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事件簿①「強盗団」

作者: azalea

まず初めに、雇われのドライバーが撃たれた。


ドライバーの頭と胴体が分かれてから約10秒後、乾いた銃声は、アメリカの大地にはよく響く。

「スナイパーだ!」

臆病者デイヴが泣き叫ぶ。

くそったれスナイパーが、俺を殺すことはないはずだが....

「ドライバーがやられたぞ!デイヴ、お前がやるんだ!」

「い、いやだよ!サトウさん....頼む....」

「うるさい!早くするんだ!」

僕の怒号に気圧され、デイヴは涙と鼻水をぐちゃぐちゃにしながらうなずく。

運転手だったものをどかし、彼がハンドルを握ると同時に、視界が180度ほど回った。



「ねえ、スマホ、持ってる?」

制服姿の彼女が僕に問いかけた。

帰路の桜は満開で、きっとすぐ散ってしまうだろう。

「い、いいや。まだ持ってないんだ。高校生になったら、買ってもらえるかな?」

「じゃあ、約束。高校に入ったら、連絡先交換しよう。」

天真爛漫な彼女は、僕の恋人...予定だ。

毎日一緒に帰っていたし。一緒に帰られなかった日は嫉妬で滅茶苦茶になりそうだった。

僕なんかよりも運動も勉強もできる彼女が違う高校へ行くのは当たり前だったし、僕はそれを耐えられるかわからない。

「うん、約束。」

それが最後の会話だった。



目を開けると、いつの間にか僕は外に引っ張り出され、バンを背に倒れ込んでいた。

すぐ横にはこの強盗団で僕に次いで古株のグリーンがいる。

「グリーン。どうなってる....」

いつもと変わらない豪快な笑いで彼は答えた。

「さあな!でもここは荒野のど真ん中で、後方1kmにロボコップ軍団、おまけにどっかにはスーパーロボットスナイパーがいるんだろうな。」

「クソ...!おい、インカムはついてるか?」

「ああ、お前さんの耳にばっちりな。」

インカムを二回叩くと、秘匿回線が開く。

「おい、アリサカ。聞こえるか?」

僕と同郷の彼。ノイズ混じりにナード特有のナヨナヨとした声が返ってくる。

「う、うん!聞こえる!まだECMの設置途中のようだ。だけど、それが終わったら...」

「そんなことはどうでもいい!お前、ここら一体をスキャンしていただろう!あのドライバーにいくら払ったと思ってるんだ!?」

「む、無理だ!今調べたら、そこから半径10km以内の至る所に狙撃手の反応が出ているんだ!依頼主の安物衛星じゃカバーできない範囲だ!この依頼は罠だったんだよ!」


グリーンはおいおい、と項垂れる。

「クソッ....!グリーン、デイヴはどうした!」

「運転席を見ればわかる。ドライバーとデイヴの肉塊を見分けられればな。」

遠くからサイレンの音が聞こえる。

荒涼としたこの地域では、澱みなくその音が伝わる。

ポケットに手を突っ込んで、タバコを探す。

グリーン、お前がタバコに手を出さなかったのは正解だろう。

死が目前に迫っている人間が、最後に成すべき行為ではないだろうな。


「まだタバコを吸ってるの?」

ああ。

「今際の際に?」

そうだ。

「残念だなぁ、私は君に長生きしてほしいのに。」

じゃあどうしろっていうんだ?

「それを考えるのが貴方と私とチームの皆じゃん!」

すうっと息を吸って、吐く。

お前なんか作らなきゃよかった。

「あのねえ、目の前でそんなこと言わないでよ!」

僕の目の前には、からかうようにクルクルと踊っている、あの日約束をした少女がいる。

「君が私を作ったんでしょう。記憶、アリサカさんの技術。...あと卒アルの写真。」

やめてくれ。

「...どうして私を作ったの?」

あるはずのない少女の姿は動きを止め、僕をじっと見る。

「私では彼女の代わりにはなれない。約束を果たす相手にはなれない。」

やめてくれ。

「私の正体は、君の脳に埋め込まれた、縦横僅か3㎟のチップ。もっと細かくいえば、それが翻訳ソフトウェア、「ROPE」のマイクロボットを経由して脳に伝える情報。」

彼女はここが地獄だと言わんばかりに頭に人差し指をめり込ませる。

「確かに、私は君の記憶に忠実に作られている。彼女の動きの特性パターン、言葉一つ一つの癖。君が彼女に向けた感情について発生する電気パターン。」

やめるんだ。

「それは彼女ではない。だって、君の記憶とデータが作り出した幻影でしかない。」

「だって、彼女はもう自殺してしまった。」


「やめてくれ!」


僕が高校に入ってすぐ、期待通りにスマホを買ってもらった。真っ先に彼女と連絡先を取ろうとしたけれど、ごく簡単で致命的な問題があった。

彼女とどう連絡すればいいのか?

彼女の家を知らない。連絡網は無かったし、友達自体多いわけでもなかった。そもそも、誰かに彼女と連絡を取りたいなんて、恥ずかしくて言えたものじゃない。

でも、高校に入って二年ぐらいだろうか、いろんな人を通じて、ようやく彼女の連絡先を知ることが出来た。

そして、彼女が死んだことも知った。


「おい!こんな時にまたガールフレンドとお話か!?ギーク坊やのバックアップがあと少しで到着するぞ!」

我に返ると、サイレンのけたたましい電子音が大きくなっているのに気づく。

こうなることを考えて、もっと装備を持っておくべきだった。

ひっくり返ったバンから装備を取り出す。

念のための防弾チョッキが2枚。タイプⅣだが、あいつらが相手だと心もとない。

護身用のテーザーショットガンが一丁と、自動拳銃が幾つか。

「まったく、最高だな。」

僕は愚痴を漏らし、テーザーショットガンと防弾チョッキ二枚を彼に渡した。


「あれで行くのか?」

グリーンが不敵に笑う。

「ああ。バックアップが来るまでは耐えなきゃならん。」

ここまで酷い状況はなかったけれども、僕には女神がついている。


「また初恋の相手を盾にするつもり?」

いいや違う。あいつらが欲しいのは無傷のAIチップとそれを頭に挿入したイカレ野郎だ。

「過去から目を背けて、やることがそれなの?」

いってろ、人工ファントム。

「呆れた。でもまあ...悪くないかな。ふふっ」

笑う彼女が消えるのと同時に、意識がしっかりと現実に戻される。


あいつらが到着するまでに、僕を盾にするような形でグリーンとワイヤーでしっかりと結んでおいた。

僕を撃てないブリキ共が周囲に展開しようとする前に、グリーンは慣れた手つきで次々と無力化していく。それを援護するように、残った二つの自動拳銃で処理しきれない分を始末する。

ロボ警官共は数が多い分、融通が利かない。


脳に働きかけるアドレナリンが、時間を忘れさせる。

インカムからの声を遠ざける。

気づけば、周囲のロボ警官たちはすべて処理していたようだ。


遠くから古めかしいオイルエンジンの駆動音が聞こえる。とりあえず、今日もインカムの彼は裏切らなかったようだ。


こんな時、スマホがあれば予定を知らせるタイマー機能があったのだろうか。インカム一つよりかは何倍も頼りになるのは違いないだろう。

そうだな、久々に日本に帰りたい。

心のどこかでは、スマホを買った僕を待つ彼女を期待しているから。



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