9話 慟哭
9話になります。
今回は10話と同時投稿になります。
拓海は走っていた。
火照る体に、炎の熱気を取り込み、意識が朦朧としながらも。
「ハァ…ハァ…」
何度も足がもつれそうになりながら、それでも辛うじて踏ん張って走る。
「ハァ…ハァ…おわぁあッ?!」
何かにつまづき、前方に倒れこむ。
「…ぁあああ!」
必死に体をひねり、百合の下敷きになる形で地面に背中をぶつける。
「かはっ…!」
あまりの痛みに、悲鳴を上げる事もできない。
それ以前に、熱と疲労、のどの渇き、精神的ストレスによって、満身創痍の状態であった。
―もう…1ミリも…体が動かない…―
限界を迎えた拓海の頭上から、声が聞こえる。
「非道い有様ですね。生きてますか?」
朦朧としていた意識が、瞬時に覚醒する。
他ならぬ、恐怖によって。
「…が、あああっ!!」
体を起こし、叔父を殺したであろう二人組の片割れを睨みつける。
「おや、案外タフですね」
呑気な反応をする声の主、その顔を拓海は捉えた。
ペンキで塗ったかの様な青黒い肌に、緑色の髪をしたやせ型の男だった。
「ま、そうでなくては困ります。『秘宝』は生け捕りが必須条件ですから」
「お…まえ…!」
何とか声を絞り出す拓海。
「なぁなぁ、こいつはバラして良いのか?良いんだよなぁ?!」
二人組のもう片方から横やりが入る。
見ると、同じく青黒い肌をした少女が、うつ伏せに倒れている百合の顔を覗き込んでいる。
「…!ゆり…ねえっ!」
地面を這いながら、百合の元へ近づく。
「百合姉から…離れろっ!!」
「あ?命令するか?あたいに?」
少女が睨みつけてくるが、構わずに這い寄り、百合の手を取る。
「百合…ねえ…」
「…拓…くん?」
薄く開かれた目が拓海を見つめる。
「拓っくん…どうしたの、そんなボロボロで…?」
「百合姉、これは…」
「待ってて、今拭いてあげるから」
上体を起こし、拓海に近づく百合。
その百合の頭が、落ちる。
「………えっ」
反射的に、両手で受け止める。
そして、目が合う。
「あ…ああ…」
ドサンッという音と共に、頭の無い体が倒れる。
「…どういうつもりですか?」
「生きててムカついた。だから首落とした」
「はぁぁ…。まぁ、『器』は心臓が無事なら問題ないから、ひとまずは良しとしましょう」
頭上の会話は、拓海には届いていなかった。
「あ、ああ、ああ…」
生気が失われていく百合の頭部を抱きしめる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」