14.精霊さんたちへのお礼
私は再び母屋に向かう。
精霊さんたちは総じて甘いものが大好き。だから、お菓子やジャムなんかがあれば、きっと喜んでくれるはずだわ!
だったら調理場に行って、そういったものを分けてもらわないと!
そう思って私は調理場に向かう。
「マリア!」
すると、ちょうど調理場に続く廊下で私付きの侍女のマリアに出くわした。
「まあ、お嬢さま。奥さまがおっしゃられるように、子爵家のお嬢さまがそんな風に走るものではありませんよ」
まるで子供に諭すかのように嗜められてしまった。
マリアは私より五歳ほど上の商家から預かっているお嬢さんだ。だから、少し年下でおてんばな私が、たとえ主でも妹っぽく見えるのかもしれない。
私は、私たちのこんな距離感も心地よく感じている。
「はぁい、ごめんなさい。ところでマリア。私、精霊さんたちに畑作りを手伝ってもらったのよ。そのお礼をしたいんだけれど、何か、甘いものとかないかしら?」
そう私が尋ねる。すると、マリアが少し考える。
「精霊さまですか……」
そう言って、にっこり笑って応えてくれた。
「確か料理長のフランクさんが、昨日ジャムを大鍋で煮ていましたし、確か今日はそれを使ってたくさんクッキーを作るんだと言っていましたよ」
「それはちょうど良いわ! 分けてもらえないかしら!」
私は両手をポンと打って、調理場へと走って行く。
「もう、お嬢さま、走っちゃいけませんったら……!」
ごめん、マリア。だって、精霊さんたちを待たせているんだもの!
そうして私は調理場に駆け込んだ。
「おや、アルマお嬢さま。こんなところに急いで駆け込んできてどうしましたか?」
しゃがみ込んでオーブンを覗き込んでいた、壮年で恰幅が良く人の良い顔つきのフランクが立ち上がってこちらに視線を向ける。
「精霊さんにお礼をしたいの。何か甘くて美味しいものはないかしら?」
そう言って私は厨房を見渡した。すると、焼きたてであろう芳ばしい香りを放つ天板の上に並ぶジャム乗せクッキーたちと、大きなジャム瓶たちが目に入ってきた。
「おやおや。さすがにこんな香りを放っていたらお目に留まりますね」
クッキーを乗せた天板のほうへ歩いて行く。
「こちらを持っていくと良ろしいかと。先ほどちょうど熱冷ましの済んだばかりのクッキーです。これなら、アルマさまの精霊さま方も喜んでくださるでしょう」
そう言って、出来たばかりのクッキーをカゴいっぱいに入れてくれた。
「いいの? ありがとう、フランク!」
私が笑顔で礼を告げると、彼もまんざらではなさそうな顔をする。
「ちょうど次のクッキーが焼き上がるところです。それは、ぜひ、お嬢さまのお友達に贈ってあげてください」
「ええ! そうさせてもらうわ!」
そうして私は厨房を出て、母屋をとおって庭へ出ようと駆けだした。
「お嬢さま、そんなに駆けられては、危のうございますよ!」
気遣うフランクの声に、おっとと歩みを緩める。
そうして、歩いて畑までやってきた。
ノームさんたちはまだ畑でごろごろしている。
私はほっとして、クッキーの入ったカゴを見る。
あとはあれね。ポーション作りを手伝ってくれたリーフも呼ばなくちゃ!
「リーフ、さっきのお礼がしたいの。出てきてちょうだい!」
そう言って中空に向かって叫ぶと、ふわりふわりと木々の木陰の合間からさっき手伝ってくれたリーフたちが姿を現わした。
さあ、お礼よ!
「みんな! お手伝い、ありがとう! お礼にクッキーをもらってきたわ。食べてちょうだい!」
私はカゴの中に差し入れられていた赤いチェック柄のシートを地面に敷いて、その上にカゴを置いた。
「これもらっていいの!」
「わぁ! 嬉しいわ!」
ノームたちもリーフたちも、みんな笑顔で嬉しそう。
「たくさんあるから、みんなで仲良く分け合って食べてね!」
精霊さんたちは、みんな次々にカゴからジャムクッキーを持っていき、そして彼らの小さなお口でむしゃむしゃと頬張った。
「あまぁい!」
「ボクのはイチゴジャムだよ!」
「私のはブルーベリー!」
そう言って頬張る彼らはおしゃべりしながらニコニコと笑い合う。
その光景を見て、私の口角も自然と上がるのを感じるのだった。
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