16.久々のドレス
当日の朝早くから仕度をする。
マリアと相談して選んだドレスは、少し前に王都で流行したデザインのものにした。
辺境と馬鹿にしているのではない。郷に入っては郷に従え、慮る、という配慮あってのものだ。
本当はもっと前のものにした方が良いかとも思ってみたのだが、よくよく考えれば私はまだ十五歳。まだ成長中だ。だから、去年のものやその前のものなどを試着してみたものの、微妙に丈が合わず、かといって三日という短期間に開いて丈を直すというのも間に合わずだった。
そうして私が着ているのは、新緑色の瞳に合わせたグリーンのドレス。
ああ、ちなみに、我が国の民は十五で成人する。
だから、確か、十四になったばかりの頃、新成人を控えた子供たちを集めたお披露目を兼ねた昼の茶会が度々開かれていて、そこに着ていったものだった。
そして、髪も今日はただのお下げではなく、マリアに貴族令嬢らしくセットアップしてもらう。
両サイドを編み込みにして、豊かな金髪は下ろしておく。髪が金色でそもそも華やかなので、編み込みの合間に小さなパールが付いたピンをいくつか差し込んでもらう程度に飾ってもらった。
「こんな姿を見るもの久しぶりね」
鏡に映った自分の姿を見て私は呟く。こうして見れば、立派な貴族令嬢だ。
「アルマさまはローザさまに似て元は良いのですから、普段令嬢らしくなさらないのはもったいないってだけですよ。普段はこの綺麗な御髪をお下げに結うだけ、お召しになるのは動きやすさを重視したワンピースだけだなんて、なんてやりがいのない……」
なんて言ってマリアが私の背後で嘆く。
──うーん、そういう意味では、マリアには可哀想なことをしちゃっているのかな。
主人の着付けを始めとした身だしなみを整えるのは、従者や侍女の仕事。
だというのに、当の主人が普段は全く着飾る気がサラサラないのだから。やりがいがないと思っていそうな口ぶりだ。
「……ねえ、マリア」
「はい」
名を呼ばれてきょとんとするマリア。そんな彼女と鏡越しに目を合わせる。
「こんな至らない主人なのに、こんな遠くまでついてきてくれてありがとうね」
鏡越しに、真摯に告げる。
「アルマ、さま……」
みるみるうちに、マリアの眦に涙が浮かんでくる。
「アルマさまぁっ!」
再び名を呼ばれ、私は背後からマリアに抱きしめられる。
「びっくりするでしょう、マリア」
私は私を抱きしめてくるマリアの手をよしよししながら
「そんなことを言われたら、私、感動して泣いちゃうじゃないですかぁ!」
「落ち着いて、落ち着いて。日頃の感謝と、着いてきてくれたことへのお礼をしただけなんだから」
「それが感動するんですよぉ~」
あーそろそろ、せっかく着付けてくれたドレスに皺が付きそう。ここは、感動しきりのマリアを止めないと。
「マリア。あなたの感動はとっても私に伝わったわ。だから、腕を解いてくれないかしら? あなたがせっかく選んでくれたドレスに皺が付いてしまいそうよ」
そういうと、はっとした目をして、マリアがぱっと腕を解き、直立する。
「失礼……しました。つい、感動してしまって」
「私の言葉を喜んでくれたのなら、主人冥利に尽きるわ。さあ、残りの仕上げを手伝って」
「はい!」
そうして私は謁見に向けて身だしなみを整えたのだった。