猫は知っている
僕は△マークのボタンを押す。
やって来たそのエレベーターの中に、一匹の猫が乗っていた。
エレベーターに猫?
まあそんな日もあるか。
堂々としていて出ていく様子もないので、お邪魔して扉を閉める。
エレベーターは僕と猫を乗せて、階上に進む。
しばしの沈黙。
僕が猫の顔色をちらっと窺うと、呑気にあくびをしていた。
何だか僕も気が抜ける。
気が抜けてついおならが出た。
豪快な一発が小さな空間に響く。
エレベーターは5階で止まる。
一人の女性と入れ替わりに、猫は出て行った。
若くて綺麗なその女性は、入ってくるなり鼻に手をやって、顔をしかめている。
まずい。
慌てて僕も、鼻を押さえる。
とっさに口をついて出るセリフ。
「猫でもおならをするんですね」
扉が閉まろうとする時、猫はこちらを振り返り、僕をぎろっと睨んでいた。