12.ペーターのお熱②
「さて、これから、この百花の蜜を初級ポーションに混ぜるわよ」
私は、まず、百花の蜜が溜まった試験管を試験管立てに差す。その隣に、空のものをもう一本。
そして、道具入れの中からゴーグルを取りだし、それを装着する。これは道具に対する簡単な鑑定機能を発揮する魔道具だ。
そして、ふたつのスポイトを使って、薬瓶と百花の蜜と交互に空だった試験管に足してみた。
ゴーグルを透してみた結果はこれだ。
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【幼児用ポーション】
質:初級の中では高品質
量:足らない
味:甘過ぎ
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そりゃぁそうよね。まだ一滴ずつだもの。ペーターは五歳。五歳児用のシロップを作らなきゃ!
そうして、ちょうど良いあんばいに四苦八苦しながら私はポーションを調合していく。
そのとき、ポロリと口から言葉が零れ出る。
「辛いの辛いの飛んでいけ」
すると、キラキラと試験管の中の液体が輝いた。
そしてそれは、ちょうどシロップが綺麗なオレンジ色になっていた。
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【幼児用ポーション】
質:初級の中では高品質
量:五歳児に最適。愛情いっぱい
味:ほどよい甘さ
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「よし! 出来たわ!」
オレンジ色のシロップを試験管から薬瓶に移し替え、それを手に持って、母屋へと移動する。そして、ペーターの部屋のある二階へと駆け上がる。
私は、はやる気持ちを抑えて、コンコン、とノックした。
「アルマです」
すると、向こうから扉が開けられた。お母さまだ。
「ああ、アルマ。やっと来てくれたのね」
ほっとしたような安堵の表情がその顔に滲む。
「まだお熱が下がらなくてね、苦しそうなのよ。お薬を飲ませてあげてちょうだい」
そう言われたので、侍女のクララに、「スプーンを」と言って、持ってきてもらった。
私はスプーンと薬瓶を手に、ペーターが寝ているベッド脇に行く。
そして、ペーターの横で、膝を突いた。
「ペーター。お姉さまよ?」
「……おねえ……たま?」
頬も赤く、そして汗ばんでいる。額の上にはその熱を冷やすためのタオルが置かれている。
「お薬を飲みましょう? お姉さま、ペーターのために、甘くて美味しいシロップを作ってきたの」
「ぼくの……ために? おねえ……たま? うん、のむ……」
こくり、と小さく頷いて応えてくれた。
私は、薬瓶の蓋を開け、その瓶からスプーンを使って、そうっとペーターの唇へと運ぶ。
「ペーター、飲めそう?」
私は、顔を傾けて彼の顔色を伺いながら尋ねた。
すると。
「うん、あまくて、おいしい」
まだ頬は赤いものの、にっこりと愛らしい笑顔を浮かべてくれた。
「じゃあ、頑張って、全部飲んじゃおうね」
そう会話を交わしていると、お母さまが安堵のため息をつくのが背後から聞こえた。
ずっとペーターを看ていたのだ。気も急いていただろうし、疲れているだろう。
「お母さま、あと残り飲んだら、ペーターもすぐ良くなりますからね」
振り向いてそう伝えると、ほっとしたような笑顔を返してくれた。
そのあとは、一口一口、ゆっくりとペーターにひと瓶飲みきってもらった。
そうして全て飲み終えた。
私は、薬瓶とスプーンをテーブルに置いて、ペーターの額の上に置かれた布に手を乗せる。
「ちょっと温くなっているかな」
私は、その布を取り上げて、側にある水で満たされたたらいの中に入れる。
水はまだひんやりと冷たい。
「早く薬が効きますように」
そう呟きながら私は十分に布を水にくぐらせてから布を絞る。
それから、ペーターの額の上に戻した。
そうして、一刻も過ぎた頃、ペーターの熱もすっかり収まり、目にも生気が戻ってきた。
「やだぁ。もうおねつもさがったんだし、あそびたい!」
「ダメよ。さっきまであんなに高いお熱が出ていたんだから、まだ寝ていなさい」
ペーターがお母さまに口論をしはじめた。元気になった証拠、良いことだ。
私は、それを微笑ましく思いながら、ほっとして部屋をあとにしたのだった。
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