09.畑作り、する?
館の中の案内は、お父さまが張り切ってみんなに説明した。
そのあとは、新居に着いたとあって、使用人たちは忙しそうに館の中に入っていた。お父さまとお母さま、そして、弟妹たちも新居の中へ入っていった。
私は特にすることがない。
え? 自分の部屋をどうにかするんじゃないのかって?
それは、私、これでも子爵家の子女だから。
部屋を整えたり、荷物を運んだりなんてことはしない。
私には、子供の頃からマリアっていう名前の侍女がついていて、彼女がきっと今頃私の部屋を整えてくれているはずだ。
もしも私が手伝いに行こうものなら、きっと「これは私の仕事であって、お嬢さまのなさることじゃありません」って言われちゃう。
というわけで、私は今特にすることはない。
多分、お父さまたちも、居間でお茶でも飲んで旅の疲れを取っているのではないだろうか。
まあ、貴族とはそういうものなのよ。
「じゃあ、畑でも整備しようかな。種の状態で王都から持ってきた薬草を早く生やさせたいし」
荷物になるからと、薬の基本になるポーションすらも最低限しか持ってきていない。
急にたくさん必要になっても困るし、アトリエでお客さんに売るならなおさらだ。
私は、一度自分の部屋へと館の中に入り、階段を登って自室に向かう。すると、思ったとおりマリアが私の部屋を整えていた。
「ねえ、マリア」
声をかけると、部屋の中のシーツを整えていたマリアがその手を止める。
「まあ、お嬢さま。どうかなさいましたか?」
「あのね、王都から持ってきた種の入った袋知らない?」
「それなら、廊下の端に置いてありますよ」
そう言われてみて、廊下に出て、隅のほうを探すと、私のメモ書きの付いた袋が見つかった。
「あったわ。マリア、ありがとう!」
「良かったです。お嬢さま、畑仕事も、ローザさまを嘆かせない程度にほどほどになさってくださいよ」
「はーい!」
私は、スカートを翻して階下へと駆けていった。
そして、再び畑にしても良いと言われた敷地に出る。
ちなみに私はあんまりドレスは着ない。せいぜい膝下丈のスカートをはく。職業柄よく動くし、このほうが便利だからだ。
さらに言えば、貴族が錬金術師をやる場合、畑仕事なんかは使用人たちに任せることが多い。だけど、私は特別だから、自分でやる。
──というより。
「来て! 精霊さん!」
私は天を仰いで叫ぶのだった。