしておもむろに各種情報を表示し分析を始めた。
意気消沈する面々の前で解析されていたのはウタの行動情報履歴だった。
そこにはありえない情報のオンパレードが詰まっていた。
プリサイスも含め皆がその事実に目を剥いた。
各種安全機構も身体強化術も防護術も盾ナグールさえも…
ウタはマニュアルで全てをオフにしていた…
必要な時に必要な極小時間だけ必要な部分を必要な出力でオンしていた。
それはつまり全てを見通した上で死のダンスを踊り切っていたという事だった。
身体強化系に至っては安全基準を無視した過大な出力をパルス状に使用していた。
僅かなミスで重症に至るようなことまで平然と乱用されていた。
死の危険のない遠隔操作方式とはいえ踊り切れること自体が驚天動地の事実だった。
地上軍の面々はその事実に絶望した…
過去に地上軍にトラウマを植え付けた帝国初の対外戦争である対鬼軍戦、
身体が完全にマナで構成されてるくせに物理肉弾戦ばかりを押し付けてくる、
あのふざけた白兵戦至上主義者ども以上の存在ではないかと…
だがプリサイスだけには違った、
それは確かな光明だった、ウタは贖罪兵出身。
その身体はある程度戦闘に対応するも汎用的なハイヒューマン体だ、
完全に戦闘に特化している獣人には戦闘面において劣る筈なのだ、
そのウタにできている、そうできているのだと。
であれば自身にもできる筈だ、できない筈がないと考えたのだ。
できさえすれば確実に最前線にいける。
全軍の先陣でさえも夢ではない。
生身でそれをするリスクはもう考慮していなかった、
できさえすれば意味の無い事だからとな?
この瞬間だった
後に求道者達が追い駆ける星…魁の彗星…赤いキツネ門番長
そう称される英雄が生まれたのはこの瞬間だったのだ。
この2年後、プリサイスはウタと1対1で3合交えることに成功した。
それは他の地上兵が2合交えられない中での偉業だった。
それは実際に可能だと示した最初の一歩だった。
もう誰もプリサイスの精鋭師団歩兵中隊転属を阻む事はできなかった。
さらに2年後、プリサイスはウタと5合交える事に成功した。
自身のほかにも3合交えられる者が出てきた。
そして歩兵中隊長となり…自身の単機駆けを前提にした戦術を多用し始めた。
アイツの中隊だけ戦死率が一桁下がった。
さらに2年後、プリサイスはウタと8合交える事に成功した。
自身のほかにも4合交えられる者が出てきた。
そして歩兵大隊長となり…単機駆けする大隊長として有名となり、
盛大に地上軍将兵のヘイトを買った。
その全員を教練実習機による模擬戦で残らず殴り倒した。
さらに2年後、プリサイスはウタと10合交える事に成功した。
自身のほかにも6合交えられる者が出てきた。
そのあまりの無双っぷりに師団長に任じられ、准将となった。
後の赤いキツネ師団の誕生だ。
そしてウタの挑戦者を減らす為、門番長となる。
どのような条件であれ、プリサイスに勝てなければウタには挑戦できなくなった。
一般師団兵がプリサイスに勝つにはもう5個師団が必要だった。
後年、プリサイスの後に続く者は求道者と呼ばれるようになる。
全員が求道者で構成される求道者師団。
たった1個師団で1万師団規模の戦場の天秤をひっくり返せる師団。
最初はたったの1個師団だった。
だがプリサイスの武の成長と共にその数は増え続けていった。
その背中はあまりに魅力的すぎたのだ。
戦場で誰かの背中に守られ遺された者達にとっての救いだった。
そうだな?第6分隊長は既に知っているな?
求道者が当初はウタファンクラブとして運営され、
周りの者にはウタ教信者と揶揄されていたことを
揶揄が真実を突くこともあるというわけだ?
確かに救いだったのだろうと思うよ。
誰も彼もがそんな経験をしていたからな。
とまぁプリサイス。
求道者達が追い駆ける星…魁の彗星…赤いキツネ門番長こと、
プリサイス・レッドフォックスウォリアートライブ。
ソレはできるのだと一合一合証明し続ける武道の探求者。
そうなった動機はいくつもあった。
心暖かき故郷の民を守るため。
戦闘種族氏族長の娘としての責務。
自身を遺して逝った数多の戦友の死の価値を高める為。
自身と同じ遺されし者達に確固とした道を示す為。
自身と同じ経験をする者を減らす為。
周りから見ればそう見えたしソレは事実でもあった。
オレは一度だけ問うた、そしてアイツは答えた。
なぜ?その道を歩める?なぜ?その坂を登れるのだ?
そう問うオレにアイツは答えた。
その先に多くの部下と戦友を救える道が確かにあるからだと…
そして…自身が全軍の最先鋒であれば…常にそうであれば…
自身の前で先にアイツを勝手に置いて逝くものはいなくなるのだと…
ついて来れずに逝くものがアイツの後ろででようと…
最先鋒にいる限り、もう置いて逝かれることはないのだと…
その功績は軍集団長にも届くのに昇進を固辞し続けた。
頑なに師団長に留まり続けたその理由はソレだった。
単機駆けする師団長。
最前線で白兵戦をしながら軍集団を指揮する師団長。
そうなった理由はソレだった。
そうだな、西暦3212年に帝国に魂を売り渡し人類をやめてから、
2900年の長きに渡り帝国を見てきたオレが保証しよう。
事あるごとに本当に人類か?と言われ、
あげくやっぱ人類じゃなかったんだな…と言われるアイツは、
まごうことなき人類だった。少なくとも西暦5830年までは確実にだ。
その精神性は人類をちょっと逸脱してるかもしれんが…
たぶん…おそらく…人類の筈だ…
まぁ…わかるだろ?第6分隊長?ちょっともう規格外すぎるんだよ…




