5話 体育倉庫
第五話になります。
平和な時間の終わりです。
「ちょっとちょっと、どこまで行くの!?」
「静かに、一目の無い場所まで移動しましょう」
「そ、それってどこまで~?」
「あそこの建物、あの中までひとまず行きましょう」
ソフィアの導きで、拓海と百合は屋外の体育倉庫まで移動していた
「はぁ…はぁ…疲れたよ~」
「百合姉、座りこまないで。叔母さんに怒られるよ?」
「…ひとまずここで良いでしょう」
外の様子を見てから、ソフィアは倉庫の扉を閉める。
「あの、ソフィアさん。ここが火の海になるって?」
「それにお答えする前に、拓海様に確認したい事があります」
「さ、様…?」
「拓海様、ご両親はどちらに?」
心臓を掴まれた感覚に襲われる。
「そ…れは…」
「亡くなられておりますか?」
「あ、ああ…」
「ちょっとソフィアちゃん!」
百合に抱き寄せられ、顔が大きな胸にうずまる。
「そんなことを聞くためにここに来たの!」
「いえ、それが目的では無いですが?」
「なら、こんな事しないで、拓っくんは…」
「ご両親が10年前、勤務先の研究室で起きた爆発事故で死亡。その後父方の祖父母に引き取られるも、その祖父母も5年前に強盗に襲われ亡くなられている。で、宜しかったでしょうか?」
さらっと口にされない様だが、拓海にとっては悪夢そのものであった。
「あ、うあぁぁ…」
「拓っくん、しっかりして!」
「な…何で、そんな事を?僕に…それを言う為に、ここまで来たの…?」
「ごめんなさい、あなたを苦しめるのが目的では無かったのです。ただ、あなたには知る権利があるから…」
「何を…何の権利があって、僕を苦しめようとするんだ…!?」
百合の胸に向かって、心からの叫びを口にする。
「あなたの両親と祖父母を殺した犯人。彼らは同一組織の者達です」
「…同一、の?」
「彼らの狙いは、あなたの左目とそれに関する情報です」
「ひだり…め?」
「ね、ねぇ。さっきから何の話をしてるの?確かに拓っくんの左目は綺麗だけど」
「百合様、この話はあなたにとっても重要な事です。どうか、お聞きください」
百合の胸から顔を離し、ソフィアの方を向く。
「百合姉にも、関係があるって?」
「時間がありません、結論から申し上げます。拓海様の目と、百合様の体は―」
ソフィアの言葉は、扉の外から響く轟音に掻き消された。