11.ペーターのお熱①
そうして、ノームさんたちに畑を耕してもらっていると、母屋からお母さまが慌てた様子で走ってきた。
貴族の奥方であるお母さまが走るなんて、珍しい。何かあったんだろうか? と私は訝しんだ。
「お母さま、どうしたんですか?」
お母さまが畑にやってきたということは、私に用があるということなのだろう。するとやはりお母さまが何かを探す視線は私の元で止まって、こちらへとやってくる。
「どうしたんですか? お母さま」
「それがね、ペーターがお熱を出しちゃって。長旅で疲れちゃったのかしらね? アルマ、あなたのポーションを分けて欲しいのよ」
「分かりました! 探してきます」
ペーターはまだ五歳。小さな子供だ。十五日も馬車に揺られる旅の疲れが出たのだろう。そう考えながら、私は畑をノームさんたちに頼んでおいてから、急いでアトリエの中に入る。
アトリエの中に入ると、私の荷物のうち、王都から持ってきたアトリエに必要な荷物が全てまとめて置いてあった。もちろん、その中にポーションもある。
ごそごそと、その荷物を漁る。
「あった!」
すると、五個ほどの薬瓶が姿を現わした。中身は初級ポーションだ。
飲めば、ちょっとした熱や風邪なら治せるし、塗ればかすり傷などあっという間に治る。
でも、それを見て私は顔をしかめる。
「子供用のを持ってくるのを思い至らなかったわ」
一番弱い子はペーターとピアだ。子供用のものを真っ先に用意しておかなければいけなかった。
ちなみに、大人用と子供用で中身が大きく違うわけではない。問題なのは味だ。普通の初級ポーションだと、若干の薬臭さがある。大人には、それは我慢してもらっているけれど……。
子供には可哀想。
だから、私はいつもは子供用には甘いシロップ様のものを用意していたのだった。
まあでも、焦らなくても大丈夫か。初級ポーションを元にして作れば良いんだから。
私は薬瓶をテーブルの上に置いて、お父さまが用意してくれた真新しい試験管を手に取った。
「リーフ、来てちょうだい」
すると、緑の羽根を背にしたリーフが現れた。
「あらぁ? 私の出番はまだまだ先じゃぁなかったの?」
そう言って不思議そうにしている。
「ううん。今、あなたの力を貸して欲しいの!」
私はリーフの新緑色の目をまっすぐに見て頼み込む。
今にもペーターは熱を出して苦しんでいるんだもの! 可哀想だわ!
その私の必死さに応えるように、リーフは笑顔で返してくれた。
「分かったわ。何が欲しいの、アルマ?」
「百花の蜜を、この試験管に集めてちょうだい!」
それは、どんな苦い薬だって甘くする、緑の精霊にしか集められない万能の甘露だ。
「了解。みんな、出てきてちょうだい!」
すると、わあっと葉っぱを背負った女の子たちが姿を見せる。
「世界中から蜜という蜜を集めるわよ! それ~っ!」
そうして出かけて行ってしまった。やがて、手に持っている試験管の底から、キラキラと光るものが溜まり出す。これが百花の蜜だ。
そうして、その試験管にたっぷりと溜まる頃、ひとりのリーフが私の前に姿を現わす。
「これで大丈夫かしら?」
「ええ、手伝ってくれてありがとう!」
私は感謝の気持ちを込めて、リーフの頬にちゅっとキスをする。
「じゃあ、またね」
そう言って、リーフは姿を消したのだった。
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