10.精霊の愛し子
すると、どこからともなく五体の精霊たちが現れた。
「「「「「久しぶりじゃないか、アルマ!」」」」」
紅い小さな火トカゲの姿をしているのは、火の力を司るサラマンダー。
「サラマンダー、久しぶりね」
「そうだよ、アルマに会えなくて退屈でずーっと寝ちゃいそうだったよ」
「それは困るなぁ」
よしよし、と頭を指先で撫でて宥めた。
そして、水のドレスを纏い、小さな透明な羽根で飛んでいる女の子は水の精霊のウンディーネ。
「全く。呼び出すのが遅いのよ、退屈しちゃったわ」
「ごめんなさい。お引っ越しとかで忙しかったのよ」
さらに、緑のドレスを着て、透明な羽根を持っている女の子が風の精霊のシルフ。
「お引っ越し? そういえば、前に呼ばれたところと違うわね」
「そうなのよ」
もこ、と土の中からモグラのように這い出てきた、黄色いとんがり帽子を被った男の子たちが土の精霊のノーム。
「あれ? 前の土と違うね」
「うん。これから整備しなくちゃいけないの」
「そりゃぁ大変だぁ」
そして最後に、緑の精霊のリーフ。
葉っぱのドレスと、同じく葉っぱで出来た羽根を持つ女の子。
「畑を整備するの? お手伝いする?」
「うん。今日からはここが私の畑になるから。お願いね」
「分かったわ」
ひととおり挨拶をし終えると、会話の流れからか、これから畑の整備をするということが分かったらしい。
「じゃあまずは土いじりから?」
精霊さんたちの視線がノームひとりに集中する。
「うん。それでお願い。準備が出来たら、みんなを順番に呼ぶわ」
「「「「了解!」」」」
ノームをひとり残して、他の子たちは消えていく。
「ノーム、お願い。仲間たちをたっくさん呼んで欲しいのよ」
「了解! みんな! 出ておいで! アルマのお呼びだよ!」
すると、最初のノームとおんなじ姿の子たちがにょきにょきとタケノコのように生えてくる。
彼らはひとりがノームであり、みんながノームだ。
「畑を、こっち向きに耕して欲しいのよ」
私は身体を使って耕して欲しい向きを指し示す。
私は、種を植えるための畝をたくさん作って欲しかったのだ。
「了解だよ!」
ノームたちが、みんな揃ってピシッと敬礼する。そして、「じゃあ、鍬だね!」「鍬だよ!」と口々に言い、その手にいずこともなく鍬が現れる。
「よいしょ!」
「こらしょ!」
「よいしょ!」
「こらしょ!」
これが貴族の私がひとりで畑仕事をするのを許されている理由。
この、私の精霊さんに手伝ってもらえる力があるから。
この力は、「精霊の愛し子」っていって、とても珍しい力なんだとか。しかも、五種類もの精霊に愛されている私はとっても稀な子なんですって。
ちなみに、私は生まれてすぐ、精霊さんを呼び出して、彼女たちにあやしてもらっていたから、お父さまもお母さまも、それは驚いたそうだ。
そういうことで、他の人にも精霊さんたちは見える。だけど、彼らが彼らの力を貸してくれるのは愛し子だけ、ということなのだ。
そんなこんなで、私は精霊さんたちと一緒に楽しく錬金術をやっている。