08.新居
そうしていると、馬車がゆっくりと止まった。
「さあ着いたよ! ここが新しい我が家だ!」
お父さまがさっそくとばかりに扉を開けた。そして、一番に馬車を降りる。
「くすっ。まぁ、あなたったら。まるで子供みたいだわ」
そう指摘されて、ちょっと居心地悪そうにするお父さま。
そうして家族みんなが順々に馬車から降りてきた。
「んっ、ん。まあ、一ヶ月という期間に間に合わせるために、お父さまも頑張ったんだよ。みんなが住むのに困らないように、何回か早馬で調度品の買い付けや、新居の設計の確認をしたりね。突貫工事で大変だったんだから、労ってくれても良いんじゃないかい?」
そう言って、じゃーんとばかりに新居の前で手をかざして立つ。
その新居は、周囲の屋敷と比べても少し広すぎるくらいに贅沢な広さを持っていた。
──まさか、私が爆弾を爆発させても大丈夫なように用心してのことじゃないわよね。
私は背中に汗が伝うような心地がする。
「ほらほら、こっちが母屋で、あっちが使用人たちの住まい、で、こっちがアルマのアトリエだ」
そう言われて私はお父さまに目を合わされる。
期待に自然と口角が上がっていくのが分かる。
「お父さま、ありがとう!」
私はぎゅっとお父さまを抱きしめる。すると、優しく抱きしめ返された。
そして、互いの腕を解くと私はアトリエに向かって駆けだしていく。
バンッと扉を開いて、まだ木の匂いがする、アトリエの中に入る。
陽光が窓から差し、フラスコやビーカーなどのガラス器具に当たってキラキラと光る。
「ねえ、お父さま!」
私は興奮気味にお父さまを呼ぶ。
「なんだい? アルマ」
私に呼ばれてお父さまが私のいる窓辺にやってくる。
「あそこは畑にして良いのよね?」
貴族の屋敷にしては不自然に花も何も植えられていない、素のままの土地。それがアトリエの隣に十分な大きさで広がっていたのだ。
「ああ、あそこは畑にしていい。途中で薬草を摘んでいたし、そもそも君は王都からたくさんの種を持ってきているんだろう?」
「ええ!」
「じゃあ、たくさん、好きなだけ植えるといい。あそこは、君だけの畑だよ」
お父さまが、私に素敵な贈り物をくれた。まだ耕してさえいない、なにもないそこは、けれど私にはかけがえのない宝物のように思えた。
「お父さま、大好きよ!」
私は再びぎゅっとお父さまに抱きついたのだった。