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堕鎮(だてん)

ノアはなかなか眠れず、洞穴の入口に座り星空を見ていた。眠れない時はいつも星空を見ながら風の音や空気の匂いを感じ、いつの間にか寝る。


「眠れないのか。」


洞穴の奥からブレイクがこちらに歩いてきた。


「雲1つない夜空、涼しい風、いい夜だな。」


「うん。まさかこんな大自然の中でこんなに綺麗な空を見れる日がくるなんて、全然思ってなかった。」


2人はしばらく星を眺めていた。


堕鎮だてんのことも今日起きたことも嘘だったのではないかと思われるほど、気持ちのいい空気が流れている。


「世界は変わっても空は変わらない。だから俺空好きなんだ。哨戒のとき以外の暇な時は、だいたいずっと空を見て昔を思い出してる。」


ブレイクはどこか寂しそうな遠くを見るような眼差しで、微笑みながら話した。


「ブレイクは、昔に戻りたい?」


「・・・。まぁ、たまに戻りたくなる時はある。急に周りから人が消えて、気づいたらこんな世界になってて。最初は動揺して、どうしていいか分かんなくて、彷徨い歩いてた。でもなんとか今まで正気保ててたのはハイドがいたからだな。1人じゃなかったから、なんとかなった。」


なんとなく風が冷たくなってきた気がした。ノアはブレイクの気持ちを考えて、もし自分が同じ立場だったら耐えられるか分からなかった。


「そういえば、国王が言ってた俺の異常の原因を知ってそうな人って、どういう人なの?」


「あ〜、説明無かったのか。イヴ様っていって、俺ら生き残りの人間たちのリーダーみたいな人なんだ。ただ、今どこにいるのか分からないんだ。日本にも1人人間がいるんだけど、そいつなら居場所を知ってるかもだから、今からそいつを探しに行くんだ。」


どうやらハイドとブレイク以外にも人間が数人いるらしい。ノアはもっと人間と話してみたく、会うのが楽しみになった。


「じゃあ、俺寝るわ。また明日な。」


「うん。俺はもう少し起きてる。」


ブレイクはのろりと立ち上がり洞穴の奥へ消えていった。


ノアは星空を見上げ、漠然とした不安を必死に押し殺していた。せめて、自分だけでも守れる力があればいいのにと、星に願うのだった。


翌朝、周りの気配や音に注意を払いながら4人は森林を進んだ。


ブレイクが先頭を、続いてノア、最後尾に負傷した騎士を背負ったガブリエルの順で歩いた。天気が良く気持ちの良い気温で木漏れ日が綺麗な道はこのような状況でなければ最高の遠足日和だ。


笑いながら歩き、開けた陽の当たる場所で弁当を食べ、絵を描き、また笑いながら帰る。そんなことがいつかできればいいなと思いながらノアは周囲を警戒し歩き続ける。


その時、ブレイクが歩みを止めた。


「来るぞ!しゃがめ!」


次の瞬間、5匹の堕鎮が飛び出してきた。ノアとガブリエルはブレイクに言われた通りすぐさましゃがんだ。すると数本の鎖が堕鎮を瞬時に一掃した。


「ブレイク!今のいったい、何が起こったんだ?」


ノアは瞬間何が起こったのか理解できず混乱し、ブレイクに尋ねた。


「今のは俺の神器、天の鎖で堕鎮を切り裂いたんだ。」


神器とは普通の武器とは異なり、特別な力が宿る武具のことだそうだ。現在生き残っている人間は全員1人1つずつ神器を所持しているらしい。


「天の鎖で繋がれた者はたとえ神であろうと抜け出すことはできない。繋げば必ず対象の自由を奪う。捕縛する以外にも追跡機能もあるし、さっきみたいに攻撃に応用することもできる。因みにハイドの神器は天の盾といって、あらゆる攻撃や害となるものを弾く能力がある。それで国全体に結界を張り堕鎮から守っているんだ。だからあの国は不落だよ。」


そして、再び一行は歩き始めた。


「ガブリエル、大丈夫?代わろうか?」


「いや、大丈夫だ。お前が背負ったら、お前とっさの動きができないだろう。俺らの役目はお前を無事に日本に送り届けることだ。途中で死なれちゃ、今までやってきたことが無駄になる。だからお前は何があってもたどり着くんだ。それに、俺は国王陛下とブレイクの次に強いんだぞ!1人背負うくらい何の問題もない。」


ノアはつくづく自分には力が足りないことを痛感した。騎士でもない、今まで毎日毎日絵を描いてただただ守られてきた一般市民なのだから仕方がないというのはある。しかし、ノアにとってこの状況でそれはただ痛く苦しい言い訳にすぎなかった。


「分かった。きつくなったら言ってくれ。」


今自分にできることは緊急時にいくら仲間を助けたい気持ちが強くてもただ逃げることだけを考えることなのだと強く思った。


「また来るぞ!離れるなよ!」


ブレイクが叫んだ直後、再び堕鎮が襲いかかってきた。しかし先程よりも圧倒的に数が多い。見えるだけでも50匹以上はいるだろうか。さすがにブレイク1人では捌ききれず、ガブリエルは負傷した騎士をノアに預け、加勢した。


「はああぁぁぁぁああっっ!!!!」


ズシャッザンッバスッザンッ!


ガブリエルの重く鋭い一撃が堕鎮たちを切り裂いていく。


ブレイクとガブリエルの強さは圧倒的で徐々に堕鎮は数を減らしていっている。


これならいける。あと数分でケリが付く。ノアがそう思った直後、堕鎮たちは1箇所に集まり始め融合し、1匹の巨大な黒い怪物と化した。


「なんだこれ、見たことも聞いたこともない。堕鎮が融合するだなんて。そもそも協力のような行動をとる知性なんてないはずだ!」


ブレイクが歯を食いしばり巨大な堕鎮の集合体を睨めつける。


「ガブリエル、ノアとその騎士を連れて今すぐここから離れて、できるだけ遠くに逃げてくれ。全員で逃げ切ることはできないし、このまま応戦すればお前たちを巻き込む。頼むよ。」


ガブリエルは頷き、ノアの背中を叩き走り出す。


ノアもブレイクが勝つことを信じ、走り出した。

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