04.家族会議
◆
「あああ~とうとうやっちゃったのねぇ~」
そう言ってテーブルの上に崩れ落ちたのはアルマの母であるローザだ。
「にゃにがあったの?」
「おねーたまが、ちゅどーん! って」
無邪気に両手を挙げて、「ちゅどーん!」「ちゅどーん!」と言って走り回っているのはアルマの双子の弟妹のペーターとピアだ。
「ローザ。あの子は叱責を受け、マイゼンブーク辺境伯領に行かされることになった。私は……」
言いかけたアルマの父アルフォンスは母ローザの言葉に止められる。
「いいの。分かっているわ。あなたがあの子を見捨てられないってこと」
「ローザ……」
ふたりは見つめ合う。
「私だってそうよ。だってあの子はまだ十五歳の少女に過ぎないのよ。そんな子を、どうしてひとりで放り出せましょうか。……ね? あなた?」
そう言ってローザが微笑みかけると、父アルフォンスが目を細めた。
「ああ、そのとおりだ。……ありがとう、ローザ。君が妻でよかったよ」
そう言うと、アルフォンスはそっとローザを抱きしめた。
「おとうたま、おかあたまだけ、ずりゅい~」
「ペーターとピアもぉ~」
そうして抱き合うアルフォンスとローザの外側から抱きつく。
アルマが上階から戻ってきたのはそんなときだった。
「……みんなで何をしているの?」
◆
そうしてみんなが揃ったところで、みんながソファに座ってテーブルを囲む。
侍女のクララがみんなに紅茶を提供してくれる。
「ありがとう、クララ」
私が、常日頃から細々とした家族のケアをしてくれることに感謝して、そう述べると、彼女は口角を上げてそっと目を細めた。
「これが、私の仕事ですから」
そういうと、しゃっきりと背筋を伸ばして配膳室の方へ消えていった。
「それでだ」
クララがいなくなると、部屋には家族五人と、お父さまの後ろに控えている執事のセバスチャンだけになった。
すると、おもむろにお父さまが口を開く。
「私とローザは、アルマとともにマイゼンブーク辺境伯領に行こうと思っている」
お父さまのその発言に、私は驚きで目を瞬かせた。
「お父さま、これは私の失態で……」
言いかけた私をお父さまが制止する。
「おいで」
そして、私に向かって両手を開いた。
私は腰を上げ、お父さまの方へ行き、その腕の中に優しく抱かれた。
「君は私の大事な娘だよ。君ひとりを遠い辺境へやるだなんて出来るわけないじゃないか」
「でも、お母さまも、ペーターとピアもおります……」
「うん、そうだね。でもね。家族一緒なら、どこでも幸せに生きていけるんじゃないかと思うんだ? どうかな、みんな?」
お父さまが家族を順に見やって発言を促す。
「私は、あなたたちの母親ですからね。一緒に居るのは当然だわ」
そう言うのはお母さま。
「ペーターはねえ。おねーたまと、みんなといっしょが、いいよ!」
「ピアも、ピアも!」
双子たちも諸手を挙げて笑っている。
「ありがとう……!」
私は、泣きそうになって、涙の滲む目尻をそっと手の甲で拭う。
そうして、冒頭へと戻るのだ。